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第四章 捜査・情報収集
第2話
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安由雷は、一呼吸おいてから、本郷の聴取を続けた。
「返済を延ばしてほしいと言ったときに、馬場さんは簡単に承知しましたか?」
「いいえ。でも、無いものは払えませんから」
「あの日、馬場さんに電話をしましたか?」
「ええ、話があるので二十階に来てほしいと」
「それは何時頃です?」
「午前中ですけど。確か十時頃でしたか」
「それで?」
「ええと、……二十階で、返済をもう少し待ってほしいと頼みました」
これまでの調べから、確かに午前十時半頃に、二人が二十階のレストランホールで話しをしている所を目撃されている。
「その後、電話は?」
「してません」
「午後六時から七時の間は?」
「してません」と、本郷は首を横に振った。くわえているタバコの灰がテーブルの上に飛んだ。
「では最後に。資料を見ると、みなさん午後七時を境に、細かい時間を良く覚えていますが、何か理由でもあるんですか?」
「七時を境に、……ああ、七時に館内放送があるんですよ。それで、その前か後かで、大体の時間を判断してるんじゃないですか」
「あなたも?」
「ええ」
「では、あの日、あなたは何処で、その放送を聞きました?」
本郷は、一瞬はっとしたが、その後ゆっくりと安由雷を見ると、
「多分、あの日は聞いてませんね」
「聞いてない?」
「はい、丁度その時間帯はエレベーターの中だったと思いますから」
「そうですか。どうも、お手間を取らせました」
と、安由雷は立ち上がって、本郷に礼を言った。
本郷もつられて立ち上がると、立ったままで手を伸ばして、タバコを灰皿の中に消した。出ていこうとする本郷と入れ違いに、悠真が部屋の中に入ってきた。
本郷は、それを横目でみると、外に出てドアを締めた。
「先輩、二〇秒位です」
「二〇秒?」
「ええ、誰も乗ってないエレベーターを待って、三回やったんですけど、十三階から一階まで直通で降りると、何処にも止まらなければ、一階までは二〇秒くらいでした」と、悠真の言葉に、安由雷は腕を組んで考え出した。
「という事は、例えば六時五十九分に十三階からエレベーターに乗って、七時の放送をエレベーターの中で聞いて、七時一分位に一階に着くのは、少し時間が掛かり過ぎているか」
「一、二分ですか。ちょっとだけ掛かってますね」
と、悠真は話しを合わせたが、既に自分の中では犯人が決まっていた。
「本郷は、十三階からエレベーターに乗って一階に着くまでに、少し後を下りて来る馬場が乗ったエレベーターが横を通過するまで、何処かに停止をして待っていたのか?それとも何処かに寄り道をしていたのか?」と、安由雷が首を傾げた。
「はぁ?……エレベーターで寄り道ですか」
「ああ、一度一階に降りてから、もう一度上に登り、再び一階に降りてきたとか」
(ふうーん)と、気のない顔で、悠真が安由雷を見た。
「そうだ、捜査資料の中に、ラーメンを食べて帰ってきた二人が、一階でボタンを押した時間は書いてあったか?」
「二人?……ああ、天宮と石川ですね」と、悠真は自分の黒い手帳をめくった。
「えーと、七時前ですね。ボタンを押した後に放送が流れたと。そして、少しして8号機が一階に着いて、男が一人降りて来たと言ってますね」
「一、二分掛かっているから、エレベーターが来るのが遅いとは感じなかったのかな」
「二人とも遅いとは思っていたらしいですけど、五台の高層階用エレベーターがすべて一階から出発したばかりだと、そのくらい待つこともあったとか」
と、悠真が手帳の内容を伝えた。
「そうか」と、安由雷の脳の中の回路が回り始めた。
「ここまでの事実を整理すると、天宮たちが戻って来た七時前に、本郷が十三階から乗った8号機が、一階に一番早く到着するエレベーターだと選ばれたわけか……」
「そうです。それに8号機は一階にロックされていましたから、一階に着いたら二人の待っている目の前でドアが開いてしまうので、さっき先輩が言った、『再び上の階へ行く』ことも出来ませんよね」
「そうだな、それに本郷が十三階から乗り込んだ時に、下ではなく、二十階とかの上の階のボタンを押したとしたら、一階に一番早くくるエレベーターには、選ばれなかっただろうし……」
「そうでしょ。だから、本郷は十三階から、どこへも寄り道をしないで一階へ下りて来たんですよ。その本郷が乗っている8号機の隣の7号機で、被害者の馬場が、少し遅れて下りて来ていたんですから」
と、悠真が両手を握って、左右のこぶしに少し高低差を付けたままで、下へ動かして見せた。
それを見て、安由雷が腕を組んで、ゆっくりと長いまつ毛の目を閉じた。
安由雷の思考が、何かに引っかかったときの仕草である。
「ある意味、アリバイがあるってことか、……まあ、いいや。次を呼んでくれ」
安由雷も、今は考えがまとまらない様子で、次の参考人を頼んだ。
「返済を延ばしてほしいと言ったときに、馬場さんは簡単に承知しましたか?」
「いいえ。でも、無いものは払えませんから」
「あの日、馬場さんに電話をしましたか?」
「ええ、話があるので二十階に来てほしいと」
「それは何時頃です?」
「午前中ですけど。確か十時頃でしたか」
「それで?」
「ええと、……二十階で、返済をもう少し待ってほしいと頼みました」
これまでの調べから、確かに午前十時半頃に、二人が二十階のレストランホールで話しをしている所を目撃されている。
「その後、電話は?」
「してません」
「午後六時から七時の間は?」
「してません」と、本郷は首を横に振った。くわえているタバコの灰がテーブルの上に飛んだ。
「では最後に。資料を見ると、みなさん午後七時を境に、細かい時間を良く覚えていますが、何か理由でもあるんですか?」
「七時を境に、……ああ、七時に館内放送があるんですよ。それで、その前か後かで、大体の時間を判断してるんじゃないですか」
「あなたも?」
「ええ」
「では、あの日、あなたは何処で、その放送を聞きました?」
本郷は、一瞬はっとしたが、その後ゆっくりと安由雷を見ると、
「多分、あの日は聞いてませんね」
「聞いてない?」
「はい、丁度その時間帯はエレベーターの中だったと思いますから」
「そうですか。どうも、お手間を取らせました」
と、安由雷は立ち上がって、本郷に礼を言った。
本郷もつられて立ち上がると、立ったままで手を伸ばして、タバコを灰皿の中に消した。出ていこうとする本郷と入れ違いに、悠真が部屋の中に入ってきた。
本郷は、それを横目でみると、外に出てドアを締めた。
「先輩、二〇秒位です」
「二〇秒?」
「ええ、誰も乗ってないエレベーターを待って、三回やったんですけど、十三階から一階まで直通で降りると、何処にも止まらなければ、一階までは二〇秒くらいでした」と、悠真の言葉に、安由雷は腕を組んで考え出した。
「という事は、例えば六時五十九分に十三階からエレベーターに乗って、七時の放送をエレベーターの中で聞いて、七時一分位に一階に着くのは、少し時間が掛かり過ぎているか」
「一、二分ですか。ちょっとだけ掛かってますね」
と、悠真は話しを合わせたが、既に自分の中では犯人が決まっていた。
「本郷は、十三階からエレベーターに乗って一階に着くまでに、少し後を下りて来る馬場が乗ったエレベーターが横を通過するまで、何処かに停止をして待っていたのか?それとも何処かに寄り道をしていたのか?」と、安由雷が首を傾げた。
「はぁ?……エレベーターで寄り道ですか」
「ああ、一度一階に降りてから、もう一度上に登り、再び一階に降りてきたとか」
(ふうーん)と、気のない顔で、悠真が安由雷を見た。
「そうだ、捜査資料の中に、ラーメンを食べて帰ってきた二人が、一階でボタンを押した時間は書いてあったか?」
「二人?……ああ、天宮と石川ですね」と、悠真は自分の黒い手帳をめくった。
「えーと、七時前ですね。ボタンを押した後に放送が流れたと。そして、少しして8号機が一階に着いて、男が一人降りて来たと言ってますね」
「一、二分掛かっているから、エレベーターが来るのが遅いとは感じなかったのかな」
「二人とも遅いとは思っていたらしいですけど、五台の高層階用エレベーターがすべて一階から出発したばかりだと、そのくらい待つこともあったとか」
と、悠真が手帳の内容を伝えた。
「そうか」と、安由雷の脳の中の回路が回り始めた。
「ここまでの事実を整理すると、天宮たちが戻って来た七時前に、本郷が十三階から乗った8号機が、一階に一番早く到着するエレベーターだと選ばれたわけか……」
「そうです。それに8号機は一階にロックされていましたから、一階に着いたら二人の待っている目の前でドアが開いてしまうので、さっき先輩が言った、『再び上の階へ行く』ことも出来ませんよね」
「そうだな、それに本郷が十三階から乗り込んだ時に、下ではなく、二十階とかの上の階のボタンを押したとしたら、一階に一番早くくるエレベーターには、選ばれなかっただろうし……」
「そうでしょ。だから、本郷は十三階から、どこへも寄り道をしないで一階へ下りて来たんですよ。その本郷が乗っている8号機の隣の7号機で、被害者の馬場が、少し遅れて下りて来ていたんですから」
と、悠真が両手を握って、左右のこぶしに少し高低差を付けたままで、下へ動かして見せた。
それを見て、安由雷が腕を組んで、ゆっくりと長いまつ毛の目を閉じた。
安由雷の思考が、何かに引っかかったときの仕草である。
「ある意味、アリバイがあるってことか、……まあ、いいや。次を呼んでくれ」
安由雷も、今は考えがまとまらない様子で、次の参考人を頼んだ。
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