身から出た錆とはよく言ったもので

蓮実 アラタ

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3 画策

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 今まで散々弄ばれたをすると誓った私は次の日、早速行動に出ることにした。

 今現在私がいるのは、私とアレクシスが通うアレトラス学園。その学園の部活棟と呼ばれる建物の一群。
 そもそもこの学園は生徒の自主性を第一とし、課外活動やフィールドワークを推奨している。

 ここはその一環で、生徒たちが自ら得意分野を極めるために、放課後や休み時間など学園の授業の合間で活動するために与えられた場所である。
 そんな部活棟の三棟ある建物の一番端。一階の少し寂れた区域の奥まった隅にある一室。
 そこが私の用事がある場所だった。

 そこは、紙の山だらけの一室。人の姿がなく、一見無人のようにも感じる。
 しかし私は確信をもって目的の人物の名前を呼んだ。

「キャロル、いるかしら?」

 名前を呼ぶと紙の山の一部がモゾモゾと動き、中から白衣を着た人物が顔をひょこりと覗かせた。白衣はヨレヨレで、埃を被った金髪が肩からだらりと垂れ下がる。

 その人物は不審げに部室の扉の入口を眺めていたが、やがて私の姿を見つけるとぱあっと顔を輝かせた。

「セシルじゃないか! 久しぶりだね! 何、なんの巡り合わせなの? ついにボクに密着取材させてくれる気になったの!?」

 興奮とともに一気にまくし立てるその姿は、変態そのもの……と言いたいところだが、これで一応はこの学園の特待生なのだ。優秀なことには変わりない。

 鼻息荒く近づいてくるキャロルに「まずは落ち着いて貰えるかしら」と冷静に返し、私はキャロルと対面の席に着く。

「取材に関しては……そうね。私が今から言うことを実行してくれたら交換条件で許可するわ」

 本当は少し抵抗はあるが、背に腹はかえられない。
 キャロルは私の「とある噂」を聞き付け、ずっと密着取材したいと願い出ていた。今回はそれを利用させてもらうことにする。
 これでアレクシスに痛手を追わせられるのなら安いものだ。

「うん。うん。飲むよ、その交換条件! んでボクに何をして欲しいのかな?」

 ズレた眼鏡の奥から金色の瞳をキラキラさせてこちらを見るキャロル。私は心の中でほくそ笑むと、懐から一枚の手紙を取り出した。
 それは私が昨日決意してから集めたとある証拠が載ったものだった。

「アレクシス・ティアンの醜聞。これを記事にしてくれたら、私の密着取材を許可するわ」

 ヒラヒラと手紙を振る私に、キャロルが首を傾げた。

「アレクシス・ティアン? 確か君の婚約者だったよね? 社交界でも人気のの醜聞なんて、これまたなんで」

 キャロルの疑問は最もだ。
 私はアレクシスの婚約者として、彼の気を引き止めるために努力していたことは周囲も知るところ。
 物言わぬ人形が人の真似事にしている、と揶揄されたこともあった。

 アレクシスに執心していた私が彼を貶めるようなことをするとは誰も思わないだろう。
 だがそれこそが狙いなのだ。私は「私」らしくあると決めた。
 だから手段も方法も容赦しない。

「そのアレクシス様が私の妹と浮気をしていたのよ。昨晩、彼とクリスティアナがせっせと睦事に励む姿を目撃したの」

 あんなものを見せられてしまっては千年の恋も冷めるというものだ。
 私の言葉を聞いてキャロルはなんとも言い難い顔をすると私の手から手紙を受け取った。

「その、なんて言うか。ボクが言うべきことじゃ無いかもしれないけど……大丈夫? 自暴自棄になってない?」

 私のアレクシスへの恋心をキャロルは知っている。キャロルは私の数少ない心から気を許せる友達でもある。
 それ故に心配してくれているのだろうが、私は全く問題ないと安心させるために笑顔を浮かべた。

「ええ、大丈夫よ。むしろお陰様で色々と気づかせられたわ。私はあの男のために尽くして、無駄に奪われた時間を取り戻したいの。だから協力してくれないかしら?」

 キャロルの金色の眼を見つめて、真剣に訴えると、キャロル――彼女はドンと胸を叩いて「任せて!」と不敵に笑う。

「この『新聞部』部長、アンナ・キャロル様に任せなさい! ボクの文才で脚色に脚色して、社交界のの醜聞、流して流して流しまくってやるわ!」

『アンナ・キャロル』のペンネームで世間にその名を轟かせる新進気鋭の小説家であり、学園の定期新聞の記事を担当している頼もしい友人の答えに、私は素直に感謝する。

「ありがとう。キャロル」

 ――さて、まだ私の計画は始まったばかり。
 貴方はいつまで耐えられるかしら、アレクシス様。
 今度貴方の顔を見るのが楽しみで何よりです――
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