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9 アレクシス・ティアンの激怒
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「一体どうしてこんなことに……」
アレクシスは馬車の中で震えていた。
小刻みに震える両手に持っているのは拾った例の新聞記事。
一面の見出しの下に書かれたその記事を繰り返し読み上げては、アレクシスは自分の顔色が悪くなるのを感じていた。
学園に着いて馬車から颯爽と登場したところまでは良かったが、押し寄せる人の波と真実について言及する声、自分を批難し、罵倒する声に途端に怖くなったアレクシスは馬車に逆戻りし、逃げるようにとんぼ返りすることしかできなかった。
我ながら格好悪いとは思ったが、さすがにあの人の波に囲まれて無事でいられる自信がなかった。
自身のプライドを曲げる行為ではあったが、仕方がない。
「しばらく学園は休むしかないな……」
とにかくこの事態をどうにかしなければ。
一番簡単なのは事態がおさまるまで休んでしまうことだ。有耶無耶になるまで屋敷に篭ってやり過ごすしかない。
しかしここまで己の所業がバレているとは思わなかった。隠していたはずの裏の関係。どうしてバレてしまったのだろうと、アレクシスは頭を抱える。
アレクシスは己の醜い欲求を満たすために、夜会に出ては手近な女を掴まえて一夜の世伽を楽しんでいた。アレクシスから誘われて一時の光栄に身を任せる女は多かったし、それはもう甘美な夜を過ごしたものだ。
女など所詮はこんなものだ。
甘い顔をして近づき、愛を囁いてやれば頬を赤く染め、恥じらう。好意を寄せられ続けたアレクシスにとって彼女達が何を望んでいるかは手に取るように分かる。
だからそのように振舞ってやれば喜ぶし、扱いやすくなる。
女を取っかえ引っ変えしては夜伽に耽り、楽しんだ。
常に言い寄ってくるもの達に事欠かないアレクシスにとっては何よりの楽園だったという訳だ。
相手の立場など気にもせず、誘われれば着いてくる彼女達をひたすらに抱いた。来る者拒まずだった彼は相手の令嬢がどのような立場のものかすら気にしていなかった。
しかし、記事にはその事まで言及されており、アレクシスの淫らな醜聞が、今まで行ってきた所業がひとつ残らずさらけ出されていた。
どうして。どうして。
そんな焦りだけが心を支配する。
震えが止まらない手で記事を握りしめた彼は、しかしとある一文を目にして、吸い寄せられるようにその文面を読んでいく。
『――そして見てしまったのだ。婚約者が自分以外の女と関係を持っていたという徹底的な場面を。
以下は彼女の口から語られた真実の出来事である――』
何度も何度もその文面を食い入るように読み返し、アレクシスはやがて顔をあげる。その顔は憤怒の表情に満ちていた。怒りで記事を掴む手に力が入り、新聞の薄い記事が瞬く間にぐしゃぐしゃになっていく。
「あの女…………!」
アレクシスの婚約者などこの世に一人しかいない。
セシルウィア・ロアンヌ。
物言わぬ人形である彼女が。
自分の所有物である彼女が。
自分の言いなりであったはずの彼女が、自分を裏切った。婚約者たる自分を、彼女が貶めた。
不意に見つけてしまった犯人の名前にアレクシスの怒りは頂点に達していた。
「絶対に許さない、あの女……!」
主人の言いつけを破ったものがどうなるか、その身にとくと刻み込んでしまわなければ気が済まない。
あの華奢な肢体に、痛ましい痣ができるまで躾けてやらねば。
なに、あの女は自分のものだ。ちょっと痛めつけたくらいでなんといえことはない。彼女は自分のものだ。
だというのなら、自分に逆らったらどうなるか、それを教え込ませるのも婚約者の仕事だろう。
「なぁ、セシル。君もその覚悟で僕を怒らせたんだろう。だったら、しっかり誰が主人か教えてやらないとなぁ!!」
ガタガタと揺れる馬車の中で、アレクシスは額に青筋を浮かべながら、拳が白くなるまで握りしめる。
馬車の中から発せられる彼の狂気に満ちた不気味な笑い声が、辺りに響き渡っていた。
アレクシスは馬車の中で震えていた。
小刻みに震える両手に持っているのは拾った例の新聞記事。
一面の見出しの下に書かれたその記事を繰り返し読み上げては、アレクシスは自分の顔色が悪くなるのを感じていた。
学園に着いて馬車から颯爽と登場したところまでは良かったが、押し寄せる人の波と真実について言及する声、自分を批難し、罵倒する声に途端に怖くなったアレクシスは馬車に逆戻りし、逃げるようにとんぼ返りすることしかできなかった。
我ながら格好悪いとは思ったが、さすがにあの人の波に囲まれて無事でいられる自信がなかった。
自身のプライドを曲げる行為ではあったが、仕方がない。
「しばらく学園は休むしかないな……」
とにかくこの事態をどうにかしなければ。
一番簡単なのは事態がおさまるまで休んでしまうことだ。有耶無耶になるまで屋敷に篭ってやり過ごすしかない。
しかしここまで己の所業がバレているとは思わなかった。隠していたはずの裏の関係。どうしてバレてしまったのだろうと、アレクシスは頭を抱える。
アレクシスは己の醜い欲求を満たすために、夜会に出ては手近な女を掴まえて一夜の世伽を楽しんでいた。アレクシスから誘われて一時の光栄に身を任せる女は多かったし、それはもう甘美な夜を過ごしたものだ。
女など所詮はこんなものだ。
甘い顔をして近づき、愛を囁いてやれば頬を赤く染め、恥じらう。好意を寄せられ続けたアレクシスにとって彼女達が何を望んでいるかは手に取るように分かる。
だからそのように振舞ってやれば喜ぶし、扱いやすくなる。
女を取っかえ引っ変えしては夜伽に耽り、楽しんだ。
常に言い寄ってくるもの達に事欠かないアレクシスにとっては何よりの楽園だったという訳だ。
相手の立場など気にもせず、誘われれば着いてくる彼女達をひたすらに抱いた。来る者拒まずだった彼は相手の令嬢がどのような立場のものかすら気にしていなかった。
しかし、記事にはその事まで言及されており、アレクシスの淫らな醜聞が、今まで行ってきた所業がひとつ残らずさらけ出されていた。
どうして。どうして。
そんな焦りだけが心を支配する。
震えが止まらない手で記事を握りしめた彼は、しかしとある一文を目にして、吸い寄せられるようにその文面を読んでいく。
『――そして見てしまったのだ。婚約者が自分以外の女と関係を持っていたという徹底的な場面を。
以下は彼女の口から語られた真実の出来事である――』
何度も何度もその文面を食い入るように読み返し、アレクシスはやがて顔をあげる。その顔は憤怒の表情に満ちていた。怒りで記事を掴む手に力が入り、新聞の薄い記事が瞬く間にぐしゃぐしゃになっていく。
「あの女…………!」
アレクシスの婚約者などこの世に一人しかいない。
セシルウィア・ロアンヌ。
物言わぬ人形である彼女が。
自分の所有物である彼女が。
自分の言いなりであったはずの彼女が、自分を裏切った。婚約者たる自分を、彼女が貶めた。
不意に見つけてしまった犯人の名前にアレクシスの怒りは頂点に達していた。
「絶対に許さない、あの女……!」
主人の言いつけを破ったものがどうなるか、その身にとくと刻み込んでしまわなければ気が済まない。
あの華奢な肢体に、痛ましい痣ができるまで躾けてやらねば。
なに、あの女は自分のものだ。ちょっと痛めつけたくらいでなんといえことはない。彼女は自分のものだ。
だというのなら、自分に逆らったらどうなるか、それを教え込ませるのも婚約者の仕事だろう。
「なぁ、セシル。君もその覚悟で僕を怒らせたんだろう。だったら、しっかり誰が主人か教えてやらないとなぁ!!」
ガタガタと揺れる馬車の中で、アレクシスは額に青筋を浮かべながら、拳が白くなるまで握りしめる。
馬車の中から発せられる彼の狂気に満ちた不気味な笑い声が、辺りに響き渡っていた。
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