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仕返し編
とある男の受難その2
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レスティーゼの手を引いてモースは大広間の入口へと立つと、そこにはすでに他の皇子や皇女が揃っていた。
今年正式に皇太子となるであろう第一皇子グレイヴ。
その後に続くのが第二皇子クレイスに第三皇子クラウディオ。
皇族にしか許されない純白の礼服を纏った彼らは兄弟仲良く談笑中のようだ。
「あら、レスティーゼとクロムウェル公じゃない?」
レスティーゼとモースの登場に気づくと、皇女たちは談笑していたのをやめ、こちらを見つめた。
今現在七人いる皇女のうち第一皇女アリステラと第五皇女ロゼアンヌは他国へと嫁ぎ、五人の皇女が帝国に残っている。
魔術師団長と先日結婚した第二皇女メルランシア。騎士団に在籍し、剣をふるっている変わり者の双子の第三皇女アンゼリカに第四皇女アンネリーゼ。
病弱で公の場に滅多に姿を見せない第六皇女クレアマリー。今回もこの場に姿は見えないので欠席しているのだろう。
そしてモースの婚約者、第七皇女レスティーゼ。
白銀の髪を持つ第二皇女と真っ白な髪を持つ第七皇女以外は皆銀色の髪に青みかがった銀の瞳を持つ見目麗しい皇族一家は、集まると絵のように美しい壮観な図であった。
モースは知らずその美しさに溜息をついた。美しいものが好きなモースにとって美貌の皇族一家はまさに美の宝庫なのであった。
「今日はクロムウェル公も張り切っていらっしゃるのね。服もお似合いでいつもより一段と格好よく見えますわ」
笑顔を浮かべこちらに声をかけてきた第二皇女にモースの気分はよくなった。
その賛美は当然である。この日のために奮発して衣装を新調したのだから。全て一流のデザイナーに流行を取り入れたデザインをしてもらい、これまた一流の仕立て屋に頼んで作らせたものだ。優美ながら繊細なデザインのこの服を着こなせるのは自分くらいだろうという自負もある。
心の中でそう思いつつも、モースは決してそれを顔には出さず照れた表情をして頭をかく。
「メルランシア殿下にそのようなお言葉を頂けるとは……恐縮ですよ。可愛らしい婚約者に恥をかかせてはいけませんし、白雪姫と謳われるレスティーゼ殿下の隣に立つに相応しい男となれるよう、身だしなみに気を使うのは紳士として当然のことです」
「まぁ、素晴らしい心がけだわ!レス、あなたはこんなに素敵な婚約者に愛されて幸せ者ね!」
第二皇女の手を合わせて感激した! という声にレスティーゼは微笑んで答えた。
「ええ、私もこんなに素敵な婚約者を持てて幸せですわ。メルランシアお姉様」
レスティーゼとメルランシアは互いににこやかに微笑む。
メルランシアの賛辞のセリフは半ば棒読みであり、その二人の会話にはある種の棘のある言い回しがなされていたにも関わらず、モースは思考に耽っていて幸いにも気づかなかった。
それどころか彼は、
(第二皇女の俺に対する評価はこれで上がっただろう。いつもの爽やかな好青年らしく振る舞えば令嬢や貴婦人なんて大抵落ちる。容易いものだ)
と、こんなことを考えていたのだから、ある意味モースは幸せな思考の持ち主と言えるのかもしれない。そんな調子に乗りまくっているモースはさらに続けて持論を展開する。
――貴族の女性というものは、物静かな者が多い。その方が男性に好まれやすいからだ。そして大抵は紳士然とした男に憧れ、愛されたいと願うもの。
ならばそのように振舞ってやればいい。
破天荒で知られる第二皇女だが、所詮は彼女も温室育ちの箱入り娘。基本は一般の貴族の女性と変わらないということか。
これはダンスを申し込んであともう一押しすれば落とせるかもしれないな、とモースはかなりおめでたい思考で内心ニヤけていた。
「そのようなことを言って頂けるなんて身に余る光栄です」
内心とは裏腹に謙虚な姿勢を崩さずに返せば、皇族一家のモースへの好感度があがる。
その思惑通りに皇子や皇女達が、モースへの賛美の声を上げた。
「まぁ、謙虚な方なんですのね!」
「素晴らしい心構えだよ」
「そうだな、レスは幸せ者だ」
そうやって場の雰囲気が和やかになった所で、ひとつの声が割って入った。
「――我が末の姫の婚約者殿の素晴らしい心がまえも立派だが、そろそろ大広間に入らねば、皆が待ちくたびれてしまうぞ」
低く、大きく発せられたわけでもないのに威圧を感じるその声。モースはすぐ様、その声の正体に気づき、頭を伏した。他の皇子や皇女達も、続くように頭を下げる。
そんな中で男性の声に追従するように続いたのは、柔らかなソプラノの女性の声。
「あらあら。あなただって、私の姿に見惚れていらしたではありませんか。人のことは言えませんわよ」
上品な笑い声を上げる女性に、途端に威厳のある調子を崩した男性が照れたように笑う。
「うむ、そうだったな。皆頭を上げて良いぞ」
重苦しい声から一転して、朗らかな調子に皆苦笑いしながら頭を上げた。
ヘルゼンブール帝国の現皇帝が皇妃を溺愛しているのはこの国では誰もが知っている有名な話だ。
妻を溺愛し、優れた行政で庶民から貴族までの支持を集める『賢帝』――ファフニール・ゼン・ヘルゼンブールは全員揃っているかを確認して、声を上げた。
「よし、では大広間に入ろう。今日は記念すべき祭典だ!」
「……そうね。記念すべき祭典だわ」
ボソリと呟かれた第七皇女の黒い呟きは、誰の耳にも届かない。
そして、第七皇女は綺麗に、とても綺麗に笑ってモースの手を引っ張る。
「さぁ、皆様が待っていますわ! 参りましょうモース様!」
手を引かれたモースは戸惑いながらも、心底楽しそうに笑う第七皇女につられて大広間へと足を踏み入れた。
今年正式に皇太子となるであろう第一皇子グレイヴ。
その後に続くのが第二皇子クレイスに第三皇子クラウディオ。
皇族にしか許されない純白の礼服を纏った彼らは兄弟仲良く談笑中のようだ。
「あら、レスティーゼとクロムウェル公じゃない?」
レスティーゼとモースの登場に気づくと、皇女たちは談笑していたのをやめ、こちらを見つめた。
今現在七人いる皇女のうち第一皇女アリステラと第五皇女ロゼアンヌは他国へと嫁ぎ、五人の皇女が帝国に残っている。
魔術師団長と先日結婚した第二皇女メルランシア。騎士団に在籍し、剣をふるっている変わり者の双子の第三皇女アンゼリカに第四皇女アンネリーゼ。
病弱で公の場に滅多に姿を見せない第六皇女クレアマリー。今回もこの場に姿は見えないので欠席しているのだろう。
そしてモースの婚約者、第七皇女レスティーゼ。
白銀の髪を持つ第二皇女と真っ白な髪を持つ第七皇女以外は皆銀色の髪に青みかがった銀の瞳を持つ見目麗しい皇族一家は、集まると絵のように美しい壮観な図であった。
モースは知らずその美しさに溜息をついた。美しいものが好きなモースにとって美貌の皇族一家はまさに美の宝庫なのであった。
「今日はクロムウェル公も張り切っていらっしゃるのね。服もお似合いでいつもより一段と格好よく見えますわ」
笑顔を浮かべこちらに声をかけてきた第二皇女にモースの気分はよくなった。
その賛美は当然である。この日のために奮発して衣装を新調したのだから。全て一流のデザイナーに流行を取り入れたデザインをしてもらい、これまた一流の仕立て屋に頼んで作らせたものだ。優美ながら繊細なデザインのこの服を着こなせるのは自分くらいだろうという自負もある。
心の中でそう思いつつも、モースは決してそれを顔には出さず照れた表情をして頭をかく。
「メルランシア殿下にそのようなお言葉を頂けるとは……恐縮ですよ。可愛らしい婚約者に恥をかかせてはいけませんし、白雪姫と謳われるレスティーゼ殿下の隣に立つに相応しい男となれるよう、身だしなみに気を使うのは紳士として当然のことです」
「まぁ、素晴らしい心がけだわ!レス、あなたはこんなに素敵な婚約者に愛されて幸せ者ね!」
第二皇女の手を合わせて感激した! という声にレスティーゼは微笑んで答えた。
「ええ、私もこんなに素敵な婚約者を持てて幸せですわ。メルランシアお姉様」
レスティーゼとメルランシアは互いににこやかに微笑む。
メルランシアの賛辞のセリフは半ば棒読みであり、その二人の会話にはある種の棘のある言い回しがなされていたにも関わらず、モースは思考に耽っていて幸いにも気づかなかった。
それどころか彼は、
(第二皇女の俺に対する評価はこれで上がっただろう。いつもの爽やかな好青年らしく振る舞えば令嬢や貴婦人なんて大抵落ちる。容易いものだ)
と、こんなことを考えていたのだから、ある意味モースは幸せな思考の持ち主と言えるのかもしれない。そんな調子に乗りまくっているモースはさらに続けて持論を展開する。
――貴族の女性というものは、物静かな者が多い。その方が男性に好まれやすいからだ。そして大抵は紳士然とした男に憧れ、愛されたいと願うもの。
ならばそのように振舞ってやればいい。
破天荒で知られる第二皇女だが、所詮は彼女も温室育ちの箱入り娘。基本は一般の貴族の女性と変わらないということか。
これはダンスを申し込んであともう一押しすれば落とせるかもしれないな、とモースはかなりおめでたい思考で内心ニヤけていた。
「そのようなことを言って頂けるなんて身に余る光栄です」
内心とは裏腹に謙虚な姿勢を崩さずに返せば、皇族一家のモースへの好感度があがる。
その思惑通りに皇子や皇女達が、モースへの賛美の声を上げた。
「まぁ、謙虚な方なんですのね!」
「素晴らしい心構えだよ」
「そうだな、レスは幸せ者だ」
そうやって場の雰囲気が和やかになった所で、ひとつの声が割って入った。
「――我が末の姫の婚約者殿の素晴らしい心がまえも立派だが、そろそろ大広間に入らねば、皆が待ちくたびれてしまうぞ」
低く、大きく発せられたわけでもないのに威圧を感じるその声。モースはすぐ様、その声の正体に気づき、頭を伏した。他の皇子や皇女達も、続くように頭を下げる。
そんな中で男性の声に追従するように続いたのは、柔らかなソプラノの女性の声。
「あらあら。あなただって、私の姿に見惚れていらしたではありませんか。人のことは言えませんわよ」
上品な笑い声を上げる女性に、途端に威厳のある調子を崩した男性が照れたように笑う。
「うむ、そうだったな。皆頭を上げて良いぞ」
重苦しい声から一転して、朗らかな調子に皆苦笑いしながら頭を上げた。
ヘルゼンブール帝国の現皇帝が皇妃を溺愛しているのはこの国では誰もが知っている有名な話だ。
妻を溺愛し、優れた行政で庶民から貴族までの支持を集める『賢帝』――ファフニール・ゼン・ヘルゼンブールは全員揃っているかを確認して、声を上げた。
「よし、では大広間に入ろう。今日は記念すべき祭典だ!」
「……そうね。記念すべき祭典だわ」
ボソリと呟かれた第七皇女の黒い呟きは、誰の耳にも届かない。
そして、第七皇女は綺麗に、とても綺麗に笑ってモースの手を引っ張る。
「さぁ、皆様が待っていますわ! 参りましょうモース様!」
手を引かれたモースは戸惑いながらも、心底楽しそうに笑う第七皇女につられて大広間へと足を踏み入れた。
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