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07.ラシードと一つ目の願い事
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「呼ばれて……はあああああ?」
魔人がぽっかりと大きな口を開けて驚愕の声を上げた。
「え? 何? 何?」
「な ・ ん ・ て! 理想的な平凡! これといって特徴のない顔に、極々一般的な色合い。ワタシの理想が服を着て歩いている!」
……魔人は平凡厨だった。いやちょっと待て、魔人。『理想が服を着て』とは、お前の『理想』は裸なのか? というベタな突っ込みは置いておいて、すっかり目がハートマークになっている魔人にどう対処してよいものかと悩むラシードは、とりあえず挨拶をすることにした。
「初めまして。魔人さん。僕の名前はラシードといいます」
「魔人さんなんて他人行儀な! 貴方にはワタシの眞名である『ジン』と呼んで頂きたい!」
「え? 眞名なんて簡単に教えていいものなの?」
魔法使いには色々と制約があり、眞名が知られると弊害があることが一般的だ。魔人も御多分に漏れず似たような制約があるに違いないとラシードは考えた。
「よいのです。よいのです。貴方様にならば、ワタシの魂が縛られてもいい。いや、むしろ縛り付けてください!」
(え……こっわ)
ラシードの頬がひくひくと動き、若干引いているにも関わらず、魔人は勝手に話を進める。
「願い事は三つまで叶えられます。でも、軽い願い事ならばカウントしないで叶えて差し上げます。あのっ。あのっ。なるべくお傍にいたいので……あまり大きな願い事は……小出しに……」
煙で出来た上半身だけの身体をくねらせてもじもじとする魔人に、とりあえず外に出ようかと提案をするラシード。もちろん外に出てラシードの自宅まで瞬間移動する魔法は願い事カウントに加えられることはなかった。
「ジンは、食事とか飲み物とかはどうするの?」
自宅に着いてラシードはジンに質問をした。自分も喉が渇いていたし、腹も減っていたので食事をしようかと思ったのだ。
「ワタシは特に飲食をする必要はありませんが、ラシード様と楽しい時間を過ごしたいので、たまにラシード様と同じ内容のものを頂ければと思います」
「ふーん。じゃあこれから食べる食事は一緒のものを食べようか」
ジンの歓迎会だねとふんわりラシードが笑い、厨にいる使用人に食事の準備を依頼して、食事の準備が整うまでラシードは茶を淹れることにした。大量のミントの葉に熱湯を注ぐミントティーに、甘いナツメヤシを干したものを添えて魔人に差し出す。その流れるような所作にうっとりと魔人は見惚れた。
「ミントティは飲める?」
「もちろんです。もし苦手だとしてもラシード様が淹れてくれるお茶ならば一滴残さず飲み干します」
「いや、苦手なら飲まなくてもいいんだけどね?」
今日何度目の苦笑だろうと思いつつ、ラシードはジンと向かい合った席に座る。そして一口、二口お茶を喉に流し込んだところで一つ目の願いを伝えることにした。
「ジンは願い事を小出しにして欲しいとは言ったけれど、一つ目のお願いを早速聞いて欲しい。他の願いはおいおいお願いすることになるから、ジンの意向に沿う事は出来る」
「はい」
「僕の父上は、この国の官吏をしているんだけれど、出世するには家柄がよくないんだ。父上は、身内びいきという点を差し引いたとしても、よい官吏だ。だから、思いっきりその能力を発揮できる場所を整えてもらえたらと思う」
「ラシード様は具体的にどうすればよいとお考えでしょうか」
「うん。この国に試験による官吏登用制度があればいいと思うんだ。なあに、父上のことだ。実力不足で試験に受からないということはないだろう。出来たら過去時点でその制度が確立されているとありがたい」
どうだろう、難しいかとラシードに問われた魔人は、一拍おいてから答えた。
「いいえ、畏まりました。簡単ですとは言えませんが、明日の朝には世界が変わっている事でしょう」
「そうか、ありがとう」
──翌朝。
魔人の宣言通り世界は一変していた。
魔人がぽっかりと大きな口を開けて驚愕の声を上げた。
「え? 何? 何?」
「な ・ ん ・ て! 理想的な平凡! これといって特徴のない顔に、極々一般的な色合い。ワタシの理想が服を着て歩いている!」
……魔人は平凡厨だった。いやちょっと待て、魔人。『理想が服を着て』とは、お前の『理想』は裸なのか? というベタな突っ込みは置いておいて、すっかり目がハートマークになっている魔人にどう対処してよいものかと悩むラシードは、とりあえず挨拶をすることにした。
「初めまして。魔人さん。僕の名前はラシードといいます」
「魔人さんなんて他人行儀な! 貴方にはワタシの眞名である『ジン』と呼んで頂きたい!」
「え? 眞名なんて簡単に教えていいものなの?」
魔法使いには色々と制約があり、眞名が知られると弊害があることが一般的だ。魔人も御多分に漏れず似たような制約があるに違いないとラシードは考えた。
「よいのです。よいのです。貴方様にならば、ワタシの魂が縛られてもいい。いや、むしろ縛り付けてください!」
(え……こっわ)
ラシードの頬がひくひくと動き、若干引いているにも関わらず、魔人は勝手に話を進める。
「願い事は三つまで叶えられます。でも、軽い願い事ならばカウントしないで叶えて差し上げます。あのっ。あのっ。なるべくお傍にいたいので……あまり大きな願い事は……小出しに……」
煙で出来た上半身だけの身体をくねらせてもじもじとする魔人に、とりあえず外に出ようかと提案をするラシード。もちろん外に出てラシードの自宅まで瞬間移動する魔法は願い事カウントに加えられることはなかった。
「ジンは、食事とか飲み物とかはどうするの?」
自宅に着いてラシードはジンに質問をした。自分も喉が渇いていたし、腹も減っていたので食事をしようかと思ったのだ。
「ワタシは特に飲食をする必要はありませんが、ラシード様と楽しい時間を過ごしたいので、たまにラシード様と同じ内容のものを頂ければと思います」
「ふーん。じゃあこれから食べる食事は一緒のものを食べようか」
ジンの歓迎会だねとふんわりラシードが笑い、厨にいる使用人に食事の準備を依頼して、食事の準備が整うまでラシードは茶を淹れることにした。大量のミントの葉に熱湯を注ぐミントティーに、甘いナツメヤシを干したものを添えて魔人に差し出す。その流れるような所作にうっとりと魔人は見惚れた。
「ミントティは飲める?」
「もちろんです。もし苦手だとしてもラシード様が淹れてくれるお茶ならば一滴残さず飲み干します」
「いや、苦手なら飲まなくてもいいんだけどね?」
今日何度目の苦笑だろうと思いつつ、ラシードはジンと向かい合った席に座る。そして一口、二口お茶を喉に流し込んだところで一つ目の願いを伝えることにした。
「ジンは願い事を小出しにして欲しいとは言ったけれど、一つ目のお願いを早速聞いて欲しい。他の願いはおいおいお願いすることになるから、ジンの意向に沿う事は出来る」
「はい」
「僕の父上は、この国の官吏をしているんだけれど、出世するには家柄がよくないんだ。父上は、身内びいきという点を差し引いたとしても、よい官吏だ。だから、思いっきりその能力を発揮できる場所を整えてもらえたらと思う」
「ラシード様は具体的にどうすればよいとお考えでしょうか」
「うん。この国に試験による官吏登用制度があればいいと思うんだ。なあに、父上のことだ。実力不足で試験に受からないということはないだろう。出来たら過去時点でその制度が確立されているとありがたい」
どうだろう、難しいかとラシードに問われた魔人は、一拍おいてから答えた。
「いいえ、畏まりました。簡単ですとは言えませんが、明日の朝には世界が変わっている事でしょう」
「そうか、ありがとう」
──翌朝。
魔人の宣言通り世界は一変していた。
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