すべては誤解だったけど、なぜか二人の男に愛されています。これはきっと冬の花火のせい

橘 咲帆

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02.ナオは見た

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 ナオはわかりやすく高校デビューをした、外見はチャラい男だ。ふわふわのくせ毛を茶色く染めて、長めの前髪はピンで留めたり、ゴムでくくったりする。この辺りでは地主である小野田家の分家筋にあたり、ちょっとした畑と広めの家屋が自家の不動産だ。生業は「麹屋」。近年の発酵食ブームに乗って、通販で商品を売ったり、自家の一角にショップをオープンして味噌作り教室をしている。外見はチャラいと言ったが、中身はチャラいとまではいわず、なおという名前のままに素直な一面を持つ男だった。 

「好きです、付き合ってください」

 意を決したように黒髪ストレートロングの美少女が、クールで清楚な外見に似つかわしくないアニメ声を張り上げた。告白の相手はこの高校の野球部で一年生ながらエースを任された男だった。突然の告白に対してどのように答えたか──。渡り廊下にさしかかり、その現場を見てしまったナオは最後まで聞くことができなかった。

 ナオの幼なじみである吉川春樹よしかわはるきは、野球部のエースらしく恵まれた体躯に実直な精神をたたえ、女子にも男子にも柔和な対応をする。モテないわけがない。高校に入学した以降だけでも両手に足らないくらいに告白を受けているが、その首を縦に振ることはなかった。しかし、今回告白をしている相手は今までとは勝手が違うだろう。学年一、いや、学校一の美少女だ。しかもおっぱいも大きい。
 ナオは敗北感いっぱいで廊下を走った。

 ナオとハルキの出会いは地域で集まった野球のリトルリーグでのことだった。
 ナオは親戚筋の大叔父が監督をしていた関係でリトルリーグに参加することになった。
 ハルキは小さい頃から恵まれた身体をしていたため、お寺主宰のこども相撲で頭角を現していたのだが、ハルキ本人がまわし姿を恥じるようになり、それならばとリトルリーグの監督であるナオの大叔父がスカウトして連れて来たのだった。

 ハルキが入ってくるまでナオはピッチャーを目指していた。が、しかし。ハルキの投げる子供らしくない豪速球を見た途端、ナオの心の中に白旗が上がった。ナオはキャッチャーに転向することにした。
 ハルキの球を受けるのはとても苦労したが、なおの名前の通り、素直なナオは何度もハルキに頼み込み、練習に練習を重ねてハルキの豪速球を受ける事が出来るようになった。
 このままずっとバッテリーを組んでいくのだろうと思っていた二人だが、中学に入り、ナオの背は思った以上に伸びなかった。牛乳をがぶ飲みしたり、プロテインを摂ったり、麹屋らしく甘酒を豆乳で割ったものを飲んだりと、身体に良さそうなたんぱく源を片っ端から摂ってはみたものの、高校でキャッチャーを任されるほどの身体には成長出来なかった。

 仕方なくナオは高校の部活は野球を選択しなかった。野球以外の、サッカーだの、バスケだの。チームで行う部活はなんとなく気が引けて、陸上部に入る事にした。野球でそこそこ鍛えていたため、記録会でそれなりのタイムと出せたとき、ナオは野球以外でも俺は大丈夫だなとほっと胸を撫で下ろした。

 ナオとハルキは部活こそ違うことになったが、朝練や放課後の練習時間はそれほど変わりがなかったため、タイミングを合わせて登下校を一緒にすることが多かった。しかし、あの黒髪美少女の告白場面を目にしてから、ナオはハルキを避けるようになってしまう。ナオが一人で帰る下校時間に数度、ハルキと黒髪美少女が連れ立って下校している様子を見たため、ナオの失恋は決定的になった。
 そう、ナオはハルキを恋愛的な意味で好きだったのだ。

 夏の始まりにナオの住む地域では夏祭りがある。
 ナオとハルキは連れ立って山車を引いたり、こども神輿を担いだりしていたので、小学校を卒業して山車と引く必要も、こども神輿を担ぐ必要もなくなっても、毎年この夏祭りへ一緒に出掛けていた。ここのところナオはハルキのことを避けがちだったが、ナオとハルキが住む地区と、黒髪美少女が住む地区は離れているため、この夏祭りに関してはナオはハルキに誘われるに違いないと、淡い期待をしていた。しかし、ハルキからのメッセージは待てど暮らせど来ない。仕方がない、こちらから誘うかと期末試験の最終日にハルキの教室に行くと、黒髪美少女と談笑するハルキがいた。

(あ、ダメじゃん。やっぱり誘っちゃったらいけないじゃん)

 ナオは夏祭りへ誘う言葉を飲み込み、ひとりでトボトボと下校をした。
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