2 / 18
02.ナオは見た
しおりを挟む
ナオはわかりやすく高校デビューをした、外見はチャラい男だ。ふわふわのくせ毛を茶色く染めて、長めの前髪はピンで留めたり、ゴムでくくったりする。この辺りでは地主である小野田家の分家筋にあたり、ちょっとした畑と広めの家屋が自家の不動産だ。生業は「麹屋」。近年の発酵食ブームに乗って、通販で商品を売ったり、自家の一角にショップをオープンして味噌作り教室をしている。外見はチャラいと言ったが、中身はチャラいとまではいわず、直という名前のままに素直な一面を持つ男だった。
「好きです、付き合ってください」
意を決したように黒髪ストレートロングの美少女が、クールで清楚な外見に似つかわしくないアニメ声を張り上げた。告白の相手はこの高校の野球部で一年生ながらエースを任された男だった。突然の告白に対してどのように答えたか──。渡り廊下にさしかかり、その現場を見てしまったナオは最後まで聞くことができなかった。
ナオの幼なじみである吉川春樹は、野球部のエースらしく恵まれた体躯に実直な精神をたたえ、女子にも男子にも柔和な対応をする。モテないわけがない。高校に入学した以降だけでも両手に足らないくらいに告白を受けているが、その首を縦に振ることはなかった。しかし、今回告白をしている相手は今までとは勝手が違うだろう。学年一、いや、学校一の美少女だ。しかもおっぱいも大きい。
ナオは敗北感いっぱいで廊下を走った。
ナオとハルキの出会いは地域で集まった野球のリトルリーグでのことだった。
ナオは親戚筋の大叔父が監督をしていた関係でリトルリーグに参加することになった。
ハルキは小さい頃から恵まれた身体をしていたため、お寺主宰のこども相撲で頭角を現していたのだが、ハルキ本人がまわし姿を恥じるようになり、それならばとリトルリーグの監督であるナオの大叔父がスカウトして連れて来たのだった。
ハルキが入ってくるまでナオはピッチャーを目指していた。が、しかし。ハルキの投げる子供らしくない豪速球を見た途端、ナオの心の中に白旗が上がった。ナオはキャッチャーに転向することにした。
ハルキの球を受けるのはとても苦労したが、直の名前の通り、素直なナオは何度もハルキに頼み込み、練習に練習を重ねてハルキの豪速球を受ける事が出来るようになった。
このままずっとバッテリーを組んでいくのだろうと思っていた二人だが、中学に入り、ナオの背は思った以上に伸びなかった。牛乳をがぶ飲みしたり、プロテインを摂ったり、麹屋らしく甘酒を豆乳で割ったものを飲んだりと、身体に良さそうなたんぱく源を片っ端から摂ってはみたものの、高校でキャッチャーを任されるほどの身体には成長出来なかった。
仕方なくナオは高校の部活は野球を選択しなかった。野球以外の、サッカーだの、バスケだの。チームで行う部活はなんとなく気が引けて、陸上部に入る事にした。野球でそこそこ鍛えていたため、記録会でそれなりのタイムと出せたとき、ナオは野球以外でも俺は大丈夫だなとほっと胸を撫で下ろした。
ナオとハルキは部活こそ違うことになったが、朝練や放課後の練習時間はそれほど変わりがなかったため、タイミングを合わせて登下校を一緒にすることが多かった。しかし、あの黒髪美少女の告白場面を目にしてから、ナオはハルキを避けるようになってしまう。ナオが一人で帰る下校時間に数度、ハルキと黒髪美少女が連れ立って下校している様子を見たため、ナオの失恋は決定的になった。
そう、ナオはハルキを恋愛的な意味で好きだったのだ。
夏の始まりにナオの住む地域では夏祭りがある。
ナオとハルキは連れ立って山車を引いたり、こども神輿を担いだりしていたので、小学校を卒業して山車と引く必要も、こども神輿を担ぐ必要もなくなっても、毎年この夏祭りへ一緒に出掛けていた。ここのところナオはハルキのことを避けがちだったが、ナオとハルキが住む地区と、黒髪美少女が住む地区は離れているため、この夏祭りに関してはナオはハルキに誘われるに違いないと、淡い期待をしていた。しかし、ハルキからのメッセージは待てど暮らせど来ない。仕方がない、こちらから誘うかと期末試験の最終日にハルキの教室に行くと、黒髪美少女と談笑するハルキがいた。
(あ、ダメじゃん。やっぱり誘っちゃったらいけないじゃん)
ナオは夏祭りへ誘う言葉を飲み込み、ひとりでトボトボと下校をした。
「好きです、付き合ってください」
意を決したように黒髪ストレートロングの美少女が、クールで清楚な外見に似つかわしくないアニメ声を張り上げた。告白の相手はこの高校の野球部で一年生ながらエースを任された男だった。突然の告白に対してどのように答えたか──。渡り廊下にさしかかり、その現場を見てしまったナオは最後まで聞くことができなかった。
ナオの幼なじみである吉川春樹は、野球部のエースらしく恵まれた体躯に実直な精神をたたえ、女子にも男子にも柔和な対応をする。モテないわけがない。高校に入学した以降だけでも両手に足らないくらいに告白を受けているが、その首を縦に振ることはなかった。しかし、今回告白をしている相手は今までとは勝手が違うだろう。学年一、いや、学校一の美少女だ。しかもおっぱいも大きい。
ナオは敗北感いっぱいで廊下を走った。
ナオとハルキの出会いは地域で集まった野球のリトルリーグでのことだった。
ナオは親戚筋の大叔父が監督をしていた関係でリトルリーグに参加することになった。
ハルキは小さい頃から恵まれた身体をしていたため、お寺主宰のこども相撲で頭角を現していたのだが、ハルキ本人がまわし姿を恥じるようになり、それならばとリトルリーグの監督であるナオの大叔父がスカウトして連れて来たのだった。
ハルキが入ってくるまでナオはピッチャーを目指していた。が、しかし。ハルキの投げる子供らしくない豪速球を見た途端、ナオの心の中に白旗が上がった。ナオはキャッチャーに転向することにした。
ハルキの球を受けるのはとても苦労したが、直の名前の通り、素直なナオは何度もハルキに頼み込み、練習に練習を重ねてハルキの豪速球を受ける事が出来るようになった。
このままずっとバッテリーを組んでいくのだろうと思っていた二人だが、中学に入り、ナオの背は思った以上に伸びなかった。牛乳をがぶ飲みしたり、プロテインを摂ったり、麹屋らしく甘酒を豆乳で割ったものを飲んだりと、身体に良さそうなたんぱく源を片っ端から摂ってはみたものの、高校でキャッチャーを任されるほどの身体には成長出来なかった。
仕方なくナオは高校の部活は野球を選択しなかった。野球以外の、サッカーだの、バスケだの。チームで行う部活はなんとなく気が引けて、陸上部に入る事にした。野球でそこそこ鍛えていたため、記録会でそれなりのタイムと出せたとき、ナオは野球以外でも俺は大丈夫だなとほっと胸を撫で下ろした。
ナオとハルキは部活こそ違うことになったが、朝練や放課後の練習時間はそれほど変わりがなかったため、タイミングを合わせて登下校を一緒にすることが多かった。しかし、あの黒髪美少女の告白場面を目にしてから、ナオはハルキを避けるようになってしまう。ナオが一人で帰る下校時間に数度、ハルキと黒髪美少女が連れ立って下校している様子を見たため、ナオの失恋は決定的になった。
そう、ナオはハルキを恋愛的な意味で好きだったのだ。
夏の始まりにナオの住む地域では夏祭りがある。
ナオとハルキは連れ立って山車を引いたり、こども神輿を担いだりしていたので、小学校を卒業して山車と引く必要も、こども神輿を担ぐ必要もなくなっても、毎年この夏祭りへ一緒に出掛けていた。ここのところナオはハルキのことを避けがちだったが、ナオとハルキが住む地区と、黒髪美少女が住む地区は離れているため、この夏祭りに関してはナオはハルキに誘われるに違いないと、淡い期待をしていた。しかし、ハルキからのメッセージは待てど暮らせど来ない。仕方がない、こちらから誘うかと期末試験の最終日にハルキの教室に行くと、黒髪美少女と談笑するハルキがいた。
(あ、ダメじゃん。やっぱり誘っちゃったらいけないじゃん)
ナオは夏祭りへ誘う言葉を飲み込み、ひとりでトボトボと下校をした。
0
あなたにおすすめの小説
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました
多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。
ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。
ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。
攻め
ユキ(23)
会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。
受け
ケイ(18)
高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。
pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる