すべては誤解だったけど、なぜか二人の男に愛されています。これはきっと冬の花火のせい

橘 咲帆

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10.「好き」が欲しい

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(これ、絶対なんでもなくないやつじゃん)

 ハルキは、ナオが見つめていた先を見た。すると、そこにはタケヒコが品のいいセットアップにふんわりとしたカシミヤのコートを羽織った女性と並んで歩く姿があった。タケヒコはいつも通りの、ラフでありながらもさりげなくハイブランドを取り入れた育ちの良さような佇まいだ。その横を自転車が通りかかると、タケヒコは女性をかばうように肩を抱き、自分の横に引き寄せた。その流れるような動きは一幅の絵を思わせ、二人の様子はまさに「お似合い」という言葉がぴったりと当てはまった。

 ガタリ。
 ナオが突然立ち上がった。

「ごめ、俺、先に帰る」
「ナオ? ナオが帰るなら、俺も帰るよ」

 タケヒコはもう既に移動したようで、ハルキが見回してもその姿を捉える事は出来なかった。ひょっとしたら、近くのビルの中にでも入ったのかも知れない。それよりもナオだ。ハルキが少し目を離した隙に、もう既に改札を抜けようとしている。慌てて追い着き、一緒の電車に乗り込んだ。並んで座っていても、ナオは一言も発することはなかった。

「あのさ」

 漸く言葉を発したのは、最寄りの駅に着いた時だった。最寄りの駅の改札を抜けた先には小さな広場があり、真ん中には噴水がある。噴水といえども水は流れていない。以前は水をたたえた噴水であったが、今は自治体の予算の関係なのかは不明だが、水が流れていない。ナオもハルキもここに水が流れていたことを見たことはなかったが、父母や、昔からここに住む住人が「噴水」と呼称しているので、ナオもハルキも「噴水」呼んでいる。その噴水を囲うように、ベンチがぐるりと一周している。ナオはベンチに座り、感情を吐露した。

「あのさ、ハルキは気付いているかもと思っていうけど......」
「兄ちゃんと付き合ってるんだろ?」
「……やっぱりバレてた?」

 珍しく、影を落とした微笑みを浮かべるナオに対してなのか、ずっと秘められていたことを明かされたことに対してなのか。ハルキの心臓は早鐘を打つ。

「わかるだろ。そりゃ」

 彼女がいるといいつつ、試験中の帰り道に駅で別れて足早にタケヒコのペントハウスに向かうナオの後ろ姿。勉強を教えてもらっているなんていう言い訳など通用しないような、会いたくて堪らないといった足取り。いや、もちろんそれ以前に、夏の日にナオの家でその確信は持ってはいたが、その確信はいくつもの確証を得て、揺るぎない事実としてハルキの心に突き付けられていた。その事実は、小さく震えるナオの肩を抱くことも躊躇われるようなものだった。ナオは素直で、一途だ。ハルキはここ数ヶ月で自覚した自分の気持ちを飲み込み、そっとナオの横に寄り添った。

「……でも、さ。付き合ってんのかどうなのか、正直、わかんねぇ」
「なんで?」
「なんか、兄ちゃん、決定的な事言わなくて」
「決定的な事?」
「好きって、言われてない」
「え?」

(どう見たって、兄ちゃんはナオに執着してんじゃん)

 脇の甘いナオは何度もハルキの前で隠しきれない鬱血痕を晒している。一度、マンションの前で二人でいるところを目撃したことがあるが、タケヒコははっきりとハルキを見て、ふっと笑った。あれはきっと牽制だ。その後、ハルキに気が付かないナオを完璧なエスコートで助手席にいざない、バタンと重たげな音を立てて車のドアを閉めると、自分も運転席に収まり、静かなモーター音をさせてエンブレムが輝く高級車を発進させて走り去って行った。

 あんなの。あんな事。俺、一生ナオにやってやれない。野球は頑張ってはいるけれど、プロになるのは程遠い。実家だって極々普通な中流サラリーマン家庭だ。
 決定的な経済的格差を見せつけられて、ハルキは白旗を上げるしかなかった。
 ──でも……。

「ナオは「好き」の言葉が欲しい?」
「そ、だね。兄ちゃんは本家の跡継ぎだし、俺、男だし.....やっぱ無理だよね......」
「それ、俺からじゃ、だめ?」
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