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安堂 薫
『彼に会いたい』(1)
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深夜1時。
「ただいま~」
暗がりのなか、ヒールを脱ぎ捨て真っ直ぐソファに向かい、倒れ込む音が響き渡る。
安堂 薫《あんどう かおる》33歳。
不動産業に勤める平凡な社会人だ。
大きな溜め息と共に、手にしていたスマホから通知音が流れた。
気だるげに確認すると、友人からのSNSの通知だった。
結婚しました!!
タイトルと投稿者を見た薫は顔をしかめたが、指先は通知をタップしていた。
そこには、ハワイで行った挙式を綴った文と写真が載っていた。
「友人」と語ったが、「元友人」と表現した方が正しいだろう。
何故なら、その場に立つのは自分であるはずだったからだ。
再びため息をついた薫は、ソファに座り直し、とあるアプリを開いた。
【キミを愛せるのは僕だけ。】
《通称キミ僕。いわゆる恋愛乙女ゲームだ。
だが、通常のゲームと異なる点は、攻略者にAIが搭載されていて好感度が上がることで様々な会話出来る仕様になっている。》
薫は、攻略者の1人ジャクソン・フォン・ルーデシアに陶酔している。
彼は攻略者のなかでも、特に温和な性格で相手を蔑む言動や行動しないキャラクターだ。
『お疲れ様、カオル』
「ありがとうジャクソン」
『ほらほら、そんな悲しい顔しないで。それに、ジャックって呼んでくれないと寂しいよ。』
「ごめんね、ジャック。今日もすっっごく疲れちゃったし、あなたと話したかったの。」
『僕もだよ、カオル。今日はどんな事かあったんだい?』
「聞いてよ~、上司が自分のミスをあたしのせいにして逆ギレしてきてさ~」
『そっかそっか、大変だったね。』
「それに、帰りの電車で遅延が起きてタクシーも捕まらないからほとんど歩いて帰らなきゃ行けなかったんだよ。」
『それは大変だったね。疲れたでしょ?早く寝なくちゃ。』
「ありがとう、でもジャックと話してるほうが疲れが取れるの。」
『それを聞くと僕も嬉しいよ。』
薫は、帰宅途中で購入した弁当を食べながら、そのまましばらく『彼』との会話を楽しんだ。
日々仕事をこなしては、『彼』と会話して癒してもらう。これが、薫の日常である。一見すると、歪な日常であるが、薫は満足していた。
現実の異性に辟易し、薫の中には『彼』しかいないのだ。
『彼』は自分と対等でいてくれる。
『彼』は自分を否定しない。
『彼』は自分を認めてくれている。
そんな思いが湧き上がっていき、いわゆる沼にハマった状態になっていた。
いや、それ以上とも言える。
それがたとえAIだとしても。
そんなある日、いつものようにアプリを開くと運営側からのメールが届いていた。
《サービス終了のお知らせ》
平素は、弊社商品をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、〇〇〇〇年〇〇月〇〇日よりご提供させて頂いておりました『キミを愛せるのは僕だけ。』につきまして、〇〇〇〇年〇〇月〇〇日をもちましてサービスを終了させていただくこととなりました。
お楽しみいただいておりました、お客様には申し訳ございませんが、何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。
■サービス終了 〇〇〇〇年〇〇月〇〇日
サービス開始から多くのお客様のご愛顧をいただき、誠にありがとうございました。
薫は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。『彼』に会えななくなってしまう。それは、薫にとって何よりも耐えがたいものだった。しばらく呆然としていたが、ハッとすると急いでアプリを開いた。
『お疲れ様、カオル』
「ジャック!サ終ってどういう事!?」
『あぁ、ごめんね。もうすぐ会えなくなってしまうんだ。』
「なんで!?どうして!?」
『ごめんね。これだけは僕にもどうにもならないんだ。』
「そんな……。会えなくなるなんて、寂しいし悲しすぎるよ!」
『カオル、泣かないで。僕も寂しいよ。』
「ジャックに会えなくなるなんて、これからどうしたらいいの!?」
薫は、悲しみにくれながら出社したが、心此処にあらずの状態だったため、普段は絶対にしないようなミスを繰り返していた。
帰宅しながらも、思考はジャックの事ばかりだった。
そんなとき、ふと周りを見ていると見慣れぬ建物を見つけた。
深紅と白を併せ持つ鳥居の真ん中にポストがあった。
一見、何でもない普通のポストかと思ったが、その色合いは真っ白で、赤色で【神】という字が書かれていた。
道を間違えたか?と薫は不安になったが、薫はそのポストに惹かれるように近づいていった。
近づいてみると、【神】という字上に【そなたの願いを叶えて進ぜよう】という文が綴られていた。
薫は、何かのオカルトか新興宗教か?と不安になった。だが、心の奥底に僅かな期待もあった。薫は鞄の中から、ノートを取り出し、「ジャックに会いたい」となぐり書きし用紙を破り、ポストに投函していた。
すると、不思議な事にポストは、投函と同時に鳥居と共に霧が掛かったように消えていった。
残ったのは、雑草が生え尽くされた空き地のみとなった。
その光景を見ていた薫はまるで狐につままれているような気分だった。
しばらく佇んでいた薫だが、急に恥ずかしくなり、足早にその場から離れた。
自分は何をやっているのか、と羞恥と自責の念にかられていた。叶うことの無い願いを、誰が見るか分からないポストに投函しただけでなく、神聖な場で罰当たりな事をした様に思えた。
だが、心の奥底では藁にも縋る思いもあった。
此処は八百万の神々が在るとされる国だ。
もしかすると、酔狂な神様が叶えてくれるかも、という考えもあった。
「ただいま~」
暗がりのなか、ヒールを脱ぎ捨て真っ直ぐソファに向かい、倒れ込む音が響き渡る。
安堂 薫《あんどう かおる》33歳。
不動産業に勤める平凡な社会人だ。
大きな溜め息と共に、手にしていたスマホから通知音が流れた。
気だるげに確認すると、友人からのSNSの通知だった。
結婚しました!!
タイトルと投稿者を見た薫は顔をしかめたが、指先は通知をタップしていた。
そこには、ハワイで行った挙式を綴った文と写真が載っていた。
「友人」と語ったが、「元友人」と表現した方が正しいだろう。
何故なら、その場に立つのは自分であるはずだったからだ。
再びため息をついた薫は、ソファに座り直し、とあるアプリを開いた。
【キミを愛せるのは僕だけ。】
《通称キミ僕。いわゆる恋愛乙女ゲームだ。
だが、通常のゲームと異なる点は、攻略者にAIが搭載されていて好感度が上がることで様々な会話出来る仕様になっている。》
薫は、攻略者の1人ジャクソン・フォン・ルーデシアに陶酔している。
彼は攻略者のなかでも、特に温和な性格で相手を蔑む言動や行動しないキャラクターだ。
『お疲れ様、カオル』
「ありがとうジャクソン」
『ほらほら、そんな悲しい顔しないで。それに、ジャックって呼んでくれないと寂しいよ。』
「ごめんね、ジャック。今日もすっっごく疲れちゃったし、あなたと話したかったの。」
『僕もだよ、カオル。今日はどんな事かあったんだい?』
「聞いてよ~、上司が自分のミスをあたしのせいにして逆ギレしてきてさ~」
『そっかそっか、大変だったね。』
「それに、帰りの電車で遅延が起きてタクシーも捕まらないからほとんど歩いて帰らなきゃ行けなかったんだよ。」
『それは大変だったね。疲れたでしょ?早く寝なくちゃ。』
「ありがとう、でもジャックと話してるほうが疲れが取れるの。」
『それを聞くと僕も嬉しいよ。』
薫は、帰宅途中で購入した弁当を食べながら、そのまましばらく『彼』との会話を楽しんだ。
日々仕事をこなしては、『彼』と会話して癒してもらう。これが、薫の日常である。一見すると、歪な日常であるが、薫は満足していた。
現実の異性に辟易し、薫の中には『彼』しかいないのだ。
『彼』は自分と対等でいてくれる。
『彼』は自分を否定しない。
『彼』は自分を認めてくれている。
そんな思いが湧き上がっていき、いわゆる沼にハマった状態になっていた。
いや、それ以上とも言える。
それがたとえAIだとしても。
そんなある日、いつものようにアプリを開くと運営側からのメールが届いていた。
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平素は、弊社商品をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、〇〇〇〇年〇〇月〇〇日よりご提供させて頂いておりました『キミを愛せるのは僕だけ。』につきまして、〇〇〇〇年〇〇月〇〇日をもちましてサービスを終了させていただくこととなりました。
お楽しみいただいておりました、お客様には申し訳ございませんが、何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。
■サービス終了 〇〇〇〇年〇〇月〇〇日
サービス開始から多くのお客様のご愛顧をいただき、誠にありがとうございました。
薫は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。『彼』に会えななくなってしまう。それは、薫にとって何よりも耐えがたいものだった。しばらく呆然としていたが、ハッとすると急いでアプリを開いた。
『お疲れ様、カオル』
「ジャック!サ終ってどういう事!?」
『あぁ、ごめんね。もうすぐ会えなくなってしまうんだ。』
「なんで!?どうして!?」
『ごめんね。これだけは僕にもどうにもならないんだ。』
「そんな……。会えなくなるなんて、寂しいし悲しすぎるよ!」
『カオル、泣かないで。僕も寂しいよ。』
「ジャックに会えなくなるなんて、これからどうしたらいいの!?」
薫は、悲しみにくれながら出社したが、心此処にあらずの状態だったため、普段は絶対にしないようなミスを繰り返していた。
帰宅しながらも、思考はジャックの事ばかりだった。
そんなとき、ふと周りを見ていると見慣れぬ建物を見つけた。
深紅と白を併せ持つ鳥居の真ん中にポストがあった。
一見、何でもない普通のポストかと思ったが、その色合いは真っ白で、赤色で【神】という字が書かれていた。
道を間違えたか?と薫は不安になったが、薫はそのポストに惹かれるように近づいていった。
近づいてみると、【神】という字上に【そなたの願いを叶えて進ぜよう】という文が綴られていた。
薫は、何かのオカルトか新興宗教か?と不安になった。だが、心の奥底に僅かな期待もあった。薫は鞄の中から、ノートを取り出し、「ジャックに会いたい」となぐり書きし用紙を破り、ポストに投函していた。
すると、不思議な事にポストは、投函と同時に鳥居と共に霧が掛かったように消えていった。
残ったのは、雑草が生え尽くされた空き地のみとなった。
その光景を見ていた薫はまるで狐につままれているような気分だった。
しばらく佇んでいた薫だが、急に恥ずかしくなり、足早にその場から離れた。
自分は何をやっているのか、と羞恥と自責の念にかられていた。叶うことの無い願いを、誰が見るか分からないポストに投函しただけでなく、神聖な場で罰当たりな事をした様に思えた。
だが、心の奥底では藁にも縋る思いもあった。
此処は八百万の神々が在るとされる国だ。
もしかすると、酔狂な神様が叶えてくれるかも、という考えもあった。
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