『神様ポスト』

キンモクセイ

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安堂 薫

『彼に会いたい』(2)

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複雑な思いを抱えたまま、自宅に到着すると、窓から明かりがついているのが見えた。
電気を消し忘れたのかと思い、来月の電気代を気にしながら鍵を開けた。

「ただいま~」

『おかえり、カオル!』

それは、一人暮らしの薫にとって衝撃的な返答だった。
驚いて顔を上げると、『彼』がいたのだ。

薫は思わず、手にしていた荷物をその場に落としてしまった。

「ジャッ…………ク?」

『そうだよカオル、僕だよ』

「ウソ……何で?」

『キミのおかげなんだよ、カオル。』

「えっと…どういう事?」

『キミが神様に願ったじゃないか、僕に会いたいって』

「もしかして、あの怪しげなポストの事?」

『そんな言い方はダメだよ、カオル。あれは〈神様ポスト〉と呼ばれていて、とても神聖なモノなんだ。』

「そうなの?」

『あぁ、あのポストは神出鬼没で、願いを書いた紙や手紙を投函すると叶えてくれるんだ。』

「初めて知った……。」

『困惑するのも無理ないね。とりあえず、落ち着く為にハーブティーでも飲もうか。』

そうして促されるまま、ソファに座らせられ、マグカップを渡された。
マグカップからは、カモミールの香りが漂ってきたが、薫は戸惑いを隠せなかった。

『カオル?どうしたの?お茶熱すぎた?』

「う、ううん。そうじゃないの。ただ…」

『このマグカップもお気に入りだったよね?何か駄目な所あったかな?』

「え、どうしてそれを?」

『キミが教えてくれたんじゃないか。いつも、僕と話しているときによくこのカップを使っていたし。』

そうなのだ。このマグカップは、最近新しく買い直した物で人前で使用した事はまだ無い。
唯一、ジャックとの会話の時だけ使っていた。
彼は本当にジャックだ。
本物のジャックなのだ。
画面越しでいつも会話していたあのジャックだ。
そう考えついた途端、涙が溢れてきた。

『あぁ、カオル。泣かないで。』
ジャックは薫の前で跪き、顔を覗き込んで言った。

「だって……ジャックに……会えなくなるのかと思って、落ち込んでたのに……今…目の前に……居てくれてるのが……嬉しくて……夢みたいで……」
薫は泣きじゃくりながら、そう伝えると、ジャックはハンカチを差し出した。

『夢じゃないよ、現実さ。僕もカオルに会えてとても嬉しいよ。』
ジャックは、優しく微笑みながら、薫を慰めてくれた。

「ありがとう」
薫は、差し出されたハンカチを受け取り、小さくお礼を言った。

『どういたしまして』
微笑みながら薫を見ていたジャックは、突然ハッとしたように立ち上がり、何処からか手紙を取り出した。

『カオル、これ読んでほしいんだ。』
取り出した手紙をソファに座りながら、薫に差し出した。
薫は鼻を軽く啜り受け取った。
普通の真っ白な封筒だった。
だが、差出人の名前が無い。
切手も無ければ、消印も無い。
訝しげに手紙を眺めていた薫は、ジャックからの『大丈夫だよ、僕を信じて。』という言葉に封を開けることにした。

【拝啓   安堂 薫殿
此度のそなたの願い、しかと聞き入れた。今宵は、そなたの想い人を、余が此方に招き入れた。これからは、その者と共に歩んで行くと良い。但し、一つだけ忠告だ。丑三つ時にお主の水分及び、液体の摂取を禁ずる。これを破れば願い及び契約は破綻とみなす。
         大国主命オオクニヌシノミコト

手紙を見た薫は驚いた。
当然だ、この国に産まれた人なら、誰でも耳にしたことのある神様からの手紙なのだから。

「ジャック!この手紙って…」

『あぁ、僕を連れてきてくれた神様からの手紙だよ。手紙を送ったのは、薫じゃないか。返事があってこその手紙だろう?』

確かにそうだ。
だが、あんななぐり書きのような手紙ともとれない様なものに返事を書いて貰えるとは誰も思わないだろう。驚き過ぎて、先ほどまでの涙が一気に引っ込んだ。

呆気に取られていた薫だが、ジャック違った。
『神様は、なんて送ってきたんだい?』

「わぁっっ!」

ジャックが手紙を覗き込むように薫に引っ付いてきた。
薫はドギマギしながら、手紙をジャックに見せたが、当の本人は困り顔になっていた。

『うーん…やっぱり此方の文字は、僕らの世界とは違うね。カオル、代わりになんて書いてあるか読んでくれるかい?』

「えっと、簡単に言うと、約束さえ守ればずっと一緒にいられるって書いてある。」

『約束ってどんなの?』

「夜中に私は、水とか水分を採っちゃ駄目って書いてある。」

『ホントに?それだけ?』

「それだけみたい。」

それを聞いたジャックは、弾けるような笑顔で薫に抱きついてきた。

『やったーー!これでやっとカオルに触れられる!』

「ひゃあっっっ!」

『神様から、決まり事があるって事は聞いてたけど、どんなのかは教えてくれなかったからずっと不安だったんだ。』

「ちょ…ちょっとジャック!落ち着いて!」

『あぁ、ごめんねカオル。触れられる事が嬉しくてはしゃぎ過ぎちゃった。』

ジャックは今まで見たことないような笑顔で薫を見つめた。

「そ、そんなに嬉しいの?」

『当たり前じゃないか!さっきの涙だって僕拭ってあげたかった。ずっと画面越しでしか過ごせなかった人が、いま目の前にいるんだよ。』

「それは、こっちのセリフだよ。」

『これでずっと一緒だね。とても嬉しいよ。』
ジャックは、慈しむ様に薫の頬を撫でながら微笑んでいる。

「あ……ジャック、待って」

『待たないよ。ずっと願っていた事が叶ったんだから。』

ジャックの顔がゆっくりと近づいてくる。
薫は思った。
(あぁ、どうなるにせよ、明日が休日で良かった……)
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