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14.引き出し
しおりを挟む机の引き出しって、まさか過去や未来にいける某マシーンか……?
どこでも扉には注意をしていたが、机の引き出しにまでストーリー強制力が作用するとは夢にも思わなかった。頭の中で、竜士がすまなさそうに謝っている。
リューイは、しとしとと小雨の降る庭園で、呆然と座り込んだ。
さっきまでいたはずの船どころか、海さえ見あたらない。
吹き荒れていた暴風雨も、足もとが浮き上がるような大波も、天井の低い船内も何もない。
リューイの目の前は、規則正しく切りそろえられた木と丁寧に手入れをされた花が雨粒に震えているだけだ。
あたりはとても静かだった。
身じろぎをすると、手元に何かが当たりカチャリと音がした。
リューイの指先に、令嬢のブローチがぶつかって音を立てたらしい。
リューイは震える手で地面に転がるブローチを拾うと、そっとハンカチで包み、外套のポケットにしっかりと仕舞い込んだ。
これがあるかぎり、夢ではなかったのだと信じられる。
きっと、これからまた何かしらのゲームのストーリーに強制参加させられるのだろう。
それでもこのブローチを令嬢に返すまでは、死ぬものか。
リューイは新しい目標を胸に、くじけずに何度でも逃げ出してみせようと立ちあがった。
耳を澄ませ、あたりを見回す。
剣がぶつかり合う音が近付いてくるのが分かった。
木の陰から盗み見ると、逃げる刺客と追いかける騎士が入り乱れる戦闘が始まっていた。
水分を吸って重くなった外套が、リューイの動きを遅くする。
リューイは音を立てないように気配を消して木に隠れた。
いざというときに身を守ろうと、外套の下に隠し持っていたナイフを手に持つ。
武器というよりは生活用のナイフだけども、何もないよりはましだろう。
なんとかこの場から逃げられないかと辺りを見回すリューイの視界に、この国では珍しいピンクブロンドの髪が目に飛びこんできた。
刺客らしき男に俵担ぎされているのは、聖女ルルンだった。
一瞬、ロープで拘束されている聖女の手が赤く見えた。
しかし騎士の攻撃を避ける刺客の動きは速く、外套のフードで視界が狭くなっているリューイにはよく見えない。
物語の主役でもある聖女が、大きな怪我をするようなエピソードなんて、竜士から聞いたこともない。見間違えたのだろうか。本当に聖女だろうか。
あの優しい人に、怪我なんてして欲しくない。
リューイがしっかり確認しようとフードを外したちょうどそのとき、聖女と目が合った。
いつも微笑みをたたえる瞳は怯えたように潤んでいる。
そして、白い腕からは赤い血が流れ、ほっそりとした手首に不釣り合いなロープを赤く染めながら、地面にしたたり落ちていた。
「聖女さま……っ!」
あまりの光景に、リューイは叫んだ。
助けようと木陰から走りだしたリューイの頭に、ガツンと強い衝撃が走る。
突然のことに痛みを感じる間もなく、リューイはぶつりと意識を手放したのだった。
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