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17.強火なファン
しおりを挟むカチャリ。
石造りの地下牢に、小さな金属音が響いた。
眠りの深いリューイに代わって、竜士が目を覚ます。
地下の牢屋では、時間経過が分からない。もう朝日が昇ってしまったのだろうかと焦りながら、竜士は体を起こした。
狭い牢獄だ。
鉄格子の内側に立つピンクブロンドの人物が否応なしに目に飛び込んできて、竜士は何度も目を瞬いた。
聖女ルルンが、なぜ地下牢に……?
いやまさか、本物なはずがない、どうやって中に、いやそれよりも何の目的で……。
竜士は混乱し、寝起きの頭は簡単にフリーズした。
「どうかお静かに」
聖女さまは小声でそういいながら、白く細い指をそっと口の前に立てた。
その声も、確かに聞き覚えのある聖女さまのもので。
あまりにも荒唐無稽すぎて夢だと思いたかったが、リューイの手に触れた聖女さまの温もりがあまりにもリアルで、竜士は矢も盾もたまらずリューイを起こした。
――ちょちょちょ、起きて、リューイ、今すぐ起きて!
「うううん、あと五分」
――いいからお願い! マジで俺どうすりゃいいの。起きろってば!
竜士の必死な様子に、リューイはしぶしぶ目を覚ました。
ぱちぱちと瞬きしながら体の主導権を譲り受けると、目の前では聖女さまがちょうど手枷の鍵を外したところだった。
竜士は、リューイが大声を出す寸前で口を押さえ、なんとか叫ぶのを防いだ。
――気持ちは分かるけども、静かにな。大きな声を出したら看守が来るだろ。
「ど、ど、ど、どういう事です、か?」
寝起きで状況をまったく理解できていないリューイは、かすれ声で尋ねた。
「リューイ様、まずは助けに来るのが遅くなってしまったことをお許し下さい。もっと早く来たかったのですが、私も軟禁されていて。でもまさかこんな所に……。この仕返しは、どうか私にお任せ下さいね。
ともかく、リューイ様は一刻も早くお逃げください」
聖女は、手にしていたピン一本で、素早くリューイの足枷を外していく。
リューイは自由になった手足に驚きながらも、姿勢を正して首を横に振った。
「いけません。たとえ逃亡の手伝いをしただけでも、逃走援助罪という立派な犯罪となります。こうなってしまった以上、もうどこにも逃げ場はないと理解しています。聖女様まで罪を被る必要はありません」
「困ったわ、どこから話せばいいのでしょう。
私はリューイ様を助けたい一心で、今まで耐えてきたのです。リューイ様の処刑エンドを回避するためだけに、すべての攻略対象者の好感度を同等に上げてきたのですよ。どれだけ大変だったことか! 血反吐を吐く思いでこんなにも頑張ってきたのに、推し一人守れないなら聖女なんてクソ食らえなんですよ!」
「せ、聖女さま……?」
「仲良くなりたいなんておこがましい事までは望んでいません。ですが処刑エンドを回避して推しの健やかな毎日を法に触れない範囲で遠くから観察しあわよくばリューイさまの恋を応援するモブになりたいと望むくらいいいじゃないですか!
面倒な聖女役としてこの世界を救うために奮闘するんですから! 世の中ギブアンドテイク! 一方的な搾取はお断りなんですよ! ね、そう思いますよね!?」
待って、怒濤の情報量!
竜士の聖女さまのイメージが、オタク色で塗りつぶされていっちゃう。
だけど嫌かというとそんなことなくて、親近感があってそんな聖女さまも好感持てます!
でもちょっと待ってね。声のボリュームが危険な感じで、僕、なんだかハラハラしてきました。
「あ、あの、聖女さま、お声のボリュームがいささか大きくてですね……」
「やだ、すみません。今までの鬱憤から、少し興奮してしまったみたいで」
勇気を出してリューイが声をかけると、聖女さまはえへへと笑った。
その仕草が可愛くて、自然で、まるで友達と話すときみたいに親しげで、リューイはもじもじと顔を赤らめた。
やっぱり聖女さまも転生者なんだよね。ゲーム内容まで知ってるみたいだし、これはもう間違いないでしょう。
僕の中の人にも転生者がいるよって打ち明ける? 聖女さまとお喋りしたいことがいっぱいあるんだよねぇ。話していいかな? 話しちゃおっかな?
そんなリューイに対し竜士は、リューイはあくまでゲームの中の推しなわけで、推しの中の人が転生者じゃリアルすぎてナマモノNGな可能性がどうのこうのと騒いでいる。
しかし悩んだのは一瞬。
リューイはあっさりと竜士にバトンタッチしたのだった。
これは、同じ世界出身者同士で話したほうがいいという配慮だよ! 逃げたわけじゃないんだからね!
「恋する聖女・ルクラント学園で推せるキャラはいっぱいいましたが、俺の最推しは幼馴染みのローでした! 恋愛シミュレーションゲームと思えないようなキャラとストーリーの掘り下げの深さに、隠れ攻略者エンドまで全クリ済みで! うおお、まさかあのゲームを知っている人と話ができる日が来るとは……っ!」
聖女さまは目を輝かせた。
「まさかリューイさまも転生者なんですか……っ!? すごく嬉しいです! ああ、だけど残念なことに、趣味が悪い! リューイさま以外にリューイさま以上の人なんてこの世に存在しませんけど!?」
「ちょ、本人を前にして強火すぎません? いやいやいや、本当に? 言っちゃ悪いけど悪役令息じゃん? 俺は好感度上げを邪魔されてイライラした記憶しかなかったけどなぁ」
「もっっっったいない!! リューイさまはツンデレドジっ子、実は素直ないい子なのに悲しい過去があっていじらしくて健気で美人薄命という、もうとんでもない属性致死量キャラなんですよ!?
しかも悪役といいながらやってる悪事の可愛らしさは、もはや子猫ちゃんのいたずら!! 公式が殺しにかかってきてるんですから、もうね、私の界隈ではリューイさまという沼で溺死した人ばかりでしたよ!?」
「界隈って」
「それ以上は知らぬが仏、言わぬが花……っ! 美男子しかいない男子校という時点で察してください!」
「あー……なるほど……」
リューイには何がなるほどなのかチンプンカンプンだった。
それでも聖女さまに褒められて?いるのはなんとなく分かったので、内心では恥ずかしさにモジモジしながら耐えていた。
竜士にバトンタッチしていて本当に良かったと思うばかりだ。
何よりも竜士が楽しそうなのがとても嬉しくて、リューイは邪魔をしないように静かにじっと耳を傾けていた。
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