悪役令息の異世界転移 〜ドラゴンに溺愛された僕のほのぼのスローライフ〜

匠野ワカ

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23.住まいづくり

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 リューイは改めてツリーハウスを確認した。

 リューイには貴族社会の知識しかない。
 いわゆる美術品に対する造詣は深いが、生活力は皆無である。
 
 何をどうしたらいいのかなんてさっぱりだが、とりあえず有難いことに、すでに家の骨格はあるのだ。

 断罪される運命からしたら、屋根があるところで生きているだけでヨシだろう。うむ。




「ここは暑いみたいだから、今みたいな開放的なお家っていいよね」

ーー壁がないのは、ドラゴンのせいだぜ? 覗きこもうとして、壊されたんだ。悪気はないんだろうが、あいつ無駄にでかいから。

「ありゃりゃ。でもさ、床も今みたいに隙間があれば、床掃除しなくて良さそうだしね、うん、見晴らしもいいし、いいお家だよね。僕、気に入っちゃった!」

ーーならよかった。あとは、ベッドに、テーブルや椅子も欲しいな。

「そうだね! あっ! 暗くなる前に、ライトがいるんじゃない?」

ーー虫除けもいるだろうな。光に集まってくるぜ。わんさか。

「ああああ、僕、虫だけは無理ぃ! 寝る時だけでもお家、密閉しない?」

ーー好奇心旺盛なあのドラゴンに壊されなきゃいいなぁ。

「んぎぃ、そこはお願いしてなんとかならないかなぁぁぁ」



 ドラゴンはリューイから片時も視線を外さない。立ち去る気配なんてまったくない。

 友好的な意思疎通は大切だよね。今後に期待していこう。  



 とりあえずは竜士の知識を総動員して、虫除け効果のありそうなハーブを家のあちこちに配置することになった。



 木から唐突ににょっきりと生える植物。

 違和感がすごいが、薄目で見たらオシャレなインテリアに見えなくもない。




「竜士、これは?」

ーー紫の花が咲いてるのはラベンダー。そこら辺の葉っぱは、ミントとレモングラス。ぜんぶ防虫効果が高い植物だよ。ユーカリにはたしか殺菌効果があって、こっちのローズマリーは料理にも使える。


「すごいねぇ。そうだ、お部屋のライトは、お花みたいなのが光ったらかわいくない?」


 リューイがそういうと、スズランに似た白い花が、天井や床でほんわかと光りはじめた。
 

ーーすげえ。架空の植物もいけるってことか。いいじゃん。あとでテーブルランプも作ってよ。


 竜士に褒められたことが嬉しくて、リューイはさらにあちこちを光らせていく。




ーーさてと。ベッドは、ハンモックにするか。これだけ暑けりゃ、夜もタオルケット一枚でいけるだろ。


 部屋の壁と壁を繋ぐ細くしなやかなツタが、網のようにからまっていく。


「これって、ベッドなの?」

ーーああ。キャンプで使ったことあるんだけど、なかなか良かったんだよな。でもリューイが試してみてあんまりだったら、ベッドも作ろうぜ。

「空中にベッドがあるなんて、世界は広いねぇ。僕、ここで寝るの楽しみだな!」


 リューイは空中にできた網を、押したり引いたりしながら楽しそうに揺らしている。



ーーあとは布なんだよなぁ。植物から布を織るなんて俺には無理だから、最初からコットンが薄く平らになって生えてきて欲しい。架空の植物、頼む!




 竜士の願いに応え、植物が動きだす。ツリーハウスの上からざわざわと音が聞こえる。
 
 リューイが見上げると、大きなハイビスカスに似た薄黄色の花が咲き始めていた。


 それはすぐに花の盛りを過ぎ、しぼみ、実ができて、あっという間に硬い殻がはじけた。


 茶色くなった殻からは、ぽふんと丸い綿があふれている。



 リューイが背伸びをしてそっと触れると、丸い綿がふわりとほぐれ、手の中に落ちてきた。
 軽く、触り心地もいい。
 広げたら、寝具にピッタリだった。


「はぁぁぁ、すごいね!? すごいよ! これで服とかもできちゃうんじゃない!? すごい! 植物の魔法、万能だぁ! 植物すごい! 植物ありがとう!」
 

 リューイは興奮のままタオルケットに顔を埋めようとして、竜士に止められている。

ーーやめろ汚すなよ! 部屋ができたら、次はシャワーをつくろうぜ。俺は汚いまま寝たくない。

「シャワー! いいね賛成! でも、どうやって?」


 ここは崖の上。さらに木の上だ。近くに綺麗な川でもあればいいけど。


 雨上がりの森は、水滴をキラキラと反射している。
 崖の下には、茶色い大きな川が流れているのが見えた。
 



「あの川は、遠いし、なんだか汚そう……」

ーー熱帯雨林の水辺なんて、どんな危険な生き物がいるか分かったもんじゃない。細菌も心配だしな。やめとけ。

「でも、水の魔法は使えなかったんだよね?」

ーーまぁ任せとけって。



 竜士はリューイから体を借りると、移動するための階段を作っていった。

 シュルシュルと音をたてて、手すり付きの下り階段ができていく。

 メインのツリーハウスからやや奥まった森の中。

 竜士は何度か頭上を確かめ、ツリーハウスが目隠しになる辺りに今度は床を作り始めた。

 3本の木の間に、太めのツタが絡み合う。
 下に水が抜けやすいように、やや粗めの床にしておいた。


「壁は、なくてもいいか。でも目隠しは欲しいな」


 南国の大きな葉っぱを目隠しに茂らせて、シャワールームを作っていく。



 ドラゴンは鼻をぶふぅーーと鳴らしながら、覗きやすい角度を探して右往左往していた。



「一応、見えてるだろ。せっかく作った家を壊すなよ」



 竜士が手を振ると、ドラゴンは首を縮めるようにして覗きこみ、ピャアと情けない声で鳴くのだった。








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