23 / 24
23.住まいづくり
しおりを挟むリューイは改めてツリーハウスを確認した。
リューイには貴族社会の知識しかない。
いわゆる美術品に対する造詣は深いが、生活力は皆無である。
何をどうしたらいいのかなんてさっぱりだが、とりあえず有難いことに、すでに家の骨格はあるのだ。
断罪される運命からしたら、屋根があるところで生きているだけでヨシだろう。うむ。
「ここは暑いみたいだから、今みたいな開放的なお家っていいよね」
ーー壁がないのは、ドラゴンのせいだぜ? 覗きこもうとして、壊されたんだ。悪気はないんだろうが、あいつ無駄にでかいから。
「ありゃりゃ。でもさ、床も今みたいに隙間があれば、床掃除しなくて良さそうだしね、うん、見晴らしもいいし、いいお家だよね。僕、気に入っちゃった!」
ーーならよかった。あとは、ベッドに、テーブルや椅子も欲しいな。
「そうだね! あっ! 暗くなる前に、ライトがいるんじゃない?」
ーー虫除けもいるだろうな。光に集まってくるぜ。わんさか。
「ああああ、僕、虫だけは無理ぃ! 寝る時だけでもお家、密閉しない?」
ーー好奇心旺盛なあのドラゴンに壊されなきゃいいなぁ。
「んぎぃ、そこはお願いしてなんとかならないかなぁぁぁ」
ドラゴンはリューイから片時も視線を外さない。立ち去る気配なんてまったくない。
友好的な意思疎通は大切だよね。今後に期待していこう。
とりあえずは竜士の知識を総動員して、虫除け効果のありそうなハーブを家のあちこちに配置することになった。
木から唐突ににょっきりと生える植物。
違和感がすごいが、薄目で見たらオシャレなインテリアに見えなくもない。
「竜士、これは?」
ーー紫の花が咲いてるのはラベンダー。そこら辺の葉っぱは、ミントとレモングラス。ぜんぶ防虫効果が高い植物だよ。ユーカリにはたしか殺菌効果があって、こっちのローズマリーは料理にも使える。
「すごいねぇ。そうだ、お部屋のライトは、お花みたいなのが光ったらかわいくない?」
リューイがそういうと、スズランに似た白い花が、天井や床でほんわかと光りはじめた。
ーーすげえ。架空の植物もいけるってことか。いいじゃん。あとでテーブルランプも作ってよ。
竜士に褒められたことが嬉しくて、リューイはさらにあちこちを光らせていく。
ーーさてと。ベッドは、ハンモックにするか。これだけ暑けりゃ、夜もタオルケット一枚でいけるだろ。
部屋の壁と壁を繋ぐ細くしなやかなツタが、網のようにからまっていく。
「これって、ベッドなの?」
ーーああ。キャンプで使ったことあるんだけど、なかなか良かったんだよな。でもリューイが試してみてあんまりだったら、ベッドも作ろうぜ。
「空中にベッドがあるなんて、世界は広いねぇ。僕、ここで寝るの楽しみだな!」
リューイは空中にできた網を、押したり引いたりしながら楽しそうに揺らしている。
ーーあとは布なんだよなぁ。植物から布を織るなんて俺には無理だから、最初からコットンが薄く平らになって生えてきて欲しい。架空の植物、頼む!
竜士の願いに応え、植物が動きだす。ツリーハウスの上からざわざわと音が聞こえる。
リューイが見上げると、大きなハイビスカスに似た薄黄色の花が咲き始めていた。
それはすぐに花の盛りを過ぎ、しぼみ、実ができて、あっという間に硬い殻がはじけた。
茶色くなった殻からは、ぽふんと丸い綿があふれている。
リューイが背伸びをしてそっと触れると、丸い綿がふわりとほぐれ、手の中に落ちてきた。
軽く、触り心地もいい。
広げたら、寝具にピッタリだった。
「はぁぁぁ、すごいね!? すごいよ! これで服とかもできちゃうんじゃない!? すごい! 植物の魔法、万能だぁ! 植物すごい! 植物ありがとう!」
リューイは興奮のままタオルケットに顔を埋めようとして、竜士に止められている。
ーーやめろ汚すなよ! 部屋ができたら、次はシャワーをつくろうぜ。俺は汚いまま寝たくない。
「シャワー! いいね賛成! でも、どうやって?」
ここは崖の上。さらに木の上だ。近くに綺麗な川でもあればいいけど。
雨上がりの森は、水滴をキラキラと反射している。
崖の下には、茶色い大きな川が流れているのが見えた。
「あの川は、遠いし、なんだか汚そう……」
ーー熱帯雨林の水辺なんて、どんな危険な生き物がいるか分かったもんじゃない。細菌も心配だしな。やめとけ。
「でも、水の魔法は使えなかったんだよね?」
ーーまぁ任せとけって。
竜士はリューイから体を借りると、移動するための階段を作っていった。
シュルシュルと音をたてて、手すり付きの下り階段ができていく。
メインのツリーハウスからやや奥まった森の中。
竜士は何度か頭上を確かめ、ツリーハウスが目隠しになる辺りに今度は床を作り始めた。
3本の木の間に、太めのツタが絡み合う。
下に水が抜けやすいように、やや粗めの床にしておいた。
「壁は、なくてもいいか。でも目隠しは欲しいな」
南国の大きな葉っぱを目隠しに茂らせて、シャワールームを作っていく。
ドラゴンは鼻をぶふぅーーと鳴らしながら、覗きやすい角度を探して右往左往していた。
「一応、見えてるだろ。せっかく作った家を壊すなよ」
竜士が手を振ると、ドラゴンは首を縮めるようにして覗きこみ、ピャアと情けない声で鳴くのだった。
25
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません
ちとせ
BL
執着バリバリなクールイケメン騎士×一生懸命な元悪役美貌転生者
地味に生きたい転生悪役と、全力で囲い込む氷の騎士。
乙女ゲームの断罪予定悪役に転生してしまった春野奏。
新しい人生では断罪を回避して穏やかに暮らしたい——そう決意した奏ことカイ・フォン・リヒテンベルクは、善行を積み、目立たず生きることを目標にする。
だが、唯一の誤算は護衛騎士・ゼクスの存在だった。
冷静で用心深く、厳格な彼が護衛としてそばにいるということはやり直し人生前途多難だ…
そう思っていたのに───
「ご自身を大事にしない分、私が守ります」
「あなたは、すべて私のものです。
上書きが……必要ですね」
断罪回避のはずが、護衛騎士に執着されて逃げ道ゼロ!?
護られてるはずなのに、なんだか囚われている気がするのは気のせい?
警戒から始まる、甘く切なく、そしてどこまでも執着深い恋。
一生懸命な転生悪役と、独占欲モンスターな護衛騎士の、主従ラブストーリー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる