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1.沈む
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――もう、疲れた。ああ、やっと死ねる。
清野優希は力を抜いて、水面に向かって上がっていく気泡を見つめた。
海水を吸った冬服は面白いほどに沈んでいく。これならポケットにこんなにもたくさんの石を詰めこむ必要はなかったな。
俺は寒空の下で惨めに石を拾い集めていたさっきまでの自分を笑うと、最後の一呼吸分の空気を、深く長い安堵のため息で吐きだした。
なんて綺麗なんだろう。
遠くなった水面と小さな気泡。深い青のグラデーション。つかの間の無音と自分の鼓動。
こんな世界があるのなら、ダイビングのひとつでも始めてみたら新しい世界が広がったのだろうか。そうすれば俺も……。
ああ。俺は自分から望んだ最後にまで、未練を残すのか。惨めだ。しぼんだ肺が求める新鮮な空気のかわりに、真冬の海水が肺を容赦なく満たしていく。
冷えきった体の中で、ぐるぐる煮え立つような悲しみが襲う。走馬灯も何も、ない。
自分には、何もないのだと、俺は意識を手放した。
清野優希は力を抜いて、水面に向かって上がっていく気泡を見つめた。
海水を吸った冬服は面白いほどに沈んでいく。これならポケットにこんなにもたくさんの石を詰めこむ必要はなかったな。
俺は寒空の下で惨めに石を拾い集めていたさっきまでの自分を笑うと、最後の一呼吸分の空気を、深く長い安堵のため息で吐きだした。
なんて綺麗なんだろう。
遠くなった水面と小さな気泡。深い青のグラデーション。つかの間の無音と自分の鼓動。
こんな世界があるのなら、ダイビングのひとつでも始めてみたら新しい世界が広がったのだろうか。そうすれば俺も……。
ああ。俺は自分から望んだ最後にまで、未練を残すのか。惨めだ。しぼんだ肺が求める新鮮な空気のかわりに、真冬の海水が肺を容赦なく満たしていく。
冷えきった体の中で、ぐるぐる煮え立つような悲しみが襲う。走馬灯も何も、ない。
自分には、何もないのだと、俺は意識を手放した。
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