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36.ピーリャの意味
しおりを挟む『オーニョさんが何ていってたか、聞いてもいい?』
俺はおずおずとルルルフさんに尋ねた。
「ユーキさんに嘘はつきません。その質問にお答えすることは簡単ですが、どうか本人に聞いてあげてください。僕の口から伝わるのは、ンッツオーニョ大佐も不本意だと思うので。あ、でも、悪意あることではないですからね」
『どういうこと?』
「いったい何からお話したら、ユーキさんに最適なんだろうかと、帰宅をお待ちしているあいだね、ずっと考えていたんです。ほら、一日の食事量を一回で全部食べろっていわれても、食べきれずに消化不良を起こすでしょう? 混乱させたくないんですよ」
『混乱してばかりだよ』
「そうですよねぇ。……ところで新しい服、よくお似合いですよ。ピーリャも買ったんですね。素敵です」
『うん。俺、ファッションとか本当に苦手で。全部オーニョさんと店主さんがね、選んでくれたんだ。……これも貰っちゃったんだけど、何かお礼をすべきだよね』
俺は頭に巻いた光沢のあるピーリャを手で弄りながら、おそるおそる聞いてみた。
他に買った服に比べて、肌触りからして高級そうな布だった。
そういえばブローチも貰ったんだっけと思い出す。
貰いすぎていて、どんなお礼をするべきか俺一人ではまるで見当がつかない。
「そうなんですか。それはそれは。……お礼は、なんというか、そうですね、……いらないかな? ンッツオーニョ大佐が勝手にやったことなので、ユーキさんは気にせず放っておいていいですよ。なんならユーキさんが受け取ったことが一番のご褒美になってますから。というかね、ンッツオーニョ大佐にも少しは人間らしいところがあったんだなぁと、僕は今たいへん驚いています」
『俺の服を選ぶのが?』
「んー。これは周知の事実なのでお伝えしますけど、ピーリャを贈るってね、地球での結婚指輪みたいな意味もあるんですよねぇ」
『けけけ結婚っ?』
正確にはプロポーズか、婚約にあたるらしい。俺は驚愕の事実に耳を疑った。
ピーリャを贈答することは、あなたを守りたいという意味となり、結婚の申し込みと見なされるのだそうだ。
その申し込みを受け入れる場合、贈答されたピーリャを自ら身につけ、婚約の成立となる。
日本での結納にあたる行為はなく、両家の顔合わせ、親への紹介などは必ずしも必要ではないらしい。
「たぶんね、お渡しした魔法の本にも、詳しいことが書いてあると思うんですよ。よかったら、お時間があるときにでも読んでみてくださいねぇ」
『絶対、読む』
俺が慌ててピーリャを外していると、ルルルフさんが俺の魔法の本をきょろきょろと探しているのに気付いた。
ごめん。部屋に置いてきた。
俺の手の中には、毛皮のショールとティーカップ、あとは無駄に高級そうなピーリャがあるだけだ。
部屋に戻ったら、すぐさま熟読するからと、俺は心の中で謝っておく。
「どちらにしても、今回はあくまでもユーキさんの買い物のお手伝いです。そこはンッツオーニョ大佐も分かっていて、ただ擬似体験を楽しんでいたんじゃないですかね。何も知らないユーキさん相手にこっそりとだなんて、腑抜けたことをねぇ。拒絶されたらって怖じ気づいたのかな。あのンッツオーニョ大佐が、意外だなぁ。ふふ。しばらく揶揄ってやろっと」
ルルルフさんは冗談とも本気ともつかないことをいって、子供みたいに笑っている。
あの、俺、こちらに来てまだ初日ですよ?
ですよね?
つまり、もちろんオーニョさんと初対面なわけで。
いやいやいや、まさかまさか。
俺はもごもごと否定しながら、オーニョさんとのやり取りの中に答えはないかと記憶を探った。
服屋でのオーニョさん。出会ってすぐの赤い獣姿のオーニョさん。真面目に部屋を検分するオーニョさん。手をつなぐオーニョさん。綺麗な所作でもりもり食べるオーニョさん。真剣にピーリャを選ぶオーニョさん。笑うオーニョさん。手に口付けするオーニョさん……。
あれこれを思い出すたびに、俺の気分はまるでジェットコースターのように急浮上と急降下をくり返した。
『俺、こっちの文化を知らないけど、オーニョさんに好かれるようなこと、何もしてません。……してませんよね?』
背中に乗ったら結婚とかだったら、もう笑うしかない。
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