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66.隣にいてくれるだけで
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――山田氏の手記より
『なんて事だ。渡来人の交流会で衝撃の事実を知らされた。
何故私だけが知らないのだと呆然としていたら、いっそ何故今まで知らなかったのだと驚かれた。
普通は担当者から教えてもらうらしい。そして皆が皆、当然私も知っていると思い込んでいたのだ。
第一発見者と渡来人の、……なんでことだ、つまり、そういう関係についてだ。
小さな頃から知っているパォ殿を私がどうこうする訳がないと憤慨したら、呆れたようにパォ殿が私をどうこうするのだろうと言われて、開いた口が塞がらなかった。
いや、そうだった。
この国では男女の性差など、関係ないのだった。自分が中年目前の男である事から、自分にだけは関係が無いと思い込んでいた。
たしか昨年来たトム爺さんだって、最近結婚したと言っていたじゃないか。
堪らず近くにいた職員を捕まえ詰問するも、過去の文献からみても死亡例以外の渡来人の全員が、第一発見者と結婚していると言われた。
それにしても、なぜ六年もパォ殿の好意に気付かないのだと、反対に責められてしまった。
私が悪いのか!?』
_________________
俺は赤くなってしまった顔を隠しながら、オーニョさんのことをぐるぐると考えていた。
たしかに、オーニョさんは俺にとってとても魅力的だった。
常識を捨ててしまえば、神さまのいう通り好みであるといわざるを得ない。
しかも、こんな人としてダメな俺を好きだといってくれるんだ。
人型のオーニョさんはバランスのとれた筋肉質な体型をしていて純粋に綺麗だし、獣姿は気品まで感じる赤い毛並みがとっても素敵で、中身だってかわいくてかっこいい魅力的な人が、こんな俺のことを、だぞ!
こんな都合のいい話があっていいのだろうか。
同性であることにまったく戸惑わないかといったら、嘘になるけど。
でも、今まで生きてきて母以外の女性とろくに喋ったこともない俺が、女性相手だったら好きになるのかっていうと、そういうものでもないだろう。それくらいは、俺だって分かる。
手をつなぐのも、肩を寄せられるのも、低い笑い声も、オーニョさんなら不思議と嫌じゃなかったんだ。
ううん。
もっと素直にいえば、嫌じゃなくて、嫌じゃ、なくって、大変……よろしいかと、思う次第でありまして……。
駄目だ、顔どころか頭にまで血が上ってきた。カッカしてきた頭を一度冷やそう。
さっきからいい風が吹いているし、と思って俺が顔をあげると、オーニョさんの尻尾がバッサバサと揺れていた。
風圧が出るくらいまで尻尾振らないで……? 俺、まだオーニョさんが喜ぶようなこと、何もいってないんだよぉ!
しかしオーニョさんは、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ご機嫌に尻尾を振っているのだった。
俺一人、気恥ずかしさに小さくなってしまう。
『ユーキ。無理をして今すぐ何かをいわなくていいんだ。むしろ断り文句なら一生いらない。今はただ、私がユーキを好きでいてもいいと、いってほしい。それだけで私は幸せだから』
『そんなの、オーニョさんに、不誠実だよ』
『いやいや、ぜんぜん。とんでもない。むしろユーキのそんなところも愛しいな』
『オーニョさん、どうかしてるよ』
『そうかもしれない。私はユーキが隣にいてくれるだけで、さらに好きになってしまうから』
『なんて事だ。渡来人の交流会で衝撃の事実を知らされた。
何故私だけが知らないのだと呆然としていたら、いっそ何故今まで知らなかったのだと驚かれた。
普通は担当者から教えてもらうらしい。そして皆が皆、当然私も知っていると思い込んでいたのだ。
第一発見者と渡来人の、……なんでことだ、つまり、そういう関係についてだ。
小さな頃から知っているパォ殿を私がどうこうする訳がないと憤慨したら、呆れたようにパォ殿が私をどうこうするのだろうと言われて、開いた口が塞がらなかった。
いや、そうだった。
この国では男女の性差など、関係ないのだった。自分が中年目前の男である事から、自分にだけは関係が無いと思い込んでいた。
たしか昨年来たトム爺さんだって、最近結婚したと言っていたじゃないか。
堪らず近くにいた職員を捕まえ詰問するも、過去の文献からみても死亡例以外の渡来人の全員が、第一発見者と結婚していると言われた。
それにしても、なぜ六年もパォ殿の好意に気付かないのだと、反対に責められてしまった。
私が悪いのか!?』
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俺は赤くなってしまった顔を隠しながら、オーニョさんのことをぐるぐると考えていた。
たしかに、オーニョさんは俺にとってとても魅力的だった。
常識を捨ててしまえば、神さまのいう通り好みであるといわざるを得ない。
しかも、こんな人としてダメな俺を好きだといってくれるんだ。
人型のオーニョさんはバランスのとれた筋肉質な体型をしていて純粋に綺麗だし、獣姿は気品まで感じる赤い毛並みがとっても素敵で、中身だってかわいくてかっこいい魅力的な人が、こんな俺のことを、だぞ!
こんな都合のいい話があっていいのだろうか。
同性であることにまったく戸惑わないかといったら、嘘になるけど。
でも、今まで生きてきて母以外の女性とろくに喋ったこともない俺が、女性相手だったら好きになるのかっていうと、そういうものでもないだろう。それくらいは、俺だって分かる。
手をつなぐのも、肩を寄せられるのも、低い笑い声も、オーニョさんなら不思議と嫌じゃなかったんだ。
ううん。
もっと素直にいえば、嫌じゃなくて、嫌じゃ、なくって、大変……よろしいかと、思う次第でありまして……。
駄目だ、顔どころか頭にまで血が上ってきた。カッカしてきた頭を一度冷やそう。
さっきからいい風が吹いているし、と思って俺が顔をあげると、オーニョさんの尻尾がバッサバサと揺れていた。
風圧が出るくらいまで尻尾振らないで……? 俺、まだオーニョさんが喜ぶようなこと、何もいってないんだよぉ!
しかしオーニョさんは、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ご機嫌に尻尾を振っているのだった。
俺一人、気恥ずかしさに小さくなってしまう。
『ユーキ。無理をして今すぐ何かをいわなくていいんだ。むしろ断り文句なら一生いらない。今はただ、私がユーキを好きでいてもいいと、いってほしい。それだけで私は幸せだから』
『そんなの、オーニョさんに、不誠実だよ』
『いやいや、ぜんぜん。とんでもない。むしろユーキのそんなところも愛しいな』
『オーニョさん、どうかしてるよ』
『そうかもしれない。私はユーキが隣にいてくれるだけで、さらに好きになってしまうから』
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