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80.歓迎会の終わり

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 ――山田氏の手記より


『一緒に暮らし始めて、一年あまり。困った事が一つ。


 全く何の問題もない事が、唯一の問題だった。

 何だそれはと自分でも思うのだが、居心地が良すぎて若干の戸惑いさえあるのだ。

 長年連れ添った夫婦のような、阿吽の呼吸まで出来てしまった。
 このままではパォ殿に良い人が出来た時に、私はみっともなく追い縋るはめになりそうだ。

 これは如何ともし難い。


 何の文句を言うでもなく、気付けば服や食事の準備が整えられている。
 さりげなく食事の好みまで、把握されている。
 同居なのだからと、時には私が料理をすると、驚くほど感謝をされる。
 私の疲れまでしっかり見透かされていて、そういう日は湯船でゆっくり休めるように手配をしてくれている。
 部屋で寛いで欲しいと、日本の浴衣を真似た服まで仕立ててくれた。


 そのどれもが押し付けがましくなく、一回りほど年下の青年に心底甘やかされていると気付いて、居たたまれなくなるほどだった。

 パォ殿に返せるものが、私には何もない。』




『今日は職場に、パォ殿の年の離れた妹が、伝言を届けに来てくれた。

 内容は、パォ殿が新しい渡来人の担当となったため、しばらく施設に泊まり込む、というものだった。


 たしかライラとかいう名前の妹は、今まで何度か顔を合わせた事もある。

 しかしどうやら完全に嫌われているらしい。
 嫌う理由も、きっと兄が好きで私が気に入らないとか、そのあたりだろう。
 納得の理由に加えて、それでも兄の頼みならときちんと伝言を伝えに来てくれるあたり、善良で可愛いものである。

 家にある植物の水遣りは心配しなくても良いので、仕事に励むようにパォ殿に伝えて欲しいと頼むと、睨みつけるようにして帰っていった。

 出会った頃の気難しそうなパォ殿によく似た妹で、少し笑ってしまった。』





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 その後、俺はフランス人の少年に捕まって漫画やアニメの質問責めにあったり、綺麗なお姉さんにからかわれたり、毛足の長いシロクマみたいな獣人さんに毛並みを触らせてもらおうとしたり、それにオーニョさんがヤキモチをやいたり、ヤキモチをやかれて俺がひそかに喜んだりしつつ、歓迎会は無事終わりを迎えた。


 俺はルルルフさんとオーニョさんに挟まれたポジションのまま、施設の出口でお客さまのお見送りをする。

 これで会うのが最後なわけじゃない。

 一節に一回、地球でいう三ヶ月に一回は、交流会という名の夕食会を開催しているらしく、渡来人は自由に参加できるのだ。


 渡来人同士で友好を深められるし、何かあれば担当者にこっそり相談もできる。
 あまりにも長期間にわたって顔を見せない渡来人がいたら、担当者が訪問して様子を確認するなど、アフターケアも万全のシステムだった。


 ありがとうとまたねをくり返しているうちに、あんなに大勢いたお客さまも全員帰って、職員たちが片付けを始めるころには夕方になっていた。


 せめて片付けくらいはと手伝いを申し出ても、今日の主役は座っていなさいと取りあってもらえなかった。

 それなら夕食にしようとなったのだが、朝から働き通しのンバンヴェさんをこれ以上煩わせるのも申し訳ない。

 俺はオーニョさんと外に食べにいくことにした。



 ルルルフさんに許可をもらい、オーニョさんと手をつないだら、本日二度目のお出かけだ。




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