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81.獣人の姿
しおりを挟む――山田氏の手記より
『日頃は薬師のような仕事をしているが、パォ殿の本職は地球人保護施設の職員だ。
私の事は気にせずに仕事に励んで欲しい。
その日は仕事帰りに、適当な店で軽く飲み食いをして帰宅した。出迎えてくれるパォ殿は、当然いない。
手早く浴衣に着替えると、落ち着かない気持ちを流し込むように、自室で寝酒を決め込んだ。』
『いつもの様に止めてくれるパォ殿もいなければ、ツマミもなく飲み続けていたのが悪かった。
次の日はどうせ休みだ。
起こしてくれるパォ殿もいないなら、久々に不健康な生活をしてやれと、思いのほか深酒になってしまっていた。
深夜になり、さすがにそろそろ寝ようかと思った頃、不意にカタリと物音が聞こえて、玄関に向かう。
玄関には、パォ殿がいた。
仕事はと言いかけて、止まる。
長い間地球人保護施設でお世話になっている間に、色々と肌で感じて分かってしまった事もある。
ひどく落ち込んだ様子のパォ殿に、何も聞かず、晩酌に付き合えと強引に自室に連れ込んだ。
素面ならしない。
きっとしたたかに酔っていたのだ。
だからもしかしてこれは、自業自得というものだったのかもしれない。
しかし馬鹿な私は、私が手を出さなければ二人の関係は大丈夫だと信じて疑いもしなかったのだ。』
『黙って三杯ほどお酒を酌み交わした後、そろそろ飲み過ぎだからとお酒を取り上げられそうになって、カチンときたのは覚えている。
つい、お前は私の妻かと強く文句を言うと、妻にもしてくれないくせに、と大声でなじられた。
パォ殿の初めての大声に驚いているうちに、ベットに押し倒される。
浴衣の裾から手が侵入してきてやっと我に返って抵抗をしたが、お酒のせいか、上手く抵抗ができない。
体格差を利用して、体の上に乗り上げられた。』
『泣きたいのはこちらなのに、馬鹿みたいに泣きながら私を犯す男は、ずっと好きだっただの側にいてくれだのなんだの甘い言葉を吐き続けている。
パォ殿が身体を動かす度に、俺の口からはみっともない声が出て、パォ殿の大きな目からは涙が溢れる。
突っ込むモノを突っ込まれた状態で今更抵抗する気もとうに失せて、揺さぶられながらもぼんやりと、どうしたらパォ殿を泣かせなくてすんだんだろうかと考えていた。
パォ殿の頬に触れ、涙を拭ったら、余計にひどく泣かせてしまった。
……笑っていて欲しいのに。』
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赤くなった空の下を外をオーニョさんと歩きながら、この歓迎会でたくさんの獣人さんに会って芽生えた俺の素朴な疑問を口にした。
「オーニョさん。みんな、獣人、姿、違った。人間みたいな姿と、動物みたいな姿。俺、不思議。なんで?」
獣の姿そのままの獣人さんと、オーニョさんみたいに人型に近い獣人さんがいることが、不思議だったんだ。
俺の疑問がなんとか伝わったようで、オーニョさんが分かりやすく簡単に教えてくれた。
獣人の姿については、ただ単に、好みの姿を主にしている獣人さんのパターンと、力が足りずに獣姿しかとれない獣人さんのパターンがあるのだそうだ。
獣人は獣姿で生まれてきて、ある程度の力が備わってから人型になるらしい。
より人型に近い姿をとれる獣人さんのほうが、純粋に能力が高いのだ。
では、もしかしてもふもふ姿のほうがリラックスした姿なのかと聞けば、ただ単純に慣れと好みの問題らしい。
エリナスィーナ洋服店のハリネズミの店主さんも、人型の姿になれば自作の洋服が着放題なのにといった内容の俺のつぶやきに、オーニョさんが教えてくれた。
「あそこの店主は、仕事熱心な職人気質で。自分の服を作るくらいなら制作に時間を割きたいと、獣姿のままなんだそうですよ」
「そ、そっかぁ。獣姿なら、洋服いらないもんね……」
紺屋の白袴を、地でいく店主さん。
仕事熱心にもほどがある。
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