【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

143.犬歯で甘噛み

　オーニョさんは何度も深呼吸をしてから、真剣な顔をして座りなおした。



「ユーキ。エリナスィーナ洋服店の夫夫を、覚えているか？」

「え？　う、うん。コロゥニャちゃん、かわいかった」

「そうだ。あの夫夫ふうふは母親のほうが体格のいい狐の獣人だっただろう。この世界では、愛しあうことが身体的負担になるほど体格差がある場合、体格のいいほうが受け入れるがわを選ぶこともある。
　ユーキがそういう意味で難しいと感じるならば、ユーキが私を抱くことで、解決する問題だ。安心してほしい」

「お、俺が？　オーニョさんを？　……そっか。どっちでもいいのか。うわあ。考えたことなかった」

「それはつまり、私に、抱かれる想像をしていた？」



　まさにそのとおりで、俺は固まった。


　はっきりそういわれると、あまりに恥ずかしい。
　俺は勢いよく赤面して、もう一度掛け布の中に隠れて丸まった。



「だだだだって。てっきり、あの、その……。オ、オーニョさんは、俺と……どっちで……想像して、た？」

「……死ぬほど抱きたい」

「し、死ぬほど？」

「ああ。しかし、ユーキが望むなら、どちらでも」

「俺？　俺は……。うぅ」

「無理に今すぐ答えを出す必要はない。私はこうしてユーキを抱きしめられるだけで、幸せだ」



　オーニョさんはそういって、掛け布の中で丸まる俺をふんわりと抱きよせた。

　オーニョさんの大きな体の中にすっぽりと包まれる。

　オーニョさんの高い体温が掛け布越しに伝わってきて、胸がぎゅっとなった。



　俺はもそもそと掛け布から這いでると、オーニョさんに抱きついた。

　掛け布越しじゃ物足りない。

　もっとそばに近付きたいと願ったとおりに、これ以上ないくらいに密着する。



　温かなオーニョさんの素肌にくっついて、やっぱり気持ちがいいなと目を閉じた。




　他でもないオーニョさんだから、こんなにも気持ちがいいのだ。

　俺はオーニョさんの裸にぴったりと抱きついて、ありったけの勇気をかき集めた。




「オーニョさん……。し、して？」







　それは嫌悪感も恐怖も嫌な記憶も、何一つ入りこむ隙間がないほどに、愛に満ちた行為だった。

　俺を味わいつくそうとするオーニョさんの唇は、足の指の先までくまなく愛撫をくり返す。

　ときどき甘噛みされて、オーニョさんの尖った犬歯が皮膚に沈んでいくさまを、俺はうっとりと見つめた。

　もちろん怪我をしない程度の絶妙な力加減の甘噛みだ。



　たまらなく気持ちがよくて、甘い喘ぎ声がとまらない。
　俺はふにゃふにゃになっていった。


　はしたなく広げられて。
　舐められて。
　ゆっくりと時間をかけてほぐされて。


　小瓶に入ったローションらしきものを塗りこめられながら、入り口をぐるりと撫でられればそれだけで体が震えた。

　指で奥を擦られればお尻が揺れる。



　そんな場所がこんなに気持ちがいいなんて、思ってもみなかったのだ。
　快楽が蓄積されていく。


　宥めるように背中にキスを落とされただけで、体が跳ねた。




「ね、オーニョさん、もう、お願い」

「ああ。絶対に痛いことはしないと誓う。どうか、怖がらないで」

「うんっ、うんっ！　も、欲し……っ！」

「ユーキ！」




　切羽詰まったオーニョさんの声とともに、ようやく指が引き抜かれた。

　早くこの熱から解放してほしいと、煮えた体が急きたてる。

　きゅんきゅんと心も体も疼いて、感情があふれ出して止まらない。


　快楽、期待、喜び、そしてこの胸を占めるのはオーニョさんへの愛だ。



　俺はベッドにごろりと転がると、子供みたいに両手を広げてオーニョさんを求めた。



「好き。オーニョさん、好き、好き！」

「ああ、ユーキ、愛してる」




　オーニョさんとほんの少しの隙間もないくらいに抱きしめあえば、お互いの腹のあいだで、痛いくらいに張りつめたペニスが擦れあう。



　オーニョさんも俺を欲しがってくれているのだと、深い喜びを感じた。