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魔王討伐の旅に出る
しおりを挟むすでにゲームでは一巡目をクリア済みの俺たちは、まずは慣れ親しんだ初期ダンジョンで装備を揃え、当面の旅費を稼ぐことにした。
王様がもったいぶって渡してきたひのきの棒を腹立ち紛れに投げ捨てた俺に、そう提案してくれたのもアオイだった。
俺が自暴自棄にならずにすんだのは、全部アオイのおかげなのだ。
アオイは美しく聡明で、威張ることもなく誰にでも平等だった。いつも冷静に状況を判断し、何手も先を読むことに長けていた。
単純バカの俺は、すぐにアオイを好きになった。
アオイの美しい外見がアバターのものだということは、ちゃんと理解していた。俺だってアバター姿なのだから、アオイだってそりゃあそうだろう。でも俺はアオイの外見の美しさではなく、その内面に心底惚れたのだ。
ともに旅をする仲間のゴウはというと、アオイには興味がないようだった。
俺はゴウが恋敵にならずにすんだことに、ほっと胸をなで下ろした。
ゴウは無口だったが、男の俺から見ても魅力的でとてもいい奴だったのだ。
見た目に反して繊細で、デカい図体のわりに虫が苦手だった。強いのにかわいいところがあって、気配り上手。はっきりいってモテるのだ。
しかしどんな美女に言い寄られても、自分は既婚者で中学生の子どもがいると明言しては、きっぱりと断っていた。
中学にもなると反抗期でかわいくない、親がいなくてもあいつなら上手くやると口では強がりながらも、ゴウはいつも誰よりも切実に帰りたがっていた。
それでも人前で弱音を吐かない心の強い男だった。
ゴウは俺の恋心にもすぐ気付き、さりげなく応援してくれたりもした。
一般的なゲーム内でさえ、痴情のもつれを回避するために恋愛禁止にしているパーティが多いだろう。
俺たちは元の世界に帰るために魔王を倒さなくてはいけないという切実な状況だったのにもかかわらず、ゴウは俺のちっぽけな恋心を大切にしてくれた。
ゴウの強さと優しさに、俺はいつも助けられていたのだ。
こうして幸運にも素晴らしい二人と一緒に旅をすることができた俺だったが、いくらストーリーを熟知していても、生身の体で戦うことは怖かった。
アオイの回復魔法があっても、殴られれば痛い。
復活の呪文で死さえ回避できると知っていても、純粋な恐怖は薄れなかった。
血の臭い。肉を断つ感触。
平和な日本人の俺は、命を奪う戦闘になかなか慣れることができなかったのだ。
精神的に参ってしまった情けない俺を、アオイは笑うことなく献身的に支えてくれた。こんなの惚れるなというほうが無理だろう。
「アオイのことが、好きなんだ」
「でも……ソーマは本当の私を、知らないじゃないですか」
「知らないのは、見た目だけのことだろう? アオイの優しさならよく知っている。ここまでずっと、一緒に戦ってきたんだ。内面なら誰よりも知ってるよ。俺は、アオイのそのまっすぐな内面を好きになったんだから」
魔王城の最後の戦いを前に、俺はアオイに自分の気持ちを伝えずにはいられなかった。
「アオイ。好きだ。元の世界に戻れたら、俺と、結婚してください!」
「……バカ。本当の私を知って、後悔しても、知らないんだから」
「後悔なんてしないよ。本当のアオイがおばあちゃんだったとしても、俺、アオイが好きな気持ちは変わらないって、自信があるんだ。あ、でも、アオイが既婚者だったら……諦める……諦められるかな。うーん。諦める努力をする。めちゃくちゃ泣くけど」
「……二十四歳、独身です。でも……今まで恋人、いたことないから。実物の私に会えば、絶対に幻滅すると思うの」
「こんないい子を放っとくなんて、周りの男は見る目がないなぁ。でも、ぜひそのまま見る目ない男ばっかりでいて欲しい。誰にも取られたくない。愛してる。幻滅なんてするもんか」
「バカ。……でも……私も、ずっとソーマのこと、好きだったの。だから……嘘でも、嬉しい」
俺は、涙を浮かべるアオイを抱きしめた。
ゴウに祝福されながら、廃村にあった崩れかけた教会で、たった三人だけのおままごとみたいな結婚式を挙げたのだった。
「元の世界に戻れたら、オフ会、しよう」
ゴウの提案に、俺は敵を切りつけながら返事をした。
「それ、いいな! 俺、オフ会とか初めてだ!」
「……私も」
「よーし! じゃあ、本当の姿で再開するためにも、とっとと魔王をやっつけようぜ!」
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