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そんな中でリアン王子が王位を目指すのは、つまるところ、保険、ということか。
でも、そのためのわたしが必要なくなって、王子の過失、ということは――。
「これはまだ未発表だが、リアン第二王子は近いうちに王位継承権をはく奪される」
「――っ!」
王位を目指す為に婚約者となったわたしが、必要なくなった理由。確かに、それは一つしかないけれど、お父様の口から直接言われると、衝撃が違う。
結婚条件が変わって、婚約が白紙になる。それは、貴族社会ではあり得ない話ではないが、まさか我が身に起きるなんて。
「……で、でも、そこで、どうして次の相手がアルディさんになるんでしょうか」
わたしの年齢からして、この事情であれば、次の相手の候補がすぐに見つかる可能性は高い。今まではわたしの方に原因があり、悪く見えただろうが、実際は逆なのだから。
でも、婚約破棄と同時に、次の相手が決定してしまうのは、珍しいようにも思う。少なくとも、略奪婚のように見えてしまう状況にはしないだろう。
いくら相手が問題を起こしたとはいえ、王族なわけだし。
それに、何より――彼は、子爵家の人間なのだ。
「……彼が獣人だからだ。獣人は、どれだけ手柄を立てても、人間のように直接爵位を王からいただくことはできなかった。……今までは」
――……知らなかった。
この国では、平民でも貴族になることがある。たとえば、国で流行った疫病の特効薬を作った医者一族や、王室御用達の品物を何品も用意する商会、国を揺るがす大事件を解決した自警団の男や、他国にも通用するような強い特産品を作り上げて国に富をもたらした農家など、一定の功績が認められれば爵位がつく。最も低い男爵の爵位が与えられるが、場合によっては後代で家格が上がることも。
一度与えられた男爵の地位が一代限りのこともあれば、代々続いていくこともある。どちらかと言えば後者の方が多いので、この国の貴族の三分の一は、先祖をたどれば、建国時からある貴族家ではなく、平民の出だ。
……でも、確かに、そんな歴史のある国の中でも、獣人差別がなくなってきたのは、ここ最近の、数十年のこと。
獣人が差別によって人間のように爵位を得られない、という決まりになっていても、なんらおかしくはない。
「獣人が褒美として貴族の仲間入りをするとしたら、貴族家に嫁ぐか婿になるか、養子になるかしかない。それもここ十数年の話だが」
ああ、そういうことなのか。カインくんの言っていた、『貴族入り』とは、このことなのか。もしかして、ハウントさんも、この方法で貴族家の一員になったんだろうか。彼の家名のランドット家は人間の一族だし。
「つまり――アルディさんが何かしら、爵位を貰えるに相当する手柄を立てて、その褒美がわたしの夫という立場、ケルンベルマ侯爵家の婿養子、ということですか?」
でも、それならわざわざわたしじゃなくたって、他の侯爵家の娘でもよかっただろうに。社交界で笑いものにされていたわたしの家でいいのだろうか。もっと他にふさわしい家があったのでは。
もしも、本当にアルディさんの隣にいられるというのならば、わたしは絶対にそのチャンスを逃すつもりはないけれど。
わたしは不思議に思ったが、「それは少し違う」と否定された。
「アルディ・ザルミールには、直接爵位を、という話になっている。……つまりは、お前は獣人差別の完全撤廃の先駆けとして人間と同等に爵位を授けるという新制度に関わらせられる予定だったのだ」
そう言ったお父様の眉間には、随分と険しい皺が深く刻まれていた。
でも、そのためのわたしが必要なくなって、王子の過失、ということは――。
「これはまだ未発表だが、リアン第二王子は近いうちに王位継承権をはく奪される」
「――っ!」
王位を目指す為に婚約者となったわたしが、必要なくなった理由。確かに、それは一つしかないけれど、お父様の口から直接言われると、衝撃が違う。
結婚条件が変わって、婚約が白紙になる。それは、貴族社会ではあり得ない話ではないが、まさか我が身に起きるなんて。
「……で、でも、そこで、どうして次の相手がアルディさんになるんでしょうか」
わたしの年齢からして、この事情であれば、次の相手の候補がすぐに見つかる可能性は高い。今まではわたしの方に原因があり、悪く見えただろうが、実際は逆なのだから。
でも、婚約破棄と同時に、次の相手が決定してしまうのは、珍しいようにも思う。少なくとも、略奪婚のように見えてしまう状況にはしないだろう。
いくら相手が問題を起こしたとはいえ、王族なわけだし。
それに、何より――彼は、子爵家の人間なのだ。
「……彼が獣人だからだ。獣人は、どれだけ手柄を立てても、人間のように直接爵位を王からいただくことはできなかった。……今までは」
――……知らなかった。
この国では、平民でも貴族になることがある。たとえば、国で流行った疫病の特効薬を作った医者一族や、王室御用達の品物を何品も用意する商会、国を揺るがす大事件を解決した自警団の男や、他国にも通用するような強い特産品を作り上げて国に富をもたらした農家など、一定の功績が認められれば爵位がつく。最も低い男爵の爵位が与えられるが、場合によっては後代で家格が上がることも。
一度与えられた男爵の地位が一代限りのこともあれば、代々続いていくこともある。どちらかと言えば後者の方が多いので、この国の貴族の三分の一は、先祖をたどれば、建国時からある貴族家ではなく、平民の出だ。
……でも、確かに、そんな歴史のある国の中でも、獣人差別がなくなってきたのは、ここ最近の、数十年のこと。
獣人が差別によって人間のように爵位を得られない、という決まりになっていても、なんらおかしくはない。
「獣人が褒美として貴族の仲間入りをするとしたら、貴族家に嫁ぐか婿になるか、養子になるかしかない。それもここ十数年の話だが」
ああ、そういうことなのか。カインくんの言っていた、『貴族入り』とは、このことなのか。もしかして、ハウントさんも、この方法で貴族家の一員になったんだろうか。彼の家名のランドット家は人間の一族だし。
「つまり――アルディさんが何かしら、爵位を貰えるに相当する手柄を立てて、その褒美がわたしの夫という立場、ケルンベルマ侯爵家の婿養子、ということですか?」
でも、それならわざわざわたしじゃなくたって、他の侯爵家の娘でもよかっただろうに。社交界で笑いものにされていたわたしの家でいいのだろうか。もっと他にふさわしい家があったのでは。
もしも、本当にアルディさんの隣にいられるというのならば、わたしは絶対にそのチャンスを逃すつもりはないけれど。
わたしは不思議に思ったが、「それは少し違う」と否定された。
「アルディ・ザルミールには、直接爵位を、という話になっている。……つまりは、お前は獣人差別の完全撤廃の先駆けとして人間と同等に爵位を授けるという新制度に関わらせられる予定だったのだ」
そう言ったお父様の眉間には、随分と険しい皺が深く刻まれていた。
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