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食事を終え、預かった鍵で獣化棟の中に入る。ある程度、通路は広いので、今日の服装でも問題なく行動できる。きっと、舞踏会で着るような、ボリュームあるスカートのドレスだって大丈夫だろう。制服と違って、どこかひっかけないかは少しばかり心配だけど。
清掃は行き届いているので、分かりやすく汚れることはないはず。……多少の汚れはつくかもしれないが。
流石に一か月半通ったこの場所で、迷うことはない。檻を覗いて、アルディさんを探す。……結構、獣化している人、いるんだな。でも、一つの檻に収まっているくらいだから、少ない方ではあるのかも。
折角の剣術大会に出られなくて残念なのか、それとも、大変な警備の仕事をやらなくてすんでラッキーなのか。檻の中にいる人たちの様子は、半々、と言ったところだろうか。
完全にリラックスして眠っている人もいれば、つまらなそうに毛布をかじっている人もいた。前者は休めてラッキー、後者は剣術大会に出られなくて残念、という感じに見える。
そんな中、一人、丸くなっている虎を見つけた。
「アルディさん」
わたしが声をかけると、虎の耳が動く。顔を上げて、わたしに気が付くと、こちらに寄ってきた。
「お嬢様、危険です!」
サギスさんの声に、わたしは「大丈夫です」と言った。強めに。
檻越しで、鍵もかかっている。何も危険なわけがない。
それに――。
「彼は『虎』じゃなくて、『アルディさん』ですから」
わたしだって、流石に普通の虎へ無防備に近付くような真似はしない。
でも、この虎は、アルディさんだから。わたしを攻撃するようなことは、絶対にないのだ。
「具合はどうですが、体調悪かったり、どこか痛かったりしないですか?」
わたしが聞くとアルディさんはその場でくるんと一周、周って見せた。大丈夫、ってことなのかな。
聞いておきながら返事を理解できないとは……。
少し恥ずかしいけれど、わたしは「元気ですか」と聞きなおした。これにはアルディさんはうなずいてくれる。
「よかった……急に、虎になるものだからびっくりしました。獣化って、あんなにも一瞬で変わってしまうものなんですね」
アルディさんが、軽く首を傾げる。「知らなかったの?」とでも、言いたいんだろうか。
「勉強不足ですね」
わたしがそう言うと、アルディさんは、ぶんぶんと首を横に振った。励ましてくれているんだろうか。
「ぐ……ぐるぅ」
アルディさんが苦しそうな声を上げる。苦しそう、というか、出せない鳴き声を無理に出そうとしている、というほうが正しいか。
「が、がう、ぅ……」
何かを伝えたいのか、声を出そうと必死だ。でも、この声、出してて平気なんだろうか? 喉を駄目にしないかひやひやする。
「大丈夫ですか? 何か欲しいものがありますか? それとも、誰か呼んでほしいとか……」
とりあえず話を聞く姿勢は見せたけど、違うらしい。アルディさんはがっくりとうなだれてしまった。
でも、すぐにしっぽが、ぴん! と立つ。
アルディさんはのそのそと檻の奥に行ったかと思うと、水の入った皿を引きずるようにして持ってきた。飲み水用のものだろう。獣化すると、カトラリーが使えなくなるので、食べるものは普通の動物と違っても、食器類はこうして皿を使うのだ。
その水の中に、アルディさんはためらいなく、前脚を突っ込んだ。
びちょびちょに濡れたその手で、アルディさんが床をなぞると、濡れているところと濡れていないところの差で文字が浮かび上がる。随分といびつだが、読めないことはない。
『どうして、ここ、きたの』
単語だけが並んだ言葉は、そんな意味をわたしに伝えた。
清掃は行き届いているので、分かりやすく汚れることはないはず。……多少の汚れはつくかもしれないが。
流石に一か月半通ったこの場所で、迷うことはない。檻を覗いて、アルディさんを探す。……結構、獣化している人、いるんだな。でも、一つの檻に収まっているくらいだから、少ない方ではあるのかも。
折角の剣術大会に出られなくて残念なのか、それとも、大変な警備の仕事をやらなくてすんでラッキーなのか。檻の中にいる人たちの様子は、半々、と言ったところだろうか。
完全にリラックスして眠っている人もいれば、つまらなそうに毛布をかじっている人もいた。前者は休めてラッキー、後者は剣術大会に出られなくて残念、という感じに見える。
そんな中、一人、丸くなっている虎を見つけた。
「アルディさん」
わたしが声をかけると、虎の耳が動く。顔を上げて、わたしに気が付くと、こちらに寄ってきた。
「お嬢様、危険です!」
サギスさんの声に、わたしは「大丈夫です」と言った。強めに。
檻越しで、鍵もかかっている。何も危険なわけがない。
それに――。
「彼は『虎』じゃなくて、『アルディさん』ですから」
わたしだって、流石に普通の虎へ無防備に近付くような真似はしない。
でも、この虎は、アルディさんだから。わたしを攻撃するようなことは、絶対にないのだ。
「具合はどうですが、体調悪かったり、どこか痛かったりしないですか?」
わたしが聞くとアルディさんはその場でくるんと一周、周って見せた。大丈夫、ってことなのかな。
聞いておきながら返事を理解できないとは……。
少し恥ずかしいけれど、わたしは「元気ですか」と聞きなおした。これにはアルディさんはうなずいてくれる。
「よかった……急に、虎になるものだからびっくりしました。獣化って、あんなにも一瞬で変わってしまうものなんですね」
アルディさんが、軽く首を傾げる。「知らなかったの?」とでも、言いたいんだろうか。
「勉強不足ですね」
わたしがそう言うと、アルディさんは、ぶんぶんと首を横に振った。励ましてくれているんだろうか。
「ぐ……ぐるぅ」
アルディさんが苦しそうな声を上げる。苦しそう、というか、出せない鳴き声を無理に出そうとしている、というほうが正しいか。
「が、がう、ぅ……」
何かを伝えたいのか、声を出そうと必死だ。でも、この声、出してて平気なんだろうか? 喉を駄目にしないかひやひやする。
「大丈夫ですか? 何か欲しいものがありますか? それとも、誰か呼んでほしいとか……」
とりあえず話を聞く姿勢は見せたけど、違うらしい。アルディさんはがっくりとうなだれてしまった。
でも、すぐにしっぽが、ぴん! と立つ。
アルディさんはのそのそと檻の奥に行ったかと思うと、水の入った皿を引きずるようにして持ってきた。飲み水用のものだろう。獣化すると、カトラリーが使えなくなるので、食べるものは普通の動物と違っても、食器類はこうして皿を使うのだ。
その水の中に、アルディさんはためらいなく、前脚を突っ込んだ。
びちょびちょに濡れたその手で、アルディさんが床をなぞると、濡れているところと濡れていないところの差で文字が浮かび上がる。随分といびつだが、読めないことはない。
『どうして、ここ、きたの』
単語だけが並んだ言葉は、そんな意味をわたしに伝えた。
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