67 / 493
第二部
66
しおりを挟む
何かがベッドの下に落ちた感覚がして、少しだけ意識が浮上する。
「…………」
寝ぼけた頭のまま、ベッドの下を見れば、服が散らばっていた。なんで? と思考が一瞬止まったものの、そう言えば昨日、寝るときに掛けるものが何もなくて服を布団代わりにしたんだっけ、ということを思い出した。
まだ眠たくて、二度寝をしようと思ったものの、少し肌寒くて徐々に意識が覚醒してきてしまう。服を拾い上げるころには完全に目が覚めてしまって、心地よく二度寝をすることが出来そうにもない。
仕方なく起きることにした。軽く伸びをすれば、バキバキと関節がなる。
その音にびっくりするが、頭に響くことはない。寝たりない気分ではあるが、二日酔いにはなっていないようだ。
あくびを一つして、そっと部屋を出る。フィジャのベッドからは、ヴィルフさんの寝息が聞こえてくる。まだ寝ているようだ。
起こさないように気を使いながらリビングに出ると、フィジャとイナリさんが既に起きていて、後片付けをしていた。イエリオさんはソファの上に移動しているが、まだ寝ているようだ。
「……おはよ、ございます」
自分が思った以上にガサガサの声をしていて、笑いそうになった。
酷い声ではあったが、二人には届いたらしい。こちらに顔を向けた。
「……おはよ」
イナリさんの顔が青白い。目が死んでいて、いかにも元気がない。完全に二日酔いになっている人間の表情である。
一方、フィジャの方はイナリさんよりも元気があるように見えるものの、なんとなく、体調が悪そうに見えた。
「顔色悪いけど大丈夫ですか? 片付け、代りましょうか?」
わたしはちょっと眠いくらいで元気なものだ。昨日の飲み散らかし、食べ散らかしに言いたいことがないわけではないが、体調を崩している人間にまでぎゃんぎゃん言いたくはない。
お説教は体調が回復してからである。
しかし、イナリさんはわたしの提案を拒否した。
「……別に、いい……」
本当に、今にも死にそうな声である。ぼそぼそと、喋るのも辛そうだった。
「なんか、昨日、いつも以上に絡んだ記憶が、ある……ような気がする……。迷惑掛けたし、一番に起きたし、僕がやる……」
「どこまで覚えてるんですか?」
「君に、無理やり酒を注いだのは、覚えてる……。その、悪かったね……」
完全に覇気がない。いつものちょっとツンツンした様子は全くなく、完全にしおれている。
でも、初対面のときにここまで死にそうになっていなかった辺り、もしかしたら昨晩は飲みすぎていたのかもしれない。……失恋慰め会より飲みすぎる夜、とは一体……? って感じではあるけど。
「じゃあ、フィジャの口に直接酒瓶の注ぎ口を突っ込んだのは覚えてます?」
「そんなこと、したの……?」
信じられない、というような表情をしたイナリさんだったが、だんだんと表情が曇り、最終的には「した……した? したような気も、する……。うん、した、かも?」と、あやふやだが、なんとなく思い出したようだった。
「じゃあ、そのあと……」
わたしのクッキーを食べて、遠回しに美味しくない、って言ったのは覚えてますか? と聞こうとして、迷ってしまった。
わざわざ掘り返さないでこのまま記憶を抹消させて、リベンジしてやろうか、と一瞬思ってしまったのである。それに、折角焼いたクッキーが不評だったのを、わたし自身があんまり思い出したくない、というのもある。
これだけ記憶があやふやな中、今、味のことに追及したって覚えていないだろう。
そもそも、フィジャと比べて美味しくないのは事実なわけだし……。
どうしてやろうか、と迷っていると、「え、僕何した? ねえ、何したの?」と焦った声が聞こえてくる。
「思い出したら謝ってください」
「謝らないといけないようなことしたんだ……!?」
何をやらかしたんだと頭を抱えるイナリさんを横目に、ふと、フィジャが黙り込んでいることに気が付いた。
「……フィジャ? 大丈夫?」
「――え? うん、大丈夫だよ」
うっすらと笑うフィジャ。元気がない。無理やり笑っているように見えた。
フィジャも二日酔いだろうか。でも、それにしては、イナリさんとは対照的に顔が赤い。目もちょっと、とろん、としているような……。
そこまで観察して、そう言えば、昨日、フィジャは酒をぶちまけて寝てしまったんだったか、ということを思い出した。
「…………」
寝ぼけた頭のまま、ベッドの下を見れば、服が散らばっていた。なんで? と思考が一瞬止まったものの、そう言えば昨日、寝るときに掛けるものが何もなくて服を布団代わりにしたんだっけ、ということを思い出した。
まだ眠たくて、二度寝をしようと思ったものの、少し肌寒くて徐々に意識が覚醒してきてしまう。服を拾い上げるころには完全に目が覚めてしまって、心地よく二度寝をすることが出来そうにもない。
仕方なく起きることにした。軽く伸びをすれば、バキバキと関節がなる。
その音にびっくりするが、頭に響くことはない。寝たりない気分ではあるが、二日酔いにはなっていないようだ。
あくびを一つして、そっと部屋を出る。フィジャのベッドからは、ヴィルフさんの寝息が聞こえてくる。まだ寝ているようだ。
起こさないように気を使いながらリビングに出ると、フィジャとイナリさんが既に起きていて、後片付けをしていた。イエリオさんはソファの上に移動しているが、まだ寝ているようだ。
「……おはよ、ございます」
自分が思った以上にガサガサの声をしていて、笑いそうになった。
酷い声ではあったが、二人には届いたらしい。こちらに顔を向けた。
「……おはよ」
イナリさんの顔が青白い。目が死んでいて、いかにも元気がない。完全に二日酔いになっている人間の表情である。
一方、フィジャの方はイナリさんよりも元気があるように見えるものの、なんとなく、体調が悪そうに見えた。
「顔色悪いけど大丈夫ですか? 片付け、代りましょうか?」
わたしはちょっと眠いくらいで元気なものだ。昨日の飲み散らかし、食べ散らかしに言いたいことがないわけではないが、体調を崩している人間にまでぎゃんぎゃん言いたくはない。
お説教は体調が回復してからである。
しかし、イナリさんはわたしの提案を拒否した。
「……別に、いい……」
本当に、今にも死にそうな声である。ぼそぼそと、喋るのも辛そうだった。
「なんか、昨日、いつも以上に絡んだ記憶が、ある……ような気がする……。迷惑掛けたし、一番に起きたし、僕がやる……」
「どこまで覚えてるんですか?」
「君に、無理やり酒を注いだのは、覚えてる……。その、悪かったね……」
完全に覇気がない。いつものちょっとツンツンした様子は全くなく、完全にしおれている。
でも、初対面のときにここまで死にそうになっていなかった辺り、もしかしたら昨晩は飲みすぎていたのかもしれない。……失恋慰め会より飲みすぎる夜、とは一体……? って感じではあるけど。
「じゃあ、フィジャの口に直接酒瓶の注ぎ口を突っ込んだのは覚えてます?」
「そんなこと、したの……?」
信じられない、というような表情をしたイナリさんだったが、だんだんと表情が曇り、最終的には「した……した? したような気も、する……。うん、した、かも?」と、あやふやだが、なんとなく思い出したようだった。
「じゃあ、そのあと……」
わたしのクッキーを食べて、遠回しに美味しくない、って言ったのは覚えてますか? と聞こうとして、迷ってしまった。
わざわざ掘り返さないでこのまま記憶を抹消させて、リベンジしてやろうか、と一瞬思ってしまったのである。それに、折角焼いたクッキーが不評だったのを、わたし自身があんまり思い出したくない、というのもある。
これだけ記憶があやふやな中、今、味のことに追及したって覚えていないだろう。
そもそも、フィジャと比べて美味しくないのは事実なわけだし……。
どうしてやろうか、と迷っていると、「え、僕何した? ねえ、何したの?」と焦った声が聞こえてくる。
「思い出したら謝ってください」
「謝らないといけないようなことしたんだ……!?」
何をやらかしたんだと頭を抱えるイナリさんを横目に、ふと、フィジャが黙り込んでいることに気が付いた。
「……フィジャ? 大丈夫?」
「――え? うん、大丈夫だよ」
うっすらと笑うフィジャ。元気がない。無理やり笑っているように見えた。
フィジャも二日酔いだろうか。でも、それにしては、イナリさんとは対照的に顔が赤い。目もちょっと、とろん、としているような……。
そこまで観察して、そう言えば、昨日、フィジャは酒をぶちまけて寝てしまったんだったか、ということを思い出した。
30
あなたにおすすめの小説
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いて欲しい!
カントリー
恋愛
「懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。」
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きな小太した女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について
あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる