113 / 493
第二部
112
しおりを挟む
――数日後。
フィジャの快気祝い(まあまだ通院は残っているんだけど)、ということで、イエリオさん、ヴィルフさん、イナリさんの三人が遊びに来ていた。
フィジャの快気祝いだから、とわたしたちが四人であれこれしようと思っていたのだが、当の本人がたくさん料理を作り出してしまって、何故かわたしたちがもてなされている側になった。
本人が楽しそうにしているので、なんともまあ手を出しにくい。ある程度お手伝いはしているけれど。
もう料理人としての道が閉ざされてしまうかも、と、お先真っ暗な状況から、怪我をする前となんら変わりない状況まで戻ってこれたのだ。そりゃあ、嬉しくもなるか。
いやでも、その皿の枚数はどうやって持っているんだ……。
料理を並べ、つまみながら、話ながらも追加の料理をつくる。そう言うスタイルが、フィジャは好きらしい。
一通り料理を出し終えると、フィジャはカウンター前の椅子に座り、「あれ?」と声を上げた。
「イナリ、今日は全然飲まないんだね?」
飲まない、とは、言わずもがな酒のことである。確かに、さっきはグラスに酒をいれていた気がするが、今は水である。
「いや、今日は流石に、ね。フィジャの快気祝いだし。飲みすぎるとさあ……」
酒癖が悪い自覚はあるらしい。まあ、お祝いの場で前回みたいな飲み方をするのはちょっと確かにアレよね、と思っていたのは――わたしだけだったらしい。
「んふふ、らしくなーい」
にこやか、というか、ちょっと怖い笑顔でフィジャが酒瓶を手に取る。イナリさんのグラスに注ぐのかな、とわたしは思ったのだが、どうやら正しくフィジャの行動を理解したのはヴィルフさんの方だったらしい。
ヴィルフさんは、ススッとイナリさんの後ろに回ったかと思うと、手早く肩に手を回し、イナリさんが身動き出来ないように拘束していた。……いや、まさか……。
「え? ちょっと、何? え、まさか、待って、待って!」
最初はよく状況を分かっていないイナリさんだったが、酒瓶を持って近付くフィジャに、ようやく察したらしい。顔がひきつっている。
理解出来ていないのは前回早々に寝入ってしまったイエリオさんだけである。
「イナリは、深酒してこそでしょ?」
「まっ――」
がぽ、と、フィジャが、持っていた酒瓶の注ぎ口をイナリさんの口に突っ込んだ。つまりは、前回のやり返しである。
まあ、先にやらかしたのはイナリさんなので? ご愁傷様……と思いながらも、特に助けることはしない。自業自得である。
フィジャも流石に窒息するような、飲み切れないペースで酒が流される角度にはしていない。
凄いノリではあるが……なんだかんだ、こういう場では、馬鹿みたいな騒ぎ方をする方が、この四人らしいのかもしれない。
半分くらい、瓶の中の酒がなくなると、フィジャから瓶を貰ってむしろ一気飲み仕出してるくらしだし。いやそれはそれで凄いな。
あはは、と大笑いするフィジャと、瓶底を叩きつけるように空瓶を机の上に置くイナリさん、自分の席に戻りつつも馬鹿笑いするヴィルフさんに、またやらかしてると呆れ笑いするイエリオさん。
彼らの様子に、わたしは、どうしようもなく平和を感じていた。
フィジャの快気祝い(まあまだ通院は残っているんだけど)、ということで、イエリオさん、ヴィルフさん、イナリさんの三人が遊びに来ていた。
フィジャの快気祝いだから、とわたしたちが四人であれこれしようと思っていたのだが、当の本人がたくさん料理を作り出してしまって、何故かわたしたちがもてなされている側になった。
本人が楽しそうにしているので、なんともまあ手を出しにくい。ある程度お手伝いはしているけれど。
もう料理人としての道が閉ざされてしまうかも、と、お先真っ暗な状況から、怪我をする前となんら変わりない状況まで戻ってこれたのだ。そりゃあ、嬉しくもなるか。
いやでも、その皿の枚数はどうやって持っているんだ……。
料理を並べ、つまみながら、話ながらも追加の料理をつくる。そう言うスタイルが、フィジャは好きらしい。
一通り料理を出し終えると、フィジャはカウンター前の椅子に座り、「あれ?」と声を上げた。
「イナリ、今日は全然飲まないんだね?」
飲まない、とは、言わずもがな酒のことである。確かに、さっきはグラスに酒をいれていた気がするが、今は水である。
「いや、今日は流石に、ね。フィジャの快気祝いだし。飲みすぎるとさあ……」
酒癖が悪い自覚はあるらしい。まあ、お祝いの場で前回みたいな飲み方をするのはちょっと確かにアレよね、と思っていたのは――わたしだけだったらしい。
「んふふ、らしくなーい」
にこやか、というか、ちょっと怖い笑顔でフィジャが酒瓶を手に取る。イナリさんのグラスに注ぐのかな、とわたしは思ったのだが、どうやら正しくフィジャの行動を理解したのはヴィルフさんの方だったらしい。
ヴィルフさんは、ススッとイナリさんの後ろに回ったかと思うと、手早く肩に手を回し、イナリさんが身動き出来ないように拘束していた。……いや、まさか……。
「え? ちょっと、何? え、まさか、待って、待って!」
最初はよく状況を分かっていないイナリさんだったが、酒瓶を持って近付くフィジャに、ようやく察したらしい。顔がひきつっている。
理解出来ていないのは前回早々に寝入ってしまったイエリオさんだけである。
「イナリは、深酒してこそでしょ?」
「まっ――」
がぽ、と、フィジャが、持っていた酒瓶の注ぎ口をイナリさんの口に突っ込んだ。つまりは、前回のやり返しである。
まあ、先にやらかしたのはイナリさんなので? ご愁傷様……と思いながらも、特に助けることはしない。自業自得である。
フィジャも流石に窒息するような、飲み切れないペースで酒が流される角度にはしていない。
凄いノリではあるが……なんだかんだ、こういう場では、馬鹿みたいな騒ぎ方をする方が、この四人らしいのかもしれない。
半分くらい、瓶の中の酒がなくなると、フィジャから瓶を貰ってむしろ一気飲み仕出してるくらしだし。いやそれはそれで凄いな。
あはは、と大笑いするフィジャと、瓶底を叩きつけるように空瓶を机の上に置くイナリさん、自分の席に戻りつつも馬鹿笑いするヴィルフさんに、またやらかしてると呆れ笑いするイエリオさん。
彼らの様子に、わたしは、どうしようもなく平和を感じていた。
27
あなたにおすすめの小説
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜
文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。
花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。
堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。
帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは?
異世界婚活ファンタジー、開幕。
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる