言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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 ――がたん、と車体が大きく揺れる。目を閉じて、数秒も経っていない。綺麗に舗装されていない道を通っているにしたって、揺れすぎじゃないか? と思っていると、馬車が止まる。

『クソ! もう少しでミステラヴィスだってのに!』

 御者が悪態をつくのが聞こえた。少し、ミステラ……もう少しでミステラなんとかにつくところだったのに、とか、そんな感じ、かな。
 もしかして、変に車輪がはまったとか? わたしが手伝えることはないし、むしろ立場的に手伝っちゃ駄目なんだろうけど、でも、一度わたしが降りた方が動かしやすくならないだろうか。

『な、なんで――話が違う! オレは襲わないって――ぐわぁ!』

「――え」

 ピッと、馬車の車体の窓に、飛んできた赤い液体が付着する。
 赤い、液体。御者の叫び声。

 液体の正体が、なにか分かってしまって、わたしは両手を口元に持ってきて、必死に悲鳴を上げるのを堪えた。そのまま、窓から覗き込まれても死角になるような場所にうずくまる。

 馬車で移動しているのだから、車体に人が乗っていることなんて分かり切っている。黙ったところで隠れられるわけがないのに、わたしはそう行動するしかなかった。
 外にいるのがなにか分からない。でも――でも。追放、という言葉にふさわしい様に、わたしの荷物は手持ち鞄一つだけで、護衛も侍女もいない。馬車は、一つ。

 おかしいと、思うべきだったのだ。

 でも、わたしはミステラなんとかの詳しい場所を知らないから、こんなに長旅になるとは思っていなかったし、なんならミステラなんとかに向かっている確証も、最初のうちはなかった。
 ミステラなんとかにつく前に、わたしは殺される予定、だったのかもしれない。

 言葉が通じなくて、会話ができないから。

 アディジクトに捨てられたのは、本当にまずかったのかもしれない。
 こんな生活どうでもいいと、思っていたはずなのに、いざ、死が近くにくると、怖くて怖くてたまらなくなる。

 ――死にたくない。お願いだから、わたしを、見逃して。

 しかし、そんなわたしの願いは、どこにも届かなかった。
 ギィ、と、馬車の車体の扉が開かれる。そこには、ガタイがよく、しかし清潔感の欠片もない男たちが数人、立っていた。

「――いやぁ!」

 ぐい、と髪を引っ張って馬車から引きずり卸される。地面まで結構な高さがあって、咄嗟に手をつこうとして失敗した。ぐき、と痛みが手首に走る。
 地面に這いつくばって、少し顔を上げれば、血まみれになっている御者が転がっているのが見えた。まだ少し息があるように見えるが、その息が止まってしまうのも時間の問題だろう。

『残念だったな、お嬢サマ。御者はあのザマだ。助けは来ない』

 わたしを馬車から引きずり下ろした男が、持っていた血に濡れたナイフで、御者を示す。何、次はわたしがああなる番ってこと?
 方言なのか、話し方のクセが強すぎて、何を言っているのか全く分からないし、パニックになった頭では言葉を冷静に追うことも出来ない。
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