言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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 ――どのくらい、経っただろうか。
 しばらくして、肩を叩かれる。その後、耳を塞いでいた手を、片方だけ引きはがされた。

「目はまだ閉じていろ」

 わたしは獣人の男に言われた通り、耳から手を離す。

『おい、お前』

『ヒッ』

 獣人の男と、聞いたことのない声。わたしの髪を掴んでいた男の仲間の声、だろうか。直後に、ドサッと何かが落ちる音がした。

『いいか、お前はこの女を売った取り分で揉めて仲間割れを起こした。そうだな?』

『い、いやお前が――』

『そして、仲間を殺して、金を全て手に入れた。その金がそれだ。……そうだな?』

『――ッ!』

 バタバタと走りさる音。獣人の男がどこかへ行ってしまったのか、と不安になったのも一瞬。「髪に触れるぞ」と、獣人の男の声がした。
 こんな状況だからだろうか。それとも、かつてのわたしが使っていた言語を話し、言葉が通じるからだろうか。妙に威圧感があって冷たい印象を受ける声音なのに、とても安心できる。

「抱き上げるが、まだ目を開けないほうがいい」

「え、――うわっ!」

 ぐん、と体が浮遊する感覚。わたしは目をつむったまま、思わず手をばたつかせてしまった。触れた場所に、わたしは思わずしがみつく。布っぽい感触。獣人の男の服だろうか、これ。
 ぴたぴたと妙に湿っぽい足音。それは自然と草を踏むようなものに変わる。足音が湿っぽい理由は、考えない方が良さそうだ。

「あ、あの――助けてくださって、ありがとうございました」

 貴方は誰、とか、どうしてわたしの言葉が分かるの、とか、何処へ向かっているの、とか。聞きたいことは一杯ある。

 でも、わたしが一番に口にしたのは、お礼の言葉だった。
 だって、本当に、死ぬかと思ったのだ。あのタイミングで、男がやって来なければ、わたしはきっと男に殺されていただろう。

 ふ、と笑われたような気配がして、わたしは思わず目を開いてしまった。すぐ近くに獣人の男の顔がある。体勢でなんとなく察していたが、お姫様だっこ、という奴をされているらしい。
 絶対笑われた、と思ったのに、獣人の男は無表情のままだった。その頬には、返り血がべっどりとついている。その血が誰のものなのか――考えたくもない。

 しばらく歩いていると、開けた場所に場所に出る。そこには、獣人の男と同じような服を来た男が何人もいて――彼らもやはり、獣人のようだった。

「団長! 今までどこに――エッ、亜人の女の子!? 拾ってきちゃったんすか!? しかも血まみれ!? どういうことっすか!」

 ――団長。……団長?

 もしかして、この獣人の男、結構な地位にいる……のか?
 え、ていうか、今、この獣人の男に話しかけた男の声も分かった、よね……?

 混乱のまま、辺りを見回すのをやめ、わたしを助けてくれた獣人の男の方を見ると、怖いくらいに澄んだ、獣人の男の金の目と、目が合った。
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