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エルフの里は、エルフの者しか場所を知らない、というのが定説であったが、ヴァンカリアの前ではそんな当たり前もひっくり返るらしい。
なんの迷いもなく進むヴァンカリアの後をついていけば、エルフの里にたどり着いた。誰にも知られていないと思っていたのだろうキキョウは、エルフの里が近づくにつれ、顔を青くしていた。
リーデルとキキョウの拠点である貸し部屋から、移動して二日。エルフの里についていた。
エルフの里は、ハイマーの森、という、世界上位の面積を誇る広大な森の奥深くにあった。
森の中を歩いていたヴァンカリアが一本の大木の前に立ち、くるくるとその木の周りを歩いて観察する。そして、見つけたうろの中にヴァンカリアが入っていく。
「お、おい……」
あまり大きく見えないうろにヴァンカリアがためらいなく入っていくので、リーデルは思わず声をかけた。しかし、入っていったはずの彼女が不自然に姿を消した。おかしいと思って中を覗いてみると、外からぱっと見ただけでは到底わからない光景があった。
「これは……」
大きくない、と思ったのは間違いだった。うろは入り口になっており、中には空間が広がっていた。一つの集落が、そこにあったのである。
田舎出身のリーデルですら、古いな、と思ってしまうほど遅れている建築技法の家が数十件。資料館に歴史の一部として展示されそうな家々は、どこもかしこもぼろぼろだった。
古いからと言って、経年劣化によって崩れたものではない。意図的に壊されているのは明らかだった。窓や扉が壊されているのはもちろん、壁が崩れて家の中が丸見えになっている箇所も少なくない。
家の中も、ひっかきまわしたように荒れており、誰かがいる気配はなかった。
「……そんな」
キキョウが弱った声をこぼした。ここは彼女のふるさと。生まれ育った場所がこんな風になっていたら、喪失感はどれほどのものだろうか。
「だ、誰かいないの!?」
キキョウは二人を置いて集落に向かうが、一つとして、彼女の叫びに答える声はない。
三人は手分けして誰かいないか、あたりを見て回る。勝手に家に入るのは気が引けたが、そんなことを言っている場合ではない。怪我をして動けなくなっているエルフがいるかもしれないのだ。
しかし、どれだけ探してみても、住人たちの姿はない。逆に、《動く死体》も、ただの死体も、どちらも見かけなかった。また、これだけ崩壊しているのにも関わらず、血は一滴もない。
集落を一周しても、何も見つけることはできなかった。
「キキョウ、ヴァンカリア、何か見つけたか?」
一通り見て、集合したキキョウとヴァンカリアに、リーデルは問う。けれど、二人の表情は明るくない。首を横に振られてしまう。キキョウもヴァンカリアも、何も見つけられなかったのだろう。
「……多分、みんな外に出たんだと思う」
怪我をしているエルフも、死んでいるエルフも見つからず、逆に冷静になれた様子のキキョウが、ぽつりとこぼした。
「《動く死体》が、その……エルフの里から洩れた技術だとするなら、みんな、《動く死体》を討伐しに行くだろうし、何より、外部に漏らした者を……処分、するはずだから」
言いにくそうに、キキョウは、ことさら『処分』という言葉の声量を小さくしながら言った。
「里はボロボロだけど、ここまで誰もいないっていうことは……無事、なのかな」
祈るように言うキキョウ。――その彼女に、近寄る影が一つ。
「――っ、キキョウ!」
リーデルがキキョウの腕を取り、引き寄せて抱き込むようにして彼女を守る。何かがすごい勢いで飛んできたのだ。
が、その飛来物はリーデルたちに当たる前に、ヴァンカリアによって地面へと叩きつけられた。きゅ、とヴァンカリアに踏みつけられたそれは、両手に載るくらいの、普通にしてはやや大きいネズミだった。
「そのネズミ……」
ヴァンカリアに踏みつけられたネズミを見て、キキョウが何かを思い出したような表情をする。リーデルの腕の中から出て、少し遠めからではあったが、そのネズミをまじまじと観察する。
「もしかして……ビャクダンさんの……?」
「知ってるのか?」
「うん、毛色と模様が、ビャクダンさんが飼ってたネズミに似てるの」
ビャクダンという、小動物をたくさん飼っているエルフの男がいるのだという。妹との二人暮らしで、その妹が小動物が大好きなのだとか。
そんな説明をキキョウから聞きながら、ヴァンカリアは怪訝な顔をする。
「……このネズミ、なんか変ね」
「変……? え、あ……っ!」
気が付いたキキョウは、息をのみ、手を口元にやる。リーデルにはやたら気性の荒いネズミのようにしか見えない。
全く違いの判らないリーデルがヴァンカリアに聞くと、「これも魔法生体だよ」と返された。
「でも、《動く死体》とは少し違う……ような。まあでも、ビャクダンという男のネズミなら、そいつが怪しいんじゃない?」
キキョウはどこか否定したげに、何かを言おうとしたが、言葉にはならなかった。
「ビャクダンさんの家、案内するね……」
力なく、キキョウはそう言った。
なんの迷いもなく進むヴァンカリアの後をついていけば、エルフの里にたどり着いた。誰にも知られていないと思っていたのだろうキキョウは、エルフの里が近づくにつれ、顔を青くしていた。
リーデルとキキョウの拠点である貸し部屋から、移動して二日。エルフの里についていた。
エルフの里は、ハイマーの森、という、世界上位の面積を誇る広大な森の奥深くにあった。
森の中を歩いていたヴァンカリアが一本の大木の前に立ち、くるくるとその木の周りを歩いて観察する。そして、見つけたうろの中にヴァンカリアが入っていく。
「お、おい……」
あまり大きく見えないうろにヴァンカリアがためらいなく入っていくので、リーデルは思わず声をかけた。しかし、入っていったはずの彼女が不自然に姿を消した。おかしいと思って中を覗いてみると、外からぱっと見ただけでは到底わからない光景があった。
「これは……」
大きくない、と思ったのは間違いだった。うろは入り口になっており、中には空間が広がっていた。一つの集落が、そこにあったのである。
田舎出身のリーデルですら、古いな、と思ってしまうほど遅れている建築技法の家が数十件。資料館に歴史の一部として展示されそうな家々は、どこもかしこもぼろぼろだった。
古いからと言って、経年劣化によって崩れたものではない。意図的に壊されているのは明らかだった。窓や扉が壊されているのはもちろん、壁が崩れて家の中が丸見えになっている箇所も少なくない。
家の中も、ひっかきまわしたように荒れており、誰かがいる気配はなかった。
「……そんな」
キキョウが弱った声をこぼした。ここは彼女のふるさと。生まれ育った場所がこんな風になっていたら、喪失感はどれほどのものだろうか。
「だ、誰かいないの!?」
キキョウは二人を置いて集落に向かうが、一つとして、彼女の叫びに答える声はない。
三人は手分けして誰かいないか、あたりを見て回る。勝手に家に入るのは気が引けたが、そんなことを言っている場合ではない。怪我をして動けなくなっているエルフがいるかもしれないのだ。
しかし、どれだけ探してみても、住人たちの姿はない。逆に、《動く死体》も、ただの死体も、どちらも見かけなかった。また、これだけ崩壊しているのにも関わらず、血は一滴もない。
集落を一周しても、何も見つけることはできなかった。
「キキョウ、ヴァンカリア、何か見つけたか?」
一通り見て、集合したキキョウとヴァンカリアに、リーデルは問う。けれど、二人の表情は明るくない。首を横に振られてしまう。キキョウもヴァンカリアも、何も見つけられなかったのだろう。
「……多分、みんな外に出たんだと思う」
怪我をしているエルフも、死んでいるエルフも見つからず、逆に冷静になれた様子のキキョウが、ぽつりとこぼした。
「《動く死体》が、その……エルフの里から洩れた技術だとするなら、みんな、《動く死体》を討伐しに行くだろうし、何より、外部に漏らした者を……処分、するはずだから」
言いにくそうに、キキョウは、ことさら『処分』という言葉の声量を小さくしながら言った。
「里はボロボロだけど、ここまで誰もいないっていうことは……無事、なのかな」
祈るように言うキキョウ。――その彼女に、近寄る影が一つ。
「――っ、キキョウ!」
リーデルがキキョウの腕を取り、引き寄せて抱き込むようにして彼女を守る。何かがすごい勢いで飛んできたのだ。
が、その飛来物はリーデルたちに当たる前に、ヴァンカリアによって地面へと叩きつけられた。きゅ、とヴァンカリアに踏みつけられたそれは、両手に載るくらいの、普通にしてはやや大きいネズミだった。
「そのネズミ……」
ヴァンカリアに踏みつけられたネズミを見て、キキョウが何かを思い出したような表情をする。リーデルの腕の中から出て、少し遠めからではあったが、そのネズミをまじまじと観察する。
「もしかして……ビャクダンさんの……?」
「知ってるのか?」
「うん、毛色と模様が、ビャクダンさんが飼ってたネズミに似てるの」
ビャクダンという、小動物をたくさん飼っているエルフの男がいるのだという。妹との二人暮らしで、その妹が小動物が大好きなのだとか。
そんな説明をキキョウから聞きながら、ヴァンカリアは怪訝な顔をする。
「……このネズミ、なんか変ね」
「変……? え、あ……っ!」
気が付いたキキョウは、息をのみ、手を口元にやる。リーデルにはやたら気性の荒いネズミのようにしか見えない。
全く違いの判らないリーデルがヴァンカリアに聞くと、「これも魔法生体だよ」と返された。
「でも、《動く死体》とは少し違う……ような。まあでも、ビャクダンという男のネズミなら、そいつが怪しいんじゃない?」
キキョウはどこか否定したげに、何かを言おうとしたが、言葉にはならなかった。
「ビャクダンさんの家、案内するね……」
力なく、キキョウはそう言った。
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