人類最後と世界終焉

ゴルゴンゾーラ三国

文字の大きさ
12 / 18

11

しおりを挟む
「貴様は誰だ?」

 雪の様に白い髪の男は、血まみれのヴァンカリアも、それを抱きかかえるリーデルも、爆発の赤魔法を使おうとしていたキキョウにも目をくれず、不機嫌そうな目で吸血鬼狩りの少年を見る。
 白髪のエルフの男の質問に、問いかけられたクルクスが答えた。

「クルクスです。そういう貴方はビャクダン氏ですか? 流石ですね、一瞬で魔法の無効化をやってのけるなん、っ!」

 にやにやと笑う少年の表情が、一瞬にして険しいものになる。

「無詠唱――っ!」

 木の床が変形し、ツタの様に伸びて少年の動きを封じる。緑魔法か、とリーデルが認識するよりも早く、ツタはどんどん数が増していく。一本、また一本とツタが増えるたび、クルクスの顔には焦りの色が濃くなっていた。先ほどまでの余裕は見られない。
 ついには完全に動けなくなったクルクスの前に、ビャクダンと呼ばれたエルフの男が立った。

「研究室のネズミを放ったのは、お前か?」

「……だったら、ボクをどうするっていうんです?」

 口角をあげ、にたり、とシニカルな笑みを浮かべるクルクスだったが、やはりどこか焦りの雰囲気をまとったままだ。

「こんな、世界を、人類を滅ぼすような灰魔法を生み出して、後処理をしない貴方の自業自得では?」

 切り捨てるように言ったクルクスの言葉に、ビャクダンからの反論はない。図星だったのだろう。「ボクはただ、使える手段を使ったまで」と嫌味ったらしく言うクルクスの首元に、彼を拘束しているツルから新たに伸びたとがったツルが突き付けられる。

「後処理は、これからするところだ」

「か、は……っ!」

 ぴ、と一瞬にして、クルクスの首が掻き切られた。さほど大きくない傷口に反して、大量の血が勢いよく噴き出す。
 たいていの生物は、一瞬にして命を失ってしまうほどの血が、辺りを汚した。――そう、ほとんどの生物が絶命する、そのはずの量だった。

「は、あはは……っ」

 首からぼたぼたと血を垂れながしながら、狂ったように笑うクルクスは、絶命を前にした生物には見えなかった。むしろ、先ほどと大して変わらないほど、元気と言っても過言ではない。
 この状況は想定外だったのか、ビャクダンは目を見開いて、一歩後ずさった。
 ごぽ、と口から血を吐きながらも笑うクルクスは、まさに狂人と言っても過言ではない。

「フォルルコの民よ、我が僕よ!」

 にたにたと笑い、高らかに詠唱を始めるその姿から、リーデルは恐怖しか感じられない。あっけなく決着がついたと思われたのに、一向にクルクスが死に向かう様子は見られない。

「赤の者が命ずる、命ずる。このうざったいツタを燃やし尽くせ! ――《猛火イーグニア!」

「――、なに!?」

 ビャクダンが驚きの声をあげる。
 ごう、と火柱が立ち、炎がツタごと少年を包むように燃え上がった。
 リーデルには、一瞬、クルクスの周囲に集まった赤い光がぶれたように見えた。詳しくは分からないが、ビャクダンは先ほど、キキョウにしたように、魔法を打ち消そうとしたのだろう。けれど、失敗してしまった。
 魔法に関して右に出るものはいない、と言われているエルフを上回るほどの実力。そして、首を掻き切られてもなお存命し、それどころか元気に反撃までしてきた。

「まさ、か――」

 リーデルが一つの予測にたどり着いたとき、何か光るものがこちらに飛んできた。
 慌ててヴァンカリアをかばうように動いたリーデルだったが、飛んできたもの――ナイフはリーデルをすり抜け、ヴァンカリアの首に深々とささる。
 一瞬、何が起こったのか、リーデルには分からなかった。彫りの装飾が美しいそのナイフは、リーデルには刺さらなかったのだ。
確かに、そこにナイフは存在するのに、ヴァンカリアの首に刺さったナイフには触れるのに。

「なんで……っ!」

 リーデルの悲痛な叫びに、クルクスは笑い声をあげた。

「吸血鬼狩りのボクが使うナイフが、普通のものなわけないでしょう?」

 クルクスを包む炎は、だんだんと小さくなっていく。すっかり燃やされてしまったツタの残骸が、床へと落ちていった。
 クルクスが服に付いた煤を払う。その彼の首元は、ツタによって切られた跡など、みじんもなかった。再生した、と言ってもおかしくないほどの回復スピードだ。それどころか、大量に噴き出していた血すらほとんど失せていて、クルクスの首元を少し汚しているもの以外、なくなっていた。
 クルクスに回復系である白魔法を使った様子はなかった。ということは、完全に自前の回復力で傷を癒したということになる。
 
 そんな化け物じみた吸血鬼狩りは、威嚇するように、口角を吊り上げた。

「今は一旦引こうかな。エルフ二人を相手にするなんて、冗談じゃない! また後で、吸血鬼が死んだかどうか、確認しにきてあげるよ」
 
 そう言うと、クルクスは素早く中級青魔法の呪文を詠唱する。彼の手にはいつの間にか、魔法陣の書かれた札があり、その魔法陣がカッと光った。
 光が収まる頃には、すっかり彼の姿は消えていた。
 ヴァンカリアの血だけが散乱する室内に、また魔法の無効化に失敗したらしいビャクダンの舌打ちが響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...