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「貴様は誰だ?」
雪の様に白い髪の男は、血まみれのヴァンカリアも、それを抱きかかえるリーデルも、爆発の赤魔法を使おうとしていたキキョウにも目をくれず、不機嫌そうな目で吸血鬼狩りの少年を見る。
白髪のエルフの男の質問に、問いかけられたクルクスが答えた。
「クルクスです。そういう貴方はビャクダン氏ですか? 流石ですね、一瞬で魔法の無効化をやってのけるなん、っ!」
にやにやと笑う少年の表情が、一瞬にして険しいものになる。
「無詠唱――っ!」
木の床が変形し、ツタの様に伸びて少年の動きを封じる。緑魔法か、とリーデルが認識するよりも早く、ツタはどんどん数が増していく。一本、また一本とツタが増えるたび、クルクスの顔には焦りの色が濃くなっていた。先ほどまでの余裕は見られない。
ついには完全に動けなくなったクルクスの前に、ビャクダンと呼ばれたエルフの男が立った。
「研究室のネズミを放ったのは、お前か?」
「……だったら、ボクをどうするっていうんです?」
口角をあげ、にたり、とシニカルな笑みを浮かべるクルクスだったが、やはりどこか焦りの雰囲気をまとったままだ。
「こんな、世界を、人類を滅ぼすような灰魔法を生み出して、後処理をしない貴方の自業自得では?」
切り捨てるように言ったクルクスの言葉に、ビャクダンからの反論はない。図星だったのだろう。「ボクはただ、使える手段を使ったまで」と嫌味ったらしく言うクルクスの首元に、彼を拘束しているツルから新たに伸びたとがったツルが突き付けられる。
「後処理は、これからするところだ」
「か、は……っ!」
ぴ、と一瞬にして、クルクスの首が掻き切られた。さほど大きくない傷口に反して、大量の血が勢いよく噴き出す。
たいていの生物は、一瞬にして命を失ってしまうほどの血が、辺りを汚した。――そう、ほとんどの生物が絶命する、そのはずの量だった。
「は、あはは……っ」
首からぼたぼたと血を垂れながしながら、狂ったように笑うクルクスは、絶命を前にした生物には見えなかった。むしろ、先ほどと大して変わらないほど、元気と言っても過言ではない。
この状況は想定外だったのか、ビャクダンは目を見開いて、一歩後ずさった。
ごぽ、と口から血を吐きながらも笑うクルクスは、まさに狂人と言っても過言ではない。
「フォルルコの民よ、我が僕よ!」
にたにたと笑い、高らかに詠唱を始めるその姿から、リーデルは恐怖しか感じられない。あっけなく決着がついたと思われたのに、一向にクルクスが死に向かう様子は見られない。
「赤の者が命ずる、命ずる。このうざったいツタを燃やし尽くせ! ――《猛火!」
「――、なに!?」
ビャクダンが驚きの声をあげる。
ごう、と火柱が立ち、炎がツタごと少年を包むように燃え上がった。
リーデルには、一瞬、クルクスの周囲に集まった赤い光がぶれたように見えた。詳しくは分からないが、ビャクダンは先ほど、キキョウにしたように、魔法を打ち消そうとしたのだろう。けれど、失敗してしまった。
魔法に関して右に出るものはいない、と言われているエルフを上回るほどの実力。そして、首を掻き切られてもなお存命し、それどころか元気に反撃までしてきた。
「まさ、か――」
リーデルが一つの予測にたどり着いたとき、何か光るものがこちらに飛んできた。
慌ててヴァンカリアをかばうように動いたリーデルだったが、飛んできたもの――ナイフはリーデルをすり抜け、ヴァンカリアの首に深々とささる。
一瞬、何が起こったのか、リーデルには分からなかった。彫りの装飾が美しいそのナイフは、リーデルには刺さらなかったのだ。
確かに、そこにナイフは存在するのに、ヴァンカリアの首に刺さったナイフには触れるのに。
「なんで……っ!」
リーデルの悲痛な叫びに、クルクスは笑い声をあげた。
「吸血鬼狩りのボクが使うナイフが、普通のものなわけないでしょう?」
クルクスを包む炎は、だんだんと小さくなっていく。すっかり燃やされてしまったツタの残骸が、床へと落ちていった。
クルクスが服に付いた煤を払う。その彼の首元は、ツタによって切られた跡など、みじんもなかった。再生した、と言ってもおかしくないほどの回復スピードだ。それどころか、大量に噴き出していた血すらほとんど失せていて、クルクスの首元を少し汚しているもの以外、なくなっていた。
クルクスに回復系である白魔法を使った様子はなかった。ということは、完全に自前の回復力で傷を癒したということになる。
そんな化け物じみた吸血鬼狩りは、威嚇するように、口角を吊り上げた。
「今は一旦引こうかな。エルフ二人を相手にするなんて、冗談じゃない! また後で、吸血鬼が死んだかどうか、確認しにきてあげるよ」
そう言うと、クルクスは素早く中級青魔法の呪文を詠唱する。彼の手にはいつの間にか、魔法陣の書かれた札があり、その魔法陣がカッと光った。
光が収まる頃には、すっかり彼の姿は消えていた。
ヴァンカリアの血だけが散乱する室内に、また魔法の無効化に失敗したらしいビャクダンの舌打ちが響いた。
雪の様に白い髪の男は、血まみれのヴァンカリアも、それを抱きかかえるリーデルも、爆発の赤魔法を使おうとしていたキキョウにも目をくれず、不機嫌そうな目で吸血鬼狩りの少年を見る。
白髪のエルフの男の質問に、問いかけられたクルクスが答えた。
「クルクスです。そういう貴方はビャクダン氏ですか? 流石ですね、一瞬で魔法の無効化をやってのけるなん、っ!」
にやにやと笑う少年の表情が、一瞬にして険しいものになる。
「無詠唱――っ!」
木の床が変形し、ツタの様に伸びて少年の動きを封じる。緑魔法か、とリーデルが認識するよりも早く、ツタはどんどん数が増していく。一本、また一本とツタが増えるたび、クルクスの顔には焦りの色が濃くなっていた。先ほどまでの余裕は見られない。
ついには完全に動けなくなったクルクスの前に、ビャクダンと呼ばれたエルフの男が立った。
「研究室のネズミを放ったのは、お前か?」
「……だったら、ボクをどうするっていうんです?」
口角をあげ、にたり、とシニカルな笑みを浮かべるクルクスだったが、やはりどこか焦りの雰囲気をまとったままだ。
「こんな、世界を、人類を滅ぼすような灰魔法を生み出して、後処理をしない貴方の自業自得では?」
切り捨てるように言ったクルクスの言葉に、ビャクダンからの反論はない。図星だったのだろう。「ボクはただ、使える手段を使ったまで」と嫌味ったらしく言うクルクスの首元に、彼を拘束しているツルから新たに伸びたとがったツルが突き付けられる。
「後処理は、これからするところだ」
「か、は……っ!」
ぴ、と一瞬にして、クルクスの首が掻き切られた。さほど大きくない傷口に反して、大量の血が勢いよく噴き出す。
たいていの生物は、一瞬にして命を失ってしまうほどの血が、辺りを汚した。――そう、ほとんどの生物が絶命する、そのはずの量だった。
「は、あはは……っ」
首からぼたぼたと血を垂れながしながら、狂ったように笑うクルクスは、絶命を前にした生物には見えなかった。むしろ、先ほどと大して変わらないほど、元気と言っても過言ではない。
この状況は想定外だったのか、ビャクダンは目を見開いて、一歩後ずさった。
ごぽ、と口から血を吐きながらも笑うクルクスは、まさに狂人と言っても過言ではない。
「フォルルコの民よ、我が僕よ!」
にたにたと笑い、高らかに詠唱を始めるその姿から、リーデルは恐怖しか感じられない。あっけなく決着がついたと思われたのに、一向にクルクスが死に向かう様子は見られない。
「赤の者が命ずる、命ずる。このうざったいツタを燃やし尽くせ! ――《猛火!」
「――、なに!?」
ビャクダンが驚きの声をあげる。
ごう、と火柱が立ち、炎がツタごと少年を包むように燃え上がった。
リーデルには、一瞬、クルクスの周囲に集まった赤い光がぶれたように見えた。詳しくは分からないが、ビャクダンは先ほど、キキョウにしたように、魔法を打ち消そうとしたのだろう。けれど、失敗してしまった。
魔法に関して右に出るものはいない、と言われているエルフを上回るほどの実力。そして、首を掻き切られてもなお存命し、それどころか元気に反撃までしてきた。
「まさ、か――」
リーデルが一つの予測にたどり着いたとき、何か光るものがこちらに飛んできた。
慌ててヴァンカリアをかばうように動いたリーデルだったが、飛んできたもの――ナイフはリーデルをすり抜け、ヴァンカリアの首に深々とささる。
一瞬、何が起こったのか、リーデルには分からなかった。彫りの装飾が美しいそのナイフは、リーデルには刺さらなかったのだ。
確かに、そこにナイフは存在するのに、ヴァンカリアの首に刺さったナイフには触れるのに。
「なんで……っ!」
リーデルの悲痛な叫びに、クルクスは笑い声をあげた。
「吸血鬼狩りのボクが使うナイフが、普通のものなわけないでしょう?」
クルクスを包む炎は、だんだんと小さくなっていく。すっかり燃やされてしまったツタの残骸が、床へと落ちていった。
クルクスが服に付いた煤を払う。その彼の首元は、ツタによって切られた跡など、みじんもなかった。再生した、と言ってもおかしくないほどの回復スピードだ。それどころか、大量に噴き出していた血すらほとんど失せていて、クルクスの首元を少し汚しているもの以外、なくなっていた。
クルクスに回復系である白魔法を使った様子はなかった。ということは、完全に自前の回復力で傷を癒したということになる。
そんな化け物じみた吸血鬼狩りは、威嚇するように、口角を吊り上げた。
「今は一旦引こうかな。エルフ二人を相手にするなんて、冗談じゃない! また後で、吸血鬼が死んだかどうか、確認しにきてあげるよ」
そう言うと、クルクスは素早く中級青魔法の呪文を詠唱する。彼の手にはいつの間にか、魔法陣の書かれた札があり、その魔法陣がカッと光った。
光が収まる頃には、すっかり彼の姿は消えていた。
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