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第一部
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ショドー、ひいさまとテイム契約を済ませた翌日。ショドーの瞳やひいさまの肉球に魔法陣があるように、アルベアちゃんの腰のあたりにも、魔法陣があるのかも、というのことに気が付いた。
いや、わたしには魔法陣に見えないんだけど、アルベアちゃんの腰のあたりに、妙に複雑な模様が毛並みに現れているのだ。
ショドーとひいさまに現れた魔法陣は、わたしにはちゃんと針筆で自分が書いた魔法陣と同じものだと分かるけれど、普通に考えたらちゃんと分かるわけがないサイズなのだ。かなり複雑な模様だったから、猫サイズの瞳や肉球の面積だったら、ぐちゃっと潰れて何がなんだか分からなくなるものだと思う。
ヴォジアさんは何も言っていなかったけど、多分、テイム契約の魔法陣は、テイム契約を結んだ本人にしか分からないのだろう。
それに――。
「――ぐぅ、う、ぅる」
「わ、わ、ごめんね」
大人しくブラッシングされてくれるアルベアちゃんも、その模様の辺りだけは絶対に触らせてくれないのだ。触るな、と言わんばかりに唸るうなる。噛みついたり引っ掻いたり、そういうことはないけれど、明確に抵抗してくるのだ。お猫様を怒らせる趣味はないので、わたしはそこだけブラッシングをしない。怒ってても猫は可愛いけれど、それはそれ、これはこれ。
ひいさまは、魔法陣の浮き出た肉球を触らせてくれたけれど、アルベアちゃんは絶対に触らせてくれない。
そうなると、テイム契約の魔法陣というのは、結んだ魔物にとってはとても大切なものなんだろう、と察することができる。
でも――。
「……テイム契約を破棄されちゃうってことは、この魔法陣も消えちゃうのかな」
わたしがブラッシングしないから、アルベアちゃん自身の毛づくろいに任せっぱなしの、少し他と毛流れが違うその魔法陣。そこには、きっと彼と、その相棒である行方知れずのままの契約者との思い出があるに違いない。
それなのに、破棄されて、それが消えてしまったら……。
考えただけで可哀想だけれど、わたしにできることは思いつかない。
結局、わたしが引き取ったところで、アルベアちゃんとその契約者とのテイム契約が消えてしまうことに代わりはない。ヴォジアさんは絶対に、テイム契約下にない魔物を見せに置いてくれないだろうし。多分、それは契約者がいないままのアルベアちゃんをずっと置いておくのも嫌がられると思う。今は一時的に置いているだけで。
完全な安全地帯で育ったわたしが、どんな言葉を並べたところで、魔物討伐の近くにいるヴォジアさんには響かないだろう。
「難しいねえ」
わたしの呟きへ、静かな返事をするように、アルベアちゃんは目を閉じた。
いや、わたしには魔法陣に見えないんだけど、アルベアちゃんの腰のあたりに、妙に複雑な模様が毛並みに現れているのだ。
ショドーとひいさまに現れた魔法陣は、わたしにはちゃんと針筆で自分が書いた魔法陣と同じものだと分かるけれど、普通に考えたらちゃんと分かるわけがないサイズなのだ。かなり複雑な模様だったから、猫サイズの瞳や肉球の面積だったら、ぐちゃっと潰れて何がなんだか分からなくなるものだと思う。
ヴォジアさんは何も言っていなかったけど、多分、テイム契約の魔法陣は、テイム契約を結んだ本人にしか分からないのだろう。
それに――。
「――ぐぅ、う、ぅる」
「わ、わ、ごめんね」
大人しくブラッシングされてくれるアルベアちゃんも、その模様の辺りだけは絶対に触らせてくれないのだ。触るな、と言わんばかりに唸るうなる。噛みついたり引っ掻いたり、そういうことはないけれど、明確に抵抗してくるのだ。お猫様を怒らせる趣味はないので、わたしはそこだけブラッシングをしない。怒ってても猫は可愛いけれど、それはそれ、これはこれ。
ひいさまは、魔法陣の浮き出た肉球を触らせてくれたけれど、アルベアちゃんは絶対に触らせてくれない。
そうなると、テイム契約の魔法陣というのは、結んだ魔物にとってはとても大切なものなんだろう、と察することができる。
でも――。
「……テイム契約を破棄されちゃうってことは、この魔法陣も消えちゃうのかな」
わたしがブラッシングしないから、アルベアちゃん自身の毛づくろいに任せっぱなしの、少し他と毛流れが違うその魔法陣。そこには、きっと彼と、その相棒である行方知れずのままの契約者との思い出があるに違いない。
それなのに、破棄されて、それが消えてしまったら……。
考えただけで可哀想だけれど、わたしにできることは思いつかない。
結局、わたしが引き取ったところで、アルベアちゃんとその契約者とのテイム契約が消えてしまうことに代わりはない。ヴォジアさんは絶対に、テイム契約下にない魔物を見せに置いてくれないだろうし。多分、それは契約者がいないままのアルベアちゃんをずっと置いておくのも嫌がられると思う。今は一時的に置いているだけで。
完全な安全地帯で育ったわたしが、どんな言葉を並べたところで、魔物討伐の近くにいるヴォジアさんには響かないだろう。
「難しいねえ」
わたしの呟きへ、静かな返事をするように、アルベアちゃんは目を閉じた。
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