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第一部

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 わたしがこの店にきて、十数日が経った。朝、ベッドに座って、眠気まなこを擦りながら、ごろにゃん、とばかりに、わたしの靴の上でじゃれるショドーに、わたしは話しかけた。ごろにゃん、っていうよりはぐにゅゆん、って感じだけど、ショドーの鳴き声的に。

「ショドー、どいてー」

 今日のショドーはいたずら気分なのか、それともわたしに構ってほしいだけなのか、朝起きてから、ずっとわたしの靴を玩具にして遊んでいる。
 この世界、土足文化なので、裸足で床の上に歩くなんて、よっぽどのことがないかぎりはしたくない。掃除はしているけど、だからと言って裸足で立っても嫌悪感がないほど綺麗とは言い難い。常に土足で歩き回っているんだから。

「ショドーってばぁ」

 わたしの話なんて知らん、とばかりに靴へじゃれつくショドー。今は靴ひもをちょいちょいとつつくのが楽しいのか、猫パンチを靴ひもに食らわせている。

「ショド、おわ」

 とん、と肩に軽い衝撃が。ひいさまが飛び乗ってきたらしく、もっふもふの毛並みが寄り添ってきて右頬だけがやたら気持ちいい。

「二人とも、どうしたのよ、もう」

 そんなことを言いながらも、頬がゆるゆるになるのを押さえきれない。ショドーはともかく、ひいさまがここまで分かりやすく甘えてきてくれることはあんまりないのだ。
 二人ともわたしをどこにも行かせないモードなのか、わたしが何を言っても動かない。

「あったかーい……」

 わたしはそのまま、ひいさまを落とさないように再びベッドに寝そべる。わたしが寝そべったのをいいことに、わたしの首の上を陣取るようにしてひいさまが乗ってくる。心地よい重み。呼吸ができなくなるほどの圧迫感はなく、その代わりに、もっふもふのひいさまの毛がわたしの首回りを温めてくれる。

 やば、このまま二度寝したい。

 首元が温められたことによって、急速に眠気が襲ってくる。そもそも、完全に目が覚めたわけじゃなかったしね。
 今日もアルベアちゃんの世話をしなければならない、というのは分かっているけど、それはそれとして、この心地よい眠気にわたしは抗えないでいた。頭では起きなきゃ、って分かってるんだけど、体が全力で抵抗している。

 このまま眠れたらなんて幸せなんだろうか……。
 そんなことを思っていると、バン、といきなり部屋の扉が開かれる。

「なあ、アンタ、いつまで降りてこないつもり――う、うわッ!」

 あ、ヴォジアさんの声。
 そう思った次の瞬間、バタバタと足音か近付いてきて、すぐに首元のもふもふ感が消え去ってしまった。
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