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第一部

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 そう言えば今日はまだアルベアちゃんのところ言ってないな、と思い出したところで――自分がまだ、寝起きだったことに気が付いた。

「わ、わ、ヴォジアさん、なんでここにいるんですか!?」

 すっかり話し込んでしまったけれど、冷静に考えて、まだ顔すら洗っていない。しっかり着込んで寝るタイプだから、寝間着が着崩れて肌が露出している、ということはないものの、髪はぼさぼさだし、人前に出られる恰好ではない。やば、よだれの跡とかついてないよね?

「お前がいつまで経っても降りてこないからだろ。話し込んだのは悪いが、仕事なんだからちゃんとあいつの朝食を用意しろよ」

「そうですけど、だからって、だからって……!」

 よくよく考えてみれば、ノックのようなものをされていない気がする。二度寝したいな、って思っていたけれど、完全にうとうとと寝ていたわけじゃない。瞼は重かったけど、周囲の音はちゃんと聞こえていた。

 異性の部屋に入るのならノックをしろ。いや、異性じゃなくたって、他人の部屋に入るのならノックするべき!
 そう思うのだが、ヴォジアさんはきょとん、と不思議そうな顔をしている。この男、いい意味でも悪い意味でも、対応に男女差がない奴なのか?

「あー、もー、着替えるので出て行ってください!」

 わたしはベッドから降りて、ヴォジアさんの背中をぐいぐいと押して部屋から追い出す。あ、結局裸足のまま床に降りちゃった。いや、もう、この際いいや。さっさと部屋で一人になりたい気持ちの方が大きい。

「早く来いよ」

 扉越しに、少しばかりくぐもったヴォジアさんの声が聞こえる。多分、なんでわたしが急に態度を変えたのか分かってないんだろう。ノルンさんにでも言いつけてやろうか。
 わたしは諦めて裸足のまま着替える。顔を洗うとき、一緒に足も洗おう。ちょっと時間はかかるけど……と靴を持って、ショドーがいないことに気が付いた。ひいさまは相変わらず枕の上で丸くなっているが。

「ショドー? どこいっちゃったの?」

 わたしが声をかけると、ぐみゅ、とベッドの下から声が聞こえてきた。うーん、これは不機嫌なときのショドーの声。

 ベッドの下を覗くと、暗くなったベッド下に、エメラルドの瞳が一つ見えた。じっと目を凝らすと、黒目の方もちゃんとある。
 黒猫だからか、暗い場所はショドーが闇と一体化してしまうのだが、瞳の色が変わったからか随分見やすくなった。

 ベッド下にいるのは、急に部屋へ入ってきたヴォジアさんに驚いたからだろう。

「ごめんね、身支度とアルベアちゃんにご飯をあげたらショドーたちのご飯も用意するから」

 ショドーにそう言うと、ぐにゅ、と鳴き声の返事がした。やっぱりあんまり機嫌は良くなさそう。
 さっさとやることすませて、ショドーのところに戻ってこよう。あと、ついでにヴォジアさんにもっと文句、言わなきゃ。起きないわたしが悪いのはそうだけど、ノックをしろとか、ショドーをビビらすほどずかずかと部屋に入ってくるなとか、言いたいことは一杯あるのだ。
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