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第一部

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 ショドーとひいさまの朝ごはんの準備まで全部終わらせたわたしは、ヴォジアさんに一言文句を言ってやろうと彼を探したはいいものの、飲食店の方が混んでいて、なんだか声をかけにくくなってしまった。九時過ぎくらいなのにこんなにも混むなんて。

 ノルンさんが飲食店の調理と、宿のチェックイン及びチェックアウトの手続きをして、ヴォジアさんがホールを回しているようである。
 そりゃあ、大きい店とは言えないから人でも少なくなるもんかな、とは思うけれど、それにしたって少し人員が少ないような気がする。あ、でも、店長は別にいるんだっけ?

 飲食店自体は朝昼晩と開いているが、一日中開けっ放し、というわけではない。十時から一時間、十四時から一時間ほど休憩ということで店を閉めているようだ。
 もうちょっとしたら一旦店を閉めるはずだし、そのときに声をかければいいか。

 邪魔にならないよう、なるべくヴォジアさんの同線上と被らないよう気を付けて部屋に戻ろうとしたとき――。
 するり、と足元に何かがすり寄ってくる気配がして、わたしは思わず足元を見た。

「わ、可愛い」

 それは、一匹の水色の猫だった。ショドーやひいさまより大きい。一般的な成猫サイズ。喉元に首輪があるので、誰かの飼い猫だろう。
 可愛らしい顔立ちに、わたしは思わずしゃがみ込む。
 水色の毛並みとは、異世界の猫ってカラフルなんだなあ。人間の方も、アニメよろしく地毛なのに色とりどりだから、そんなものなのかもしれない。

「撫でてもいいですか」

 わたしがそう尋ねると、水色の猫は構わぬ、と言わんばかりにわたしの脛にすり寄ってくる。

「かわ――、つめったい!」

 ひいさまほど毛は長くないものの、動物特有のもふもふを期待していたわたしは思わず悲鳴を上げた。氷でも押し付けられたかのような冷たさがある。でも、ちゃんと毛の感覚はするので不思議な感じ。
 ずっと触っていたら毛がへばりつくんじゃないか、とちょっと思ってしまう。氷とかつまんでると、ちょっと離しにくくなってしまうやつと似ている。

「うう……いや、でも!」

 冷たさへの抵抗より、未知の猫を撫でたい気持ちの方が勝った。
 もふもふしているのに、温かみが一切感じられない。不思議な感触。何が近いかな、と思いながら水色の猫を撫でるけれど、いまいち近いものが感じられない。うーん、柔らかい新雪とか? ちょっと違うか。

 わたしがしばらく撫でて構っていると、ごろごろ、と機嫌のいい猫の喉音が聞こえてくる。水色の猫はご満悦そうな顔をしている。愛いやつ。
 ……とはいえ、表面温度が温度だから、そろそろしんどくなってきたのも事実なんだよな。手がかじかんでいる。

「ごめんね、そろそろ――」

「――もっと」

 手を離そうとした瞬間、男の人の声がした。え、と固まっているわたしの手を、誰かが掴む。

「もっと、撫でて」

 わたしの手を取っている男性の腕の先を見ると――先ほどまで、水色の猫がいたはずのそこに、一人の男性がしゃがみこんでいた。
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