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第一部

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 アルベアちゃんの後を追って、アビィさんとわたしは歩く。ここは鼻が効きにくいのか、それともザムさんの匂いが薄いのか、アルベアちゃんはうろうろと迷いながら歩くので、わたしは足を引きずりながらでも十分追い付くことができた。

 当然、アビィさんは肩を貸してくれない。まあ、この面倒くさがりな人が手を貸してくれるとは思っていなかったし、ぶつぶつ文句を言われながら歩行を手伝ってもらうよりは一人で歩いた方がよっぽどいい。というかそもそも、アビィさんとわたしの身長差だと、肩を借りながら歩く方が疲れるような気がする。

「――ダンジョンというのは、魔法使いの家みたいなものです」

 ふと、アビィさんがそんな説明を始めた。そう言えば、ダンジョンの話をしてくれるって言っていたっけ。

「家、ですか? それなら、わたしたち、不法侵入ってことになるんじゃ……」

「侵入するための家だからいいんですよ」

 アビィさんの説明に、わたしの脳内にいくつものはてなマークが浮かぶ。何を言っているのか全く理解できない。
 わたしが話に追い付いていけていないのが分かったのか、アビィさんは説明を続ける。

「魔法使いが魔法の実力を示すための家なのです。侵入者対策の魔法や、自分が研究した魔法の成果が他者にとって魅力的であるかどうか。私は魔法の研究なんて面倒なこと、進んでしたくはないのですが、ダンジョンを作るような研究馬鹿は、こぞって魔法に人生を捧げていますからね」

 高名な魔法使いになれば、その研究書や魔法道具は馬鹿みたいな高額で取引される。そうなれば、そう言ったものを求めてトレジャーハンターがやってくる。
 実力あるトレジャーハンターを返り討ちにするような魔法を準備するのもまた、ダンジョン作りには必要らしい。

 つまりは、魅力的なお宝を用意できて、そのダンジョンの攻略難易度が高ければ高いほど、ダンジョン制作者の魔法使いの名が高くなる、ということなのだろう、とわたしはアビィさんの追加説明を聞いてようやく納得できた。

「特定の草を引き抜くと入口が出てくる、なんて面倒な仕様、なかなか普通の魔法使いじゃ思いつきません。植物とはいえ生物を鍵にできる魔法使いともなれば、意外と有名な人間のダンジョンかもしれませんね」

 わたしが地味だと思ったしかけは、アビィさんからしたら称賛に値するものだったらしい。評価の基準がよく分からない。わたしが魔法に関してはさっぱりだからだろうか。
 アビィさんと話をしていると――どこからか、猫の鳴き声が聞こえたような気がした。

「ま、地中に作った時点でこの私に攻略できないわけが――」

「アビィさん、今、猫の声しませんでした!? ――……あ」

 わたしとアビィさんの言葉が被った。この流れ、前にもやったことあるぞ。
 恐るおそる彼女の顔を見ると、やっぱり子供のように頬を膨らませ、不機嫌アピールの表情をしていた。
 やってしまった……。
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