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第一部

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 わたしかアビィさんのどちらかが相手を肩車すれば出られると思うけど、残ったほうはどうしたらいいの。
 どう頑張っても二人で脱出する方法が思い浮かばず、困惑しているわたしとは裏腹に、アビィさんは至って冷静だった。もう何度も聞いた「面倒ですねえ」という言葉は言っていたけれど。口癖か?

「ここ、ダンジョンみたいですね。さっきの草が入口の鍵の一つだったんでしょう」

「そんなことあるんですか……?」

 ダンジョン、という響きはいかにもゲームや漫画を彷彿とさせるが、ああいった類のもののダンジョンの入口は、洞窟みたいだったり、魔法陣があったり、なにか石造があるなど、『いかにも』なものばかりだ。
 草一本が鍵になるなんて、ださ……しょぼ……地味……ううん、オブラートに包んだ言葉が見つからない。

「ダンジョンの説明は後程してあげます。面倒ですが、死なれる方がもっと大変なので。……師匠、こちらに来ますか?」

「この穴のサイズじゃリリファが通れねえ。そっちで何とかしろ」

 「リリファ?」とわたしが小さく聞きなれない名前を呟くと、「師匠の布団の名前です」とアビィさんが答えてくれた。布団って……フルーネルキャットのことだろうか。もうちょっとなんか言い方あるでしょ。確かに布団代わりにするみたいだったけど。
 でもまあ、フルーネルキャットちゃん、改め、リリファちゃんが通れないなら仕方がない。戦闘能力はあまりないらしいし、そんなお猫様をひとりで放置するわけにはいかない。

 というか、アルベアちゃんとわたしが離れて大丈夫かな。アルベアちゃんに言うことを聞いてもらうために、わたしもついてきたんだけど。
 落ちたのはわたしたちだけなのかな、アルベアちゃんは……と辺りを見回していると、丁度、彼が穴から振ってきた。流石ネコ科、綺麗な着地を見せた。

 そして、そのまま匂いをたどるようにして歩き始める。まるで、先ほど、道からそれてこちらに来たときのように。

「……もしかして、このダンジョンのどこかにザムとやらがいるってことですか?」

 げんなりとした顔でアビィさんがアルベアちゃんの背中を見る。そんなにダンジョンって広いものなのかな。わたしも足を負傷しているので、あんまり歩き回れないから不安ではあるけど……アビィさんのことだから、一部屋探索するのすら面倒くさがりそうだ。なんでこんなに面倒くさがりなんだろう、この人。

「あの、わたしたち、少し中を探索してみます。他に出入口があるかもしれませんし」

 わたしは穴からこちらを覗き込むエーリングさんに向かって声を張った。アルベアちゃんがもう進み始めているので、後を負わねばならない。

 少し楽しそうだな、と思った、猫系魔物との冒険に、ちょっとだけわくわくしているというのは、秘密だ。……足の負傷がなければ、最高だったし、欲を言えばショドーかひいさま相手が良かったので、完全に楽しめているというわけではないけれど。
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