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第一部
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威嚇こそしていないものの、アルベアちゃんは明らかに突然現れた猫に対して警戒心を隠そうともしていない。
わたしの足元にいる猫は、ひいさまよりもやや大きいくらいの猫だ。子猫、というほどのあどけなさはないものの、体格が小さめ。アルベアちゃんとは比べものにならないくらいこぢんまりしているので、アルベアちゃんのパンチ一発で死んでしまいそうなくらい差がありそうなのだが。
「なぉん」
足もとの猫が小さくなく。……もしかして、わたしがさっき聞いたのって、この鳴き声なのかな。鳴き方が似ている気がする。
「君、一体いつのまに――」
猫をよく見ようとしゃがんで、わたしは違和感に気が付く。この地下通路、一定間隔で証明が壁に取り付けられているものの、窓もなく薄暗いので、近づくまで気が付かなかった。
この猫、妙に左の前足だけが短いのだ。短い、というか、変に折れ曲がって固定されているように見えるというか。怪我……なのかな?
首元には鈴のついた首輪。いかにも猫らしくてかわいいけど……鈴の音、全然しなかったんだよな。本当、いつ近づいてきたんだろう。
首輪がついて、前足が歪な形。……もしかして、大事にされていない子なのかな。その割にはだいぶ毛並みがいいけれど。
「そんな猫、放って先に行きますよ」
アビィさんは鬼のようなセリフを吐く。
「このかわいそうな前足が見えないんですか!? 置いていけないでしょう」
そこまで人でなしだったか、とわたしはアビィさんにくってかかるが、アビィさんはしれっと「シャンシャットの前足は皆そんなもんでしょう」と言い返してきた。
「シャンシャット……?」
聞いたことのない種族名だ。
「呆れた! 猫のことしか頭にないくせに、シャンシャットも知らないんですか?」
こちらを馬鹿にするような物言いだったけれど、素直に「教えてください」といえば、アビィさんは肩透かしを食らったような表情を浮かべる。多分、わたしが悔しがるか恥ずかしがるか、そのどちらかを見たかったんだろうな。猫のことを教えてもらえるのなら、素直に頭を下げるべきだというのに。
「……シャンシャットというのは、愛玩用の魔物ですよ。今は品種改良で完全にペットみたいなものです。北の方の縁起がいいとされる猫の置物に似せて作ったらしく、そんな形の手をしているのだとか」
もしかして、招き猫のことだろうか。こっちの世界でも、前世で生きた国と同じ文化の国があるのかな。東じゃなくて北らしいけど。
「そんな手だから、ろくに狩りもできず、飼い猫として生きる以外に道はないそうです。……まったく、面倒な説明をさせないで欲しいものですね」
アビィさんにため息を吐かれてしまった。でもまあ、新しい猫ちゃんのことを知れたので何を言われても大丈夫。
それにしても、飼い猫としてしか生きられない種族で、その上首輪が付いているというのなら、このダンジョンの製作者である魔法使いの飼い猫でほぼ確定かも。トレジャーハンターだって、戦えない飼い猫をこんなところまで連れてこないだろう。わたしもショドーとひいさまにはお留守番してもらっているわけだし。
飼い猫だというのなら、ここに放置していってもいいのかな、と思っていると、猫は器用に二足で立ち上がる。ファンタジーよろしくしっかり立っている、というわけではなく、普通に猫が立つ感じだ。
そして、首輪の鈴を、短くない方の前足でちょいちょい、と揺らす。チリリ、チリリ、と軽い音色が聞こえる。
妙に器用だな、と思っていると――。
『たすけてほしいにゃー』
――猫がしゃべった!
わたしの足元にいる猫は、ひいさまよりもやや大きいくらいの猫だ。子猫、というほどのあどけなさはないものの、体格が小さめ。アルベアちゃんとは比べものにならないくらいこぢんまりしているので、アルベアちゃんのパンチ一発で死んでしまいそうなくらい差がありそうなのだが。
「なぉん」
足もとの猫が小さくなく。……もしかして、わたしがさっき聞いたのって、この鳴き声なのかな。鳴き方が似ている気がする。
「君、一体いつのまに――」
猫をよく見ようとしゃがんで、わたしは違和感に気が付く。この地下通路、一定間隔で証明が壁に取り付けられているものの、窓もなく薄暗いので、近づくまで気が付かなかった。
この猫、妙に左の前足だけが短いのだ。短い、というか、変に折れ曲がって固定されているように見えるというか。怪我……なのかな?
首元には鈴のついた首輪。いかにも猫らしくてかわいいけど……鈴の音、全然しなかったんだよな。本当、いつ近づいてきたんだろう。
首輪がついて、前足が歪な形。……もしかして、大事にされていない子なのかな。その割にはだいぶ毛並みがいいけれど。
「そんな猫、放って先に行きますよ」
アビィさんは鬼のようなセリフを吐く。
「このかわいそうな前足が見えないんですか!? 置いていけないでしょう」
そこまで人でなしだったか、とわたしはアビィさんにくってかかるが、アビィさんはしれっと「シャンシャットの前足は皆そんなもんでしょう」と言い返してきた。
「シャンシャット……?」
聞いたことのない種族名だ。
「呆れた! 猫のことしか頭にないくせに、シャンシャットも知らないんですか?」
こちらを馬鹿にするような物言いだったけれど、素直に「教えてください」といえば、アビィさんは肩透かしを食らったような表情を浮かべる。多分、わたしが悔しがるか恥ずかしがるか、そのどちらかを見たかったんだろうな。猫のことを教えてもらえるのなら、素直に頭を下げるべきだというのに。
「……シャンシャットというのは、愛玩用の魔物ですよ。今は品種改良で完全にペットみたいなものです。北の方の縁起がいいとされる猫の置物に似せて作ったらしく、そんな形の手をしているのだとか」
もしかして、招き猫のことだろうか。こっちの世界でも、前世で生きた国と同じ文化の国があるのかな。東じゃなくて北らしいけど。
「そんな手だから、ろくに狩りもできず、飼い猫として生きる以外に道はないそうです。……まったく、面倒な説明をさせないで欲しいものですね」
アビィさんにため息を吐かれてしまった。でもまあ、新しい猫ちゃんのことを知れたので何を言われても大丈夫。
それにしても、飼い猫としてしか生きられない種族で、その上首輪が付いているというのなら、このダンジョンの製作者である魔法使いの飼い猫でほぼ確定かも。トレジャーハンターだって、戦えない飼い猫をこんなところまで連れてこないだろう。わたしもショドーとひいさまにはお留守番してもらっているわけだし。
飼い猫だというのなら、ここに放置していってもいいのかな、と思っていると、猫は器用に二足で立ち上がる。ファンタジーよろしくしっかり立っている、というわけではなく、普通に猫が立つ感じだ。
そして、首輪の鈴を、短くない方の前足でちょいちょい、と揺らす。チリリ、チリリ、と軽い音色が聞こえる。
妙に器用だな、と思っていると――。
『たすけてほしいにゃー』
――猫がしゃべった!
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