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第一部
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魔法で睡眠を管理する、ってこういうことなのか、とか、シャンシャットちゃんの名前、レティって言うの? かわいいね、とか、思いながら男性を見ていると、眼鏡をかけた彼がこちらに気が付いた。眼鏡をかけている人は知的に見えるもの、と思っていたけれど、おしゃれ重視の丸眼鏡だからか、なんとなく、チャラさが増した。
「いや、誰」
怪訝そうな表情。誰がここまで必死に運んできたと思ってんだ、と言ってやりたかったが、寝ていたから状況が分からないのだろう。
わたしはここに至るまでの経緯をすべて話した。
最初はザムさんを探しに来たこと。
そしたら、このダンジョンに迷い込んで、シャンシャットちゃんと会い、貴方を助けてほしいと頼まれたこと。
男三人から奪取してきたこと。……引きずってここまで運んできたこと。
わたし一人の説明では、ずっと疑った視線を向けていたけれど、シャンシャットちゃんがわたしの話を肯定すると、一瞬で信じてくれた。随分とシャンシャットちゃんのことを信用しているのだろう。
「なるほど、それは助かったっす。オレはアライン。研究テーマは植物」
と、なぜか研究テーマまで含めて自己紹介してくれた。研究が好きな人の間では、研究テーマまで自己紹介に含むのだろうか?
わたしとザムさんも自己紹介を済ませ――ふと、アビィさんがいないことに気が付く。
「あともう一人いるんですけど……」
わたしがそういうと、扉の向こうから「そういうの面倒なので、さっさと終わらせて出口の場所を聞いてきてください」と聞こえてきた。……部屋の中、結構歩くの大変だから、いろいろ避けて行動するのが面倒だと判断したんだろう。
「今、外にいるのがアビィさんで――」
「――あ、アビィ!?」
わたしが、一応、とアビィさんの名前も伝えると、男性――アラインさんは思わず、といった様子で勢いよく立ち上がる。そして、その衝撃で、バサバサと再び机の上の紙束が落ちた。多分、さっきわたしがアラインさんをソファに置いた際、落ち損ねた分だと思う。
しかし、アラインさんは気にした様子もなく、バタバタと扉の方へと向かい、廊下をうかがうように、頭だけ扉の先へと出す。
「うわ、マジだ! 本当にあのアビィじゃないっすか! すげぇ!」
わたしの位置からでは彼の背中しか見えず、表情はうかがえないけど、弾んだ声を聞けば、アラインさんが、それはもうテンションが上がっていることが分かる。
……もしかして、アビィさんって、そんなに有名な魔法使いなの?
そう思いながら、わたしは、「ファンです、サインくださいっす!」というアラインさんの叫びを聞くのだった。
「いや、誰」
怪訝そうな表情。誰がここまで必死に運んできたと思ってんだ、と言ってやりたかったが、寝ていたから状況が分からないのだろう。
わたしはここに至るまでの経緯をすべて話した。
最初はザムさんを探しに来たこと。
そしたら、このダンジョンに迷い込んで、シャンシャットちゃんと会い、貴方を助けてほしいと頼まれたこと。
男三人から奪取してきたこと。……引きずってここまで運んできたこと。
わたし一人の説明では、ずっと疑った視線を向けていたけれど、シャンシャットちゃんがわたしの話を肯定すると、一瞬で信じてくれた。随分とシャンシャットちゃんのことを信用しているのだろう。
「なるほど、それは助かったっす。オレはアライン。研究テーマは植物」
と、なぜか研究テーマまで含めて自己紹介してくれた。研究が好きな人の間では、研究テーマまで自己紹介に含むのだろうか?
わたしとザムさんも自己紹介を済ませ――ふと、アビィさんがいないことに気が付く。
「あともう一人いるんですけど……」
わたしがそういうと、扉の向こうから「そういうの面倒なので、さっさと終わらせて出口の場所を聞いてきてください」と聞こえてきた。……部屋の中、結構歩くの大変だから、いろいろ避けて行動するのが面倒だと判断したんだろう。
「今、外にいるのがアビィさんで――」
「――あ、アビィ!?」
わたしが、一応、とアビィさんの名前も伝えると、男性――アラインさんは思わず、といった様子で勢いよく立ち上がる。そして、その衝撃で、バサバサと再び机の上の紙束が落ちた。多分、さっきわたしがアラインさんをソファに置いた際、落ち損ねた分だと思う。
しかし、アラインさんは気にした様子もなく、バタバタと扉の方へと向かい、廊下をうかがうように、頭だけ扉の先へと出す。
「うわ、マジだ! 本当にあのアビィじゃないっすか! すげぇ!」
わたしの位置からでは彼の背中しか見えず、表情はうかがえないけど、弾んだ声を聞けば、アラインさんが、それはもうテンションが上がっていることが分かる。
……もしかして、アビィさんって、そんなに有名な魔法使いなの?
そう思いながら、わたしは、「ファンです、サインくださいっす!」というアラインさんの叫びを聞くのだった。
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