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『鍵ありき部屋』のが終わったのを見届けると、オレの足は自然と入口ホールへ向かっていた。
いつものように、デスゲームに参加するために。
しかし、オレに誰かを殺すことなんてできない、と言わんばかりの、吸血鬼の瞳が、脳にごびりついていた。
オレが、他の参加者を殺せないのは、良心や常識の縛りがあるからではない。
単純に――怖いのだ。
何をしても、死なない相手とはいえ、誰かが傷つくことをするのが恐ろしくて仕方ない。
妹を助けるため、一億を稼ぐ手段としてデスゲームへの参加を決めたとき、オレは覚悟したはずだった。
だからこそ、デスゲームでは協力プレイをほとんどしたことがなかったし、ライバルを蹴落とせるのならと、見殺しにしたことも、少なくなかった。
それでも、自分の手で下すというのは、また別だった。
こんな半端な気持ちで生き残れるほど、デスゲームは――いや、強欲タウンは甘くない。
「唯一(ただひと)ーっ!」
入口ホールで、きらきらと目を輝かせながら、手を大きく振る吸血鬼が見えた。
こちらに駆け寄ってくる姿は、本当に子どもの様で可愛らしく、先ほどまで激しくデスゲームをしていた張本人とは思えない。
「おーなーかーすーいーたーっ!」
「あ、おい――つっ!」
吸血鬼が抱き着いてきたかと思うと、ガリ、と手首に痛みが走る。じゅ、じゅる。啜る音と、血が抜けていく感覚。
飲まれるのはまあ構わないのだが、いきなりは流石にやめてほしい。こちらにも心構えというものがあるのだ。
「急に噛みつくなっていつも言ってるだろ。せめてどこかに座らせろ」
「うー」
唸るような返事だけが聞こえてくる。多分、いや、絶対こっちの話を聞いていない。
仕方がないので、半ば引きずるようにして、ロビーのソファを目指す。本来なら、オレよりこの吸血鬼の方が力強いのだが、今は血を吸うのに夢中になっているようで、おとなしくされるがままだ。
オレがソファに座ると、吸血鬼は向かい合うようにしてオレの膝の上にまたがった。
座ったことによって身長差がなくなり、そのまま、今度は首に噛みついてくる。
「いてえ」
がじがじと、食むように首筋に牙を何度も立てられ、もはや抵抗する気もなくなった。ここまでくると、本気の食事に入ってしまっているので、オレにできることと言えば、『生命のやり直し《レザレクション》』
を発動させるタイミングを誤らないように集中するだけだ。
他人はどうだか知らないが、オレには死後、少しだけ時間が止まる様に感じる。その隙に『生命のやり直し《レザレクション》』を発動すると、致命傷はすべて回復し、生き返ることが出来るのだ。
その少しの間に『生命のやり直し《レザレクション》』を行わないと普通の人間の様に死ぬし、意識がないときに死んでしまえば、生き返ることはできずにそのまま死ぬ。
この制約はオレ以外に知っているものはいない。なにもかも見透かしているような、この吸血鬼でさえ、そのことは知らないだろう。
とはいえ、オレが「あ、死ぬ」と思ったときは本当に死ぬので、そのときに発動すれば問題ない。
「れ、『生命のやり直し《レザレクション》!」
そう、今の様に。
「いやお前、吸いすぎだろ」
体がリセットされたので、気のせいだとは思うのだが、頭がくらくらする。本当に、この少女は加減を知らないというか、なんというか。
一度オレを殺すほど血を飲んで満足したのか、ぺろりと唇に付着した血をなめとって、「ぷはーっ」と、一気飲みをした時のような息を吐いた。
「ご馳走様!」
にかっと、お手本のような満面の笑みを浮かべるので、「お粗末さま」と返すのがやっとだった。もう慣れてしまったというかなんというか。
「もういいか。明日のエントリー、済ませてくる」
「えー、どうせ負けるのに?」
心底不思議そうに、吸血鬼が首を傾げた。この少女にとっては、オレがデスゲームに参加しているのに誰も殺そうとしないことも、その上で負け続けているのになおも参加しようとするのも、不思議で仕方ないのだろう。
「次は勝つかもしれないだろ」
オレは吸血鬼を膝から下ろし、受付端末へと向かう。
「無駄だと思うなー。まあボクとしては唯一が死ななきゃなんでもいいけど」
オレの後ろを、吸血鬼はついてくる。次にオレが何へ参加するのか、興味があるのかもしれない。それか、オレが受付を済ませたら、おかわりをねだろうと思っているのか。……後者だな。
デスゲーム受付端末にたどり着いたオレは、参加者募集中、と書かれた、明日以降に開催されるデスゲームを探す。
とりあえず、今日と同じで『牢と狼』は安定だ。あれは参加メンバー次第では協力プレイが可能だし、アンデット参加が前提でないルールの、数少ないデスゲームだ。
オレは『牢と狼』に参加申し込みをする。明日はあの魔女が参加していませんように、と願いながら。
「一つだけ? 他にも登録しておけば?」
どうせ今日みたいに負けるんだから。
そうは言わなかったが、そんなニュアンスだった。
言われなくても、人間でも参加できるものは片っ端から登録するつもりだ。当日に、開催される数が増えることもあるので、逐一チェックは欠かせないが、今申し込めるものはまとめて申し込んでおく。
――と。
隣のデスゲーム受付端末に、見たことのない少女が二人、やってくる。
デスゲームに参加するようになって一年か二年か、正確には数えていないが、年単位で毎日参加していれば、大体の顔触れは覚える。
一人は気弱そうでうつむきがちな、端末をいじる三つ編みの少女。もう一人は、気弱な少女をはやし立てる、ギャルっぽいプリン髪な女子。
見覚えがない、ではなく、本当に見たことのない二人組だ。
デスゲームだけでなく、強欲タウンそのものと似合わない二人組を思わずじっと見てしまう。
端末操作がおぼつかない二人組は、どうやらデスゲームに初参加の様だった。ルールをいちいち確認しては、リアクションを取っている。
参加メンバーがやや固定化されてきていて、新規参入して稼ぐことが難しくなってきているデスゲームに、今更新人なんて珍しい、と思っていたのだが。
「あっは、マジ? 人間だ」
あざ笑う吸血鬼に、オレはますます驚くこととなる。
いつものように、デスゲームに参加するために。
しかし、オレに誰かを殺すことなんてできない、と言わんばかりの、吸血鬼の瞳が、脳にごびりついていた。
オレが、他の参加者を殺せないのは、良心や常識の縛りがあるからではない。
単純に――怖いのだ。
何をしても、死なない相手とはいえ、誰かが傷つくことをするのが恐ろしくて仕方ない。
妹を助けるため、一億を稼ぐ手段としてデスゲームへの参加を決めたとき、オレは覚悟したはずだった。
だからこそ、デスゲームでは協力プレイをほとんどしたことがなかったし、ライバルを蹴落とせるのならと、見殺しにしたことも、少なくなかった。
それでも、自分の手で下すというのは、また別だった。
こんな半端な気持ちで生き残れるほど、デスゲームは――いや、強欲タウンは甘くない。
「唯一(ただひと)ーっ!」
入口ホールで、きらきらと目を輝かせながら、手を大きく振る吸血鬼が見えた。
こちらに駆け寄ってくる姿は、本当に子どもの様で可愛らしく、先ほどまで激しくデスゲームをしていた張本人とは思えない。
「おーなーかーすーいーたーっ!」
「あ、おい――つっ!」
吸血鬼が抱き着いてきたかと思うと、ガリ、と手首に痛みが走る。じゅ、じゅる。啜る音と、血が抜けていく感覚。
飲まれるのはまあ構わないのだが、いきなりは流石にやめてほしい。こちらにも心構えというものがあるのだ。
「急に噛みつくなっていつも言ってるだろ。せめてどこかに座らせろ」
「うー」
唸るような返事だけが聞こえてくる。多分、いや、絶対こっちの話を聞いていない。
仕方がないので、半ば引きずるようにして、ロビーのソファを目指す。本来なら、オレよりこの吸血鬼の方が力強いのだが、今は血を吸うのに夢中になっているようで、おとなしくされるがままだ。
オレがソファに座ると、吸血鬼は向かい合うようにしてオレの膝の上にまたがった。
座ったことによって身長差がなくなり、そのまま、今度は首に噛みついてくる。
「いてえ」
がじがじと、食むように首筋に牙を何度も立てられ、もはや抵抗する気もなくなった。ここまでくると、本気の食事に入ってしまっているので、オレにできることと言えば、『生命のやり直し《レザレクション》』
を発動させるタイミングを誤らないように集中するだけだ。
他人はどうだか知らないが、オレには死後、少しだけ時間が止まる様に感じる。その隙に『生命のやり直し《レザレクション》』を発動すると、致命傷はすべて回復し、生き返ることが出来るのだ。
その少しの間に『生命のやり直し《レザレクション》』を行わないと普通の人間の様に死ぬし、意識がないときに死んでしまえば、生き返ることはできずにそのまま死ぬ。
この制約はオレ以外に知っているものはいない。なにもかも見透かしているような、この吸血鬼でさえ、そのことは知らないだろう。
とはいえ、オレが「あ、死ぬ」と思ったときは本当に死ぬので、そのときに発動すれば問題ない。
「れ、『生命のやり直し《レザレクション》!」
そう、今の様に。
「いやお前、吸いすぎだろ」
体がリセットされたので、気のせいだとは思うのだが、頭がくらくらする。本当に、この少女は加減を知らないというか、なんというか。
一度オレを殺すほど血を飲んで満足したのか、ぺろりと唇に付着した血をなめとって、「ぷはーっ」と、一気飲みをした時のような息を吐いた。
「ご馳走様!」
にかっと、お手本のような満面の笑みを浮かべるので、「お粗末さま」と返すのがやっとだった。もう慣れてしまったというかなんというか。
「もういいか。明日のエントリー、済ませてくる」
「えー、どうせ負けるのに?」
心底不思議そうに、吸血鬼が首を傾げた。この少女にとっては、オレがデスゲームに参加しているのに誰も殺そうとしないことも、その上で負け続けているのになおも参加しようとするのも、不思議で仕方ないのだろう。
「次は勝つかもしれないだろ」
オレは吸血鬼を膝から下ろし、受付端末へと向かう。
「無駄だと思うなー。まあボクとしては唯一が死ななきゃなんでもいいけど」
オレの後ろを、吸血鬼はついてくる。次にオレが何へ参加するのか、興味があるのかもしれない。それか、オレが受付を済ませたら、おかわりをねだろうと思っているのか。……後者だな。
デスゲーム受付端末にたどり着いたオレは、参加者募集中、と書かれた、明日以降に開催されるデスゲームを探す。
とりあえず、今日と同じで『牢と狼』は安定だ。あれは参加メンバー次第では協力プレイが可能だし、アンデット参加が前提でないルールの、数少ないデスゲームだ。
オレは『牢と狼』に参加申し込みをする。明日はあの魔女が参加していませんように、と願いながら。
「一つだけ? 他にも登録しておけば?」
どうせ今日みたいに負けるんだから。
そうは言わなかったが、そんなニュアンスだった。
言われなくても、人間でも参加できるものは片っ端から登録するつもりだ。当日に、開催される数が増えることもあるので、逐一チェックは欠かせないが、今申し込めるものはまとめて申し込んでおく。
――と。
隣のデスゲーム受付端末に、見たことのない少女が二人、やってくる。
デスゲームに参加するようになって一年か二年か、正確には数えていないが、年単位で毎日参加していれば、大体の顔触れは覚える。
一人は気弱そうでうつむきがちな、端末をいじる三つ編みの少女。もう一人は、気弱な少女をはやし立てる、ギャルっぽいプリン髪な女子。
見覚えがない、ではなく、本当に見たことのない二人組だ。
デスゲームだけでなく、強欲タウンそのものと似合わない二人組を思わずじっと見てしまう。
端末操作がおぼつかない二人組は、どうやらデスゲームに初参加の様だった。ルールをいちいち確認しては、リアクションを取っている。
参加メンバーがやや固定化されてきていて、新規参入して稼ぐことが難しくなってきているデスゲームに、今更新人なんて珍しい、と思っていたのだが。
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あざ笑う吸血鬼に、オレはますます驚くこととなる。
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