ヒノキの棒と布の服

とめきち

文字の大きさ
199 / 230

第百六十九話 王都へ


 バロアから南西に向かう街道ぞい、から少し離れた空き地に厩があった。
 しとしとと降り注ぐ雨が、午後の空気を蒸し暑くする。
「なんかからっとしねえな。」
 タツヨシは、襟首に指をかけて首を左右に振る。
「ま、この辺は夏になりゃこんなもんさ。」
 パセリは、鍋のスープをかき混ぜる。
「これで、この厩がなかったら、もっと悲惨だぜ。」

 ライラの声に、タツヨシは振り返る。
 アマンダの宿から持ってきた厩は、馬三頭入れてもまだまだ余る。
 二階建てなので、寝るときはこっちに上がる。
「天幕の中なんて、湿気るし暑いし、たまらないよ。」
 男っぽいとはいえ、年頃の娘にとっては、汗まみれなのはいただけない。
「なにしてるんだ?」
 ライラが見ると、タツヨシはでかい桶を洗っていた。

「水魔法覚えたから、桶洗ってるんだ。」
「そりゃあ見ればわかる。」
 タツヨシは、パセリの手本を見ながら、水魔法を生やした。
 意外と才能があるのは、理系思考のせいだろうか。
 そうして、きれいになった桶に湯を注いだ。
「なんでお湯が出るの?」
 ライラがあきれたように言う。
「ああ?こんなもん論理的に熱交換システムの原理で出せるんだよ。」

 ぶっきらぼうに言うタツヨシに、パセリの下唇が伸びる。
「まったく、あたいの教えたことが、どんどん枝葉別れてくんだよ!」
「はあ?パセリの言ってる意味が分からん。」
「あたいの教えた魔法に、横から枝が伸びて変な格好になっちゃうんだ。」
 ライラに『さんすう』は難しかった…
「そうでござんすね、教えたことはうまく呑み込んで、そこから新しい道を探るような…」
 アマンダの言葉に、パセリがうなずく。
「そうそう、女将さんの言う通り。ちゃんと教えた通りやれよ!」

「へえ?じゃあ、このお湯はいらんのだな。アマンダ、お前が使え。」
 タツヨシは桶をアマンダの前に置いた。
「ちょちょ!使わないとは言ってない!」
 パセリは慌てて手をパタパタ振り回す。
「だいたい、お前ら魔石の使い方も変なんだよ。」
 タツヨシは、ポケットからゴブリンの魔石を取り出した。
 それは、卵より少し小さいが、緑色のヒスイのように輝いた。

「はあ?」
「これにこうして魔力を通して、熱変換すると…」
 ゴブリンの魔石はぽうっと赤く変色した。
「おっといけねえ。」
 タツヨシは、隅に作った石組みの中にその魔石を置く。
「んで、ここに鍋を置くと…」
 見る間に鍋の中で、水がこぽこぽと泡を浮かべだした。
「うそ…」

 パセリがあきれたような声を上げた。

「なんでなんで~?」
「だってよ、魔石自体が魔力の塊りだろう?だったら、もっと純粋な魔力を送ったらどうかと思ったんだよ。」
「それでできちゃうあんたがおかしい!」
「パセリが教えてくれたことだろう。」
 教えたからって、すぐにできるもんじゃない。
 魔法のと言うか、魔力の流れる方向とか、それを制御する魔方陣とか。
 考えることが山積みなのに。
 なによその『できちゃった』っていうテイは!

「できちゃったねえ…」
 ライラも腕を組んで魔石を睨む。
 なかなか『デケエ』が腕の上にむにゅんと顔を出す。
 革に包まれているので、あんまり柔らかそうには見えないが。
「なんだよそのやらしい表現は。」
「ば!」
 ライラは顔を真っ赤にしてにらむ。

「そんな立派なパイオツしてるくせに、生娘みたいなこと言うなよ。」
「なんだと~」
「おお、こわやこわや。」
「ヌシさま、そのように小娘をからこうてはいけませんす。」
「そうかい?」
 アマンダは二十七歳と言っていたが、あまり信用できんな。
 ちなみにライラは二十四歳・パセリは十八歳である。

 姉妹の年が離れているのは、親父が出稼ぎもので国中ふらふらしていたからだ。
 彼女らにはまだ上の姉がいる。

「ああ?あたいらが小さいころに冒険者とパーティ組んで出て行ったさ。」
 なんでもトラみたいな獣人のパーティだっそうで。
「当時でも、姉さんは百年に一人と言われるほどの魔力で、とんでもねえ師匠がついたそうだよ。」
「へえ」
「なんでも五百年生きてるハイエルフだってさ。」
 パセリは帽子をちょっと持ち上げる。
「この帽子は、その師匠にもらった。」

「ほう」
「でもまあ、あたいは魔力が人よりちょっと多い程度だったんだよ。」
「そうなのか?」
「だから、少ない魔力でできるように器用になったのさ。」
「へえ」
「あんたみたいに力業で魔法ぶっぱなすなんて、死んじまうよ。」
「そうなののか?」

「当たり前だよ、あんた魔方陣構築前にぶっ放してるだろ。」
「知らんけど。」
「しらんのか~い!」
 ライラとアマンダは、よくわからん顔をしている。
 これを、チベットスナギツネのような顔と言う。

「だいたいこの壁だって、いいかげんに練った魔力で生やしてるだろ。」
「え~、だってこんなもん簡単な術式だろうが。思っただけで組めるやん。」
「そこだよ、あたいたちはクールタイムもたないと起き上がらないんだよ。」
「へ~、だってこれお前が教えてくれた土ボコだぞ。」
「はあ~?土ボコ?」
「ああ、だからほとんど魔力使ってない。」
「こんちくしょ~!」

感想 186

あなたにおすすめの小説

ハズレ職業【フリーター】を授かった少年は、王都で騙されて多額の借金を背負う。しかし、修復スキルでガラクタを修復して最下層の泥底から成り上がる

ninjin
ファンタジー
主人公アルトは、病気の母のため王都で一旗揚げるも、授かったのは「フリーター」という最弱の職業。その直後、無一文となり、多額の借金だけが残ってしまう。絶望の底で、アルトは神から与えられたフリーターの力を使い、誰も見向きもしない廃棄物から価値を創り出すという、裏の稼業に活路を見出す。

ある日、僕は全知全能になった。

暁月ライト
ファンタジー
ある日、平凡な男子高校生である宇尾根 治は全知全能になった。 何の前触れもなく突然にその力を手に入れた主人公が、表向きには平凡な高校生として過ごしつつ、裏では色んな世界を自由気ままに旅したりして遊ぶ話。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

見るだけの簡単なお仕事

浜柔
ファンタジー
「オレ」は気付くと勇者召喚の現場に居た。 だが召喚されたはずの勇者はそこに居らず、巻き込まれてここに居る「オレ」はどうやら「平民」に憑依したらしい。 そしてあろうことか「平民」が現れなかった勇者の身代わりにさせられた。 「勇者」にされた「平民」は身バレを防ぐためとして召喚の責任者のお姫様に旅に連れ出された。

戦国転生・内政英雄譚 ― 豊臣秀長の息子として天下を創る

丸三(まるぞう)
ファンタジー
戦国時代に転生した先は、豊臣秀吉の弟にして名宰相――豊臣秀長の息子だった。 現代では中世近世史を研究する大学講師。 史実では、秀長は早逝し、豊臣政権は崩壊、徳川の時代と鎖国が訪れる。 ならば変える。 剣でも戦でもない。 政治と制度、国家設計によって。 秀長を生かし、秀吉を支え、徳川の台頭を防ぎ、 戦国の終わりを「戦勝」ではなく「国家の完成」にする。 これは、武将ではなく制度設計者として天下を取る男の物語。 戦国転生×内政改革×豊臣政権完成譚。 (2月15日記) 連載をより良い形で続けるため、更新頻度を週5回とさせていただきます。 一話ごとの完成度を高めてお届けしますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (当面、月、水、金、土、日の更新)

スキルを駆使して人生勝ち組っ!R

momo
ファンタジー
失敗ばかりの人生だった。 夢も、恋も、キャリアも、全部中途半端。 だけど――もう一度やり直せるなら。 三十後半OL、まさかの逆行転生。 与えられたのは“努力を裏切らない”スキルボード。 毎日の積み重ねが、確実に未来を変えていく。 今度こそ堅実に、公務員になって、静かに幸せに暮らす。 そのはずだったのに。 なぜか才能が覚醒。 ピアノ界の神童? 子役スター候補? 違う、そうじゃない! 安定志向アラフォー女子の人生二周目、 思わぬ才能無双で開幕! ※スキルを駆使して人生勝ち組っ!の加筆修正した物になります。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。