ヒノキの棒と布の服

とめきち

文字の大きさ
33 / 207

第十一話 冒険者の商売 その②

しおりを挟む

「薬草取りだって、ウサギと出会うこともあるからな。」
「はい。」

「さて、マレーネは穴掘りの練習、ミシェルはウサギの解体を覚えろ。」
「解体ってギルドで頼めるんじゃ?」
「ばか、家で食う分は、自分でやるもんだ。解体だってタダじゃねえぞ。」
 ウサギ程度でも、けっこうお高くなりますな。
「マルソー、教えてやってくれ。」
「おう。」
 草の上で、ウサギの解体を始める。


 少し離れて、マレーネは土ボコを練習し始めた。
「ったく、ユフラテは面倒見がいいなあ。」
 ジャックが俺を横目で見る。
「ああ?」
「この解体したやつ、マレーネに食わせるんだろう?」

「…まあな。」
 俺は、マレーネを見張っている。
 サーチに引っかからないものもいるからだ。
 マレーネのそばには、薬草があったのでこれも回収する。
「あ、薬草…」
「そうだ、ウサギばっかりじゃねえ、草原にはお宝が隠れているんだ。」
 そう言いながら、薬草をリュックに入れる。

 薬草もあらかた取れたので、枯れ枝を集めることにした。
 どうやら、ジャックも薪を集めてきたようだ。
「ユフラテ、切ってくれ。」
 長い枝も混じっている。

「ほい。」
 ちゅいん。
 ちゅっちゅっちゅいん。
「な!なんですかそれ!」
 ミシェルが驚いて声を上げた。

「着火の魔法だ。」
「え~?」
 ミシェルは、妙な顔をしている。
「着火の魔法で遊んでいたら、こうなった。面白いから使っている。」
 すぱすぱと切れる枝に、マレーネちゃんは目を丸くしている。
「で、着火。」
 ぼふん。
 今ではマキに火をつけるのも簡単になった。

 荷車からフライパンを出して、ウサギの脂身を放り込み、カンカン言うまで温める。
「切り身くれ。」
「おう、できたぞ。」
 ウサギの切り身は、ピンクがかってトリ肉みたいなんだ。
 これに塩を振りながら焼く。
 カンカンのフライパンは、ウサギに軽い焦げ目をつけて、うまそうになってきた。
「ここに、この魔法の粉をパラリ。」
「うお!贅沢なモンもってるな!」
 マルソーが鼻をひくひくさせる。
「もらいもんだ。」

 乾燥したコショウの実を、すり鉢ですり下ろしたものだ。

 売りにいけないから、自家消費してる。
 なんせ、バカ高いものだから、どこで仕入れたか聞かれるといやだ。
 盗賊が持っていたものだしな。

 たしかに贅沢なものだ。
「売れば好いのに。」
「だって、金に困ってないもん。うまいほうがいいっしょ。」
「そりゃあ、おこぼれにあずかる俺たちはいいけどよ。」
「けど?」
「他で飯が食えなくなる。」
「そりゃあ、我慢しろ。」
「だはは~(泣)」

 一口大に切られたウサギ肉は、ころころステーキになってみんなに供された。

「やっぱうめえ~!」
「これこれ!」
 マルソーとジャックの二人は歓声を上げている。
 まあ、コショウなんて高級食材ですからね~。

「うま!」
「!」
 若い二人も、目を丸くしている。
「マレーネは、しばらく俺とウサギ取りに来い。ミシェルは、ジャックとマルソーに突きを習え。」
「いいんですか?」
「危なっかしくって見てられない。」

「師匠は、二人の面倒をみるですかね?」
 ジャックは、ウサギの肉を食い終わって聞いた。
「しょうがないじゃないか、マレーネが太るまで続ける。」
「うひ~。」
 ジャックはおどけて見せる。
「マレーネ、顎の下まで詰め込め。」
 俺の言葉に、みんなが笑った。
「そんなに入りませんよ。」
「まあ、とにかくよく噛んで、しっかり詰め込めばいい。」
「はい。」

 俺たちは、ウサギの肉の残りを大きな葉っぱで包んで荷台に乗せた。
 とにかくまだ売れるやつは二匹だ。
「さあ、まだまだ獲っちゃうYO~。」
「ヨールじゃねえんだからさ。」
「ははは、おお、またくるぞ。」
「どっちだ?」
「あっちだ。」
 ジャックが油断なく構える。
「来るぞ。」
 がさがさ
「おりゃあ!」

 ジャックの槍は、ウサギの口の中に突き入れられた。
「おお!うまい!」
 一瞬にして絶命したウサギは、ごろりところがった。
「見たかミシェル、あれが踏み込みと度胸だ。」
「うわ~!」
「すごい。」
 マレーネも息を呑んでいる。

 マルソーが槍を回す。
「ユフラテ、次はまだか。」
「待ってろ。」
 オレは、ぽいっと石を投げた。
「ぎゃう!」
 当たったらしい。
「来るぞ。」
「はあ!」

 ひゅんひゅんひゅん!

 マルソーの槍が銀色の軌跡を描く。

 がきん!
 石突きが、ウサギのあごを捉え、跳ね上がった。
「おお!」
 完全に浮き上がったあごの下を、一気に踏み込んで貫いた。
「すごい。」
「マルソーさんって地味な印象だったのに。」
 なにげにマレーネひどくね?
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

透明な貴方

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。  私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。  ククルス公爵家の一人娘。  父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。  複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。 (カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...