ヒノキの棒と布の服

とめきち

文字の大きさ
120 / 207

第九十話  王都崩壊その4

しおりを挟む

 カズマの横に、ティリスとアリスティアが立つ。
 その横には、いつの間にかアマルトリウスもいる。
 ゲオルグ=ベルンが、マルノ=マキタが、騎士たちも立っている。
 みな胸を張って、目を輝かせているのだ。
「お屋形さま。」
「おう。」



 ぐぼおおおおおお



 竜体となったアマルトリウスが口を開いた。
 開いた口から、赤い光が漏れだす。
 まさに剣呑な滅びの光だ。
 徐々に光の玉が吸い込まれていくさまは、かの波●砲の発射準備のようだ。
 きゅいんきゅいんと、あのおとが聞こえてくるようではないか。
 その光の集束が、一瞬止まった。
 
「まずい!みんな伏せろ。」
 カズマは大声でわめく。

 みな一斉に地面に伏せた。
「がぼおおおお!」
 アマルトリウスは、すいっと首を引くと、ゆっくり前にせり出す。

 くるぞくるぞ
 その場のみんなが、次に来るドラゴンブレスの衝撃に備えた。

「対ショック!対閃光防御!」
 思わずそんな言葉が口を衝いて出てしまった。
 カズマ、赤面。

 ばふ!

 アマルトリウスが、ブレスを吐き出すと思われたが、口から出たのは黒煙のかたまり。
「ほえ?」
 当の本人も、素っ頓狂な声が出る。
「ど、どうしたんだ?」
 カズマが見上げると、とまどったようなアマルトリウスが見えた。
「アカ~ン!アレが来た!」

「アレ?」

 いらいらしたように、アマルトリウスはわめいた。
「女の子が来た!ブレスが撃てない!」
「げげっ!ブレスがアテにできないのかよ!」
「だからそう言っている。」
 人間形態に戻って、アマルトリウスがカズマに言う。
「そうか…」

 そうかじゃねえよ、どうするんだよ。

 すでに彼我の距離は、ワイバーンの声が聞こえるほどになってきた。
 簡単に言うと五百メートルほどであろうか。

『装着!』
 カズマの体に竜の鎧が纏われる。
 蒼くきらめく姿は美しい。
『装着!』
 ティリスが、アリスティアが同時に革袋の口を開いた。
 そのローブの上に、蒼くきらめく鎧が装着されていく。

 けして蒸着ではないよ、ええ。


 後ろの王国貴族からため息ともうめき声とも言われぬ声が広がる。


 カズマの体に精霊がまとわりついてくる。
 どこにこれほどの精霊がいたのだろうか?
 王都の精霊だけではない。
 まるで、国中の精霊が集まって来るようではないか。

 カズマが集中を始めると、ワイバーンの上に黒雲が渦を巻き始める。
 どいつもこいつも、通常の倍もありそうな大きさで、醜悪に顔をゆがめている。
 今から始める虐殺に、気分が高揚しているのか。

 異変に気付いたのは、群れの周辺に位置するワイバーンである。
「ぎゅうううう!」
 警戒の声を上げ、横へスライドを始める。
 それに倣うように、一頭また一頭と、群れから離脱を始める。
 カズマにとっては想定済みのことだった。

「サンダーブレーク!」
 びしゃあああああ!
 真っ白な光をまとって、黒雲からは幾筋もの光が迸る。
 ぐぎゃああああ!
 悲鳴を上げられたものは幸いである。
 中心にいたものは、声を出す間もなく絶命して地面に向かう。
 千頭近くいたワイバーンは、数百頭に数を減らしている。

 ぼとぼとと音を立てて、地面に落ちたワイバーンは、動かなくなったものぎゃあぎゃあとわめいてのたうちまわるもの。
「もう少し減らそうか。」
 カズマは聖女に顔を向けた。 

「さすがお屋形さま。」
「そうどすな。」
「ほな、アリスさん姉さん、いきまひょか。」
「へえ、よろしおす。」

 これは、王国なまりであり、帝国から聞いた言葉なので、他意はありません。

 ワイバーンの群れは、口からよだれを振りまいて飛んでくる。
 一〇メートルを越えるワイバーンが、数百頭固まって飛んでくると、恐ろしい迫力がある。
 王宮の中庭は、太陽の光が遮られ、薄暗くなった。 
「いいかお前ら、なんとしても首を落とせ!そしたらそのワイバーンはそいつにくれてやる。」
「ほ、ほんとですか!」
「まことまこと藤田まこと、あたり前だのクラッカー!」

 ゲオルグ=ベルンたちにはなんのことかわからない(笑)

「ただし、しっぽの毒針にはくれぐれも気を付けろ。刺されたら、死ぬだけじゃない、全身に痛みが走るぞ。」
「うええ」
「苦しんで苦しんで死ぬからな、気を付けろよ。」
「「「はは!」」」

 雁首ならべた若い者たちは、勇んで剣を構えた。
「落とした奴は、がんがん切れ!」
「「「おう!」」」

「パルスレーザー!」
 ティリスの声が響いた。
 しゅぴぴぴぴぴ
 ティリスの手からは、一〇本のレーザーが、間断なく発射されている。
 威力は弱いが貫通性がよく、当たり所によってはワイバーンも貫く。

「レーザーブレイド!」
 アリスティアの声が聞こえる。
 あのチャッカマンの魔法である。
 けして、銀色のあの人ではない。
  ないったらない。
 ざっと音を立てて舞い上がる人影は、一番先頭のワイバーンを縦に切り裂いた。
「げげっ!お方さま!」

 アリスティアは、頭からワイバーンの血をかぶって血みどろである。
 うげげ。
 これで奮い立たねば、王国兵士ではない。
 みな雄叫びをあげて、ワイバーンに切りかかった。

 王宮魔術師たちも、盛んに魔法を打ち出している。
 いまや、王宮は固定砲台と化して、ワイバーンに攻撃を始めた。

「おおおおおお!」
 雄叫びと共に、大剣が舞う。
 シモン=ド=ジョルジュ近衛将軍が、優雅な出で立ちにもかかわらず、雄々しい姿を見せた。
 ワイバーンは、首を深く切られて絶命する。
「不覚、切り落とせなかった。」
「ふむ、いいんじゃねえの?」
 カズマはにやりと笑う。

「それ!かかれい!」
「「「おおおおおおお!」」」
 雲のようなワイバーンの塊は、ティリスの攻撃を顔に食らって、苦しみのたうちまわる。
 どうやら目を射ぬかれたようだ。
「はっ!」
 優雅に舞うように飛ぶアリスティアは、赤いレーザーで切りまくる。

 その美しい金髪が、ところどころ深紅の血で染まる。

「レーザーブレイド!」
 ティリスも、飛び道具はやめたようだ。
 赤いレーザーで、ワイバーンを切り裂く。
 こちらは、ろくに狙いも定めないので、足だの手だのぼとぼとと落ちる。
 あ・腹切られて内臓ぶちまけてる。
「うひゃあああああ!」
 そらそうなるわなあ。
 ティリスは、顔まで真っ赤になった。

「しっぽ!」
 カズマの声に、ティリスはレーザーで応戦する。
 すぱりと切り落とされて、その辺に飛んで行った。

「こんちくしょう!」
 マルノ=マキタが大剣を振り落とすが、首の三分の一くらいしか喰い込まない。
「マルス!」
「おう!」
 マキタの剣の上から、マルスの大槌が落とされて、ワイバーンの首は落ちた。
「ナイス!」
 二人はにやりと笑った。
 すかざず革袋に消えるワイバーン。

「いろいろ使い道があるからもったいねえ。」
「ちげえねえ。」
 そこに横合いから声がかかった。
「もし、そこもとらはいずれの御家中か?」
「我らでござるか?われらはマリエナ伯爵が家臣でござる。」
「おお、これは僥倖。拙者ここにワイバーンを始末いたしたところ、革袋がござらん。」
「さようでござるか。」
「まことに不躾ながら、そちらの革袋に相乗りさせていただけないものかと愚考いたす。」

「はあ、そちらさまはいずこの御家中でござるか?」
「これはご無礼を、申し遅れ申したが、拙者バロア侯爵が家臣、オルソ騎士爵でござる。」
「さようでござるか、ではここに一筆いただいて、一緒に運んでまいりましょう。」
「かたじけない。」
「あとで騒動になっても困り申すので、面倒でござるがお願い申す。」
「いや、こちらがお願いしており申す、平にご容赦。」
 話はまとまって、オルソ騎士爵のワイバーンも収納することになった。
 こののち、彼も同行することになるのだが。



「うおおおおお!」
 マルソーがワイバーンの首に剣を刺す。
 がいん!
「うわ!」
 あまりに固い鱗に、ソードの刃が跳ね返された。
「ぐぎゃあああ!」
 ワイバーンが吠える!

 羽根を撃ち抜かれ、地をはうしかできないが、それでも強力な嘴と、毒の尻尾は健在である。

「マルソー!」
 ジャックが、しっぽを撃ち返す。
 これも切れない。
 なんてナマクラなんだ。

「「ほっとけ!」」

「ああああああ!」
 マレーネが吼えた。
「レーザーブレイド!」
 しゃきん!
 ワイバーンの首を、下から切り上げる。
 出力が弱いのか、首半ばで消えた。
「げぶ!」
 ワイバーンは、口から血を吹いて首を投げだした。
 力なく尻尾も垂れ下がる。

「やったわ!」
「マレーネちゃん!」
 エディットが声を上げた。
 横合いから、腕の骨の折れたワイバーンが迫る。
 ヘルメットのせいか、目があさっての方向にイッちゃってる。

「格子力バリヤー!」
 エディットが、渾身のバリヤーを展開した。
 がいん!
 ワイバーンの嘴が、バリヤーに跳ね返される。
「ありがと!エディット!」
 ぶん!
 マレーネの振りまわすレーザーブレイドが、まっすぐに突き出された。
 マレーネのレーザーブレイドは、ワイバーンの目から脳髄を貫き通す。

 出力の弱いマレーネでも、これなら確実に仕留めることができた。

「やった!」
 二人は、二匹のワイバーンを革袋に納めた。
「マルソー!後ろ!」
 レミーが槍を繰り出す。
 がきん!
「ちくしょう!はなせ!」

 レミーの槍は、その穂先をワイバーンに喰いつかれていた。

「そのまま!」
 横からミシェルの剣が首に迫る。
 がきん!
 ワイバーンの堅いウロコが跳ね返した。
「なんの!」
 もう一度同じところを狙う。
「おおおおおおお!」

 ミシェルのブレードに、マルソーの槍が重なる。
 ワイバーンは首を半ば切られて絶命した。

「ようし、お前らもう少しだぞ!」
 カズマが吼える。
「残敵三〇〇余りか、もう一息だな。」
「お屋形さま。」
 ゲオルグ=ベルンが駆け寄ってくる。
「どうした。」
「はっ、王国陸軍が押し出してございます。」
「そうか、まあ任せるところは任せてしまえ。」
「はっ。」

 カズマは、彼らを横目で見ながら半身を開いた。

 右手をグイッと後ろに引く。
「くらえ!ロ●ットパンチ!」
 カズマの右腕にかぶさるように、鋼鉄の腕が形成されて、ワイバーンを目がけて飛び出してゆく。
 何個、何十個と撃ちだされる鋼鉄の腕。
 それに意味などない。
 たぶん、カズマの趣味だろう。

 悪趣味とも思えるが。

 自動追尾するそれは、命令がなくてもワイバーンを駆逐していく。
 命を取らなくてもいいのだ。
 トドメは、地面の兵士がする。
 カズマは、ただワイバーンを地上に落とせばいい。

「この兜、中に針が仕込まれてますね。」
 ゲオルグ=ベルンは、ワイバーンから兜を引きはがしていた。
「くせえな、厭な匂いがぷんぷんするぜ。」
「まことに。」
 主従はにやりと笑う。

「ごっ…ご注進!」
「いかが?」
「は、将軍さまはいずこに?」
「ほら、向こうに居るだろう。」
 カズマが指さす先には、血に染まった長剣を下げて、指示を出すオルクス=マルメ将軍の姿があった。
「ほら行け。」
「はっ!」

 電文をもってきたのは、下級の文官だった。

「なん・だと…」 


 電文を呼んだマルメ将軍は絶句した。
「陛下!へいか!」
 リンゴの檻に隔てられた国王は、なすすべもなくそこから兵士たちの戦うさまを見ていた。
「おお、マルメ将軍、いかがした。」
「はは、ただいま西の国境付近に多数の兵士が現れた由。」
「なんだと、イスパーニャか?」
「バルセルニャー公国のようであります。アンダルシャー公国の旗も見えるとか。」
「うぬぬぬ、小癪な奴ばらめ、どうしてくれよう。」
「は、総数三万人、現在国境付近でモンペリエ辺境伯が砦を固めております。」

「将軍、すぐに三万人を連れて国境に向かうべし。」
「は、かしこまりました。」

「このワイバーンも陽動作戦か…」
 国王陛下は、まっすぐ前を見てつぶやいた。
 崩れ落ちた王宮、もしその中に居たら、自分もぺしゃんこだっただろうことを思い、ぶるりと震えた。



 カズマの正面からずれて、王宮の南北から突っ込んできたワイバーンは、さらに王宮を破壊した。
しおりを挟む
感想 167

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ある国立学院内の生徒指導室にて

よもぎ
ファンタジー
とある王国にある国立学院、その指導室に呼び出しを受けた生徒が数人。男女それぞれの指導担当が「指導」するお話。 生徒指導の担当目線で話が進みます。

さよなら聖女様

やなぎ怜
ファンタジー
聖女さまは「かわいそうな死にかた」をしたので神様から「転生特典」を貰ったらしい。真偽のほどは定かではないものの、事実として聖女さまはだれからも愛される存在。私の幼馴染も、義弟も――婚約者も、みんな聖女さまを愛している。けれども私はどうしても聖女さまを愛せない。そんなわたしの本音を見透かしているのか、聖女さまは私にはとても冷淡だ。でもそんな聖女さまの態度をみんなは当たり前のものとして受け入れている。……ただひとり、聖騎士さまを除いて。 ※あっさり展開し、さくっと終わります。 ※他投稿サイトにも掲載。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

処理中です...