おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

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第十二話 レジオ開放 ②

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『カズマ、よくやりました。』
 夢の中で、榊原良子みたいな声が聞こえてきた。
「またあんたか。」
『はい。』
「さっきはヒーリングすまなかったな。」
『どういたしまして、たいしたことではありません。』
「すげえな、どうやったんだ?」
『それは、こうしてこうしてこうなるの。』
 ふ~ん、魔力の流れがちがうんだ。
「ほうほう、そうか~、ヒールの発展系とはいえ、そういう手があったのか。」
『わかりましたか?』
「はいはい、そんじゃまた。」

『いえいえ、どういたしまして…じゃありません!』
 またまた、ノリツッコミ。
 この神様、関西人かよ。
『カズマ、天界からの啓示がございます。主神オシリスさまがご光臨なさいます。』
 ぜったい、関西系の神様だな。
「ああ、あんたは神様じゃないのか?」
 俺はさっきからの疑問を投げてみた。
『私は、使徒ジェシカ、オシリスさまの使者です。』
「ほうほう、そいつはごくろうさんです。」
『いえいえ、とにかくオシリスさまの神託を拝聴なさい。』
 そう言って、赤い衣の使者が横にずれると、その場所に白い衣に羽の生えた女の人が現れた。
 翅は一〇枚もある。

「うわ!すっげえ巨乳!」
『ひっ!』
 神様は胸を隠した。
『てい!』
 ジェシカがあわてて走ってきて、おれにチョップをくれた。
『恥ずかしいことを大声で言わない!』
「ああ、はい。」

『カズマさん、私どもの手違いで、トラクターの横転事故に巻き込まれてしまい、申し訳ありませんでした。』
「いきなりそれ?」
『まずは原因からと思いまして。』
「そうですかー、ご丁寧にどうも。」
 神様の言うことにゃ、俺の寿命はまだ三〇年以上あったそうだ。
 それが、書類がシュレッダーに紛れ込んで、チャラにされたそうだ。
 しかも、担当区域の神様は、この神様じゃないらしい。
 セクト争いかよ!
 神様の世界も、容赦ねえなあ。

 結果として、俺の人生は白紙にされた。
 なんという怠慢経営!神様、労働基準局に申立てするぞ!

『そんなわけで、あなたの人生をやり直しできる環境を整えました。』
「ならなんでおれ、赤ん坊じゃないの?」
『あれこれ突っ込んだら、魂の総重量が重くなって、軽い赤ちゃんの中には納まらなかったので、死にかけの青年にしました。」
 この体は死にかけていたのか?
『ジェシカのリジェネレートで、命をつなぎ、わたくしの秘術で魂と寿命を込めました。』
 なんか、わかったようなわからんような話だ。
 こいつは、魔物の攻撃を受けて死にかけていた、十七歳の旅人の体だった。
 いいなあ若いって、体のどこも痛くないんだぜ。
 まあ、おばちゃんの体でなくてラッキーかも。

『あなたは前世で亡くなり、もう体も灰になっています。ですから、ここで新しい人生をやりなおすのです。」
「え~、メンドクサ!あの世で寝て暮らすって言う選択肢はないのか?」
『ありません。』
 ちくしょう、あっさり言いやがったよ。
『あなたには神の子としての使命を…』
「そういうのパス。」
『てい!』
 ジェシカが、また俺にチョップをくれた。
『黙って聞く!』
「へ~い。」
『ジェシカも静かにしてください。』
「はは!失礼しました。』

「ちっとも話が進まない。」
『そうですね、この世界はあなたの生きていて世界とは、かなり違います。』
「そりゃあ、魔法だもんな。」
『そうですね、この星は重力があなたの星より低いのです。』
「だから動いても疲れないのか。」
『このアフロディーテ大陸は、赤道付近にありますので、ほぼ春夏秋しかありません。その中でも夏が半分を閉めます。』
「なるほど、シャツとパンツだけで暮らせるのか。」
『てい!そのおっさん頭を何とかしなさい。』
 またもやジェシカのきついいっぱつ。
「いやでも、五十八歳とか思い出させるもんだから。」
 思考はおっさんだよなあ。
 定年まであと二年だし。

『全幅約一三九〇〇キロ、ほぼ赤道直下には、全長二三〇〇キロのダイアナ渓谷があって、南北を分断しています。
 東の果てに見える高い山はマート・モンス、八〇〇〇メートルの高さがあります。』
「えーと、地理の勉強はいいんですが、地図はないんですか?」
『ありますよ、マップと呼んでください。』
「マップ」
 あ、目の前にモニターが出た。
 ふうん、これがこの大陸なんだ。
「わかりました、この赤い点は?」
『それは、あなたの現在位置です。』
「うひゃ~、ナビ付きですか。」
『あなたのステータス画面に移行できます。また、特定の人物のステータスも覗けます。』
「魔物は?魔物の状態はわかりますか?」
『ええ、ただいま分析の魔術が付与されました。』
「すげえ、あれ?ジェシカ処…」
『てい!いらないことは見ない!』

『ジェシカ、乱暴にしないでください。』
『でもオシリスさま!』
『いいのです、見られて困るものでもないでしょう?』
「しかしですね。』
『カズマはずっとつらい人生を歩いてきました、献身的な行動も多くありました。ですから、この世界ではどうか自由に生きてください。』
 あ、ジェシカ無視?
「自由に?」
『そうです、このまま冒険者として暮らすもよし、商売をするもよし、何をしても自由です、あなたを縛るクビキはもうありませんよ。』
「しがらみできちゃったけどな。」
『そうですか?彼らは、いい仲間になれそうですね。』
「まあ、そうですね。いろいろ考えてみます。」

『それがいいですね、あなたはこの世界では十七歳。前途洋洋ですよ。』
「そうか~、妙に体が軽いと思ったんだよな。そのせいか…」
『あなたが先ほど抜いた剣は、聖王剣ランドル。もう五百年もあそこに立っていたのです。』
「そんなもんくれても、使い道がないです。」
『まあ、お守り代わりに持っていなさい。それは役に立ちます。それからこれは、オシリスとの契約の証です。』
 左手の、手の甲に焼けるような痛みが走る。
 すぐに引いたが、そこにはオシリスの紋章が刻まれていた。
「いてぇなあ。」


『この町の一キロほど北に小さな遺跡があります。そこがこの町に走る龍脈の起点です。そこに、ブルードラゴンが降り立ちました。』
「ドラゴンっすか?」
『そうです、今回のオークキングの暴走は、これが原因です。ブルードラゴンに、住処の森を追い出された上の暴走でした。』
 追い出されたっちゅうか、ドラゴンがそばに来たら、俺も逃げるわ。
「じゃあ、そのドラゴンをなんとかしないと、また暴走があるんですか?」
『そうですね、いずれは。』
「じゃあ、なんとかできないかやってみます。」
 つか、こんどの暴走で、森の魔物はみんな逃げたんじゃないのか?

『なにかあれば、ジェシカを使者に立てます。こちらからお願いすることもあるでしょう。』
「あ、もうひとつだけ。」
『なんです?』
「こっちでヨメもらってもいいんですか?」
『あなたは、もう、まったくの別人格です。何をするのもその国の法律の中で動けばいいでしょう。』
「わお、そうか~、ジェシカとの連絡方法は?」
『ジェシカ様、さまです!ここのコールボタンを押して、私がひまなら出ます。』
「忙しかったら?」
『出るまで待ちなさい。』
「わがままー!」
『てい!』
『では、また。』

 なんという夢だ、女神様は処…言うとおこられそうだからやめろ。
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