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第二十八話 王城にて ③
しおりを挟む宮廷なんてものは、お人よしじゃやっていけないのはわかっている。
しかしながら、この貴族たちの純朴そうな、お人よしそうな顔はどうなんだろう?
よくわかってはいないが、これが演技ならガラスの仮面もまっつぁおだな。
腹芸という訳でもないが、彼らは純粋にカズマのことに興味があるのだろう。
次に何をしてくれるのか、曲芸をする動物を期待するような眼をしている。
つまり、カズマは珍獣扱いなのではないか?
彼らは、利害が絡まない事象には、子供のように興味本位になるらしい。
これが、イシュタール王国人の気質なのか?
まだ昼前だが、これからお披露目のパーティになだれ込むらしい。
王国では久しぶりの、幣爵であるので、みな浮かれているようだ。
まあ、お祭り騒ぎがしたいだけと言う、平和な人たちなんだろう。
みなわくわくした雰囲気が伝わってくる。
俺とマゼランは、顔を見合わせて、肩をすくめた。
「レジオ男爵、トロールやオークキングはどうしたのだ?」
左の貴族の中から、大柄な無骨な男が声をかけてきた。
「マルメ子爵、王国軍の将軍のひとりでおじゃる。」
「なるほど。」
俺は一つうなずいて、子爵に向き直った。
子爵は、身長が百八十五センチほどの大柄な筋肉質で、グレーのような髪色をしている。
太い眉の下には、意志の強そうな大きな目が強い光を放っている。
俺は、腰の革袋を見せた。
「この皮袋に入れてございますよ。王都のギルドで出す予定でしたので。」
マルメ子爵は、目を輝かせた。
大きな体を前に押し出すようにして、口を開いた。
「ぜひ見てみたい、軍の教練場でだしてくれんか?」
マルメ将軍の目は、きらきらと輝いている。
よほど楽しみなのだろう。
「おお!それならワシも見たいぞ!なに、王宮の中庭で出してくれればよい。」
王様が、勢い込んで割って入ってきた。
玉座から身を乗り出して、期待に目を輝かせている。
「よろしいので?」
俺は、マゼラン伯爵に聞いた。
「よいのでおじゃる。陛下直々の願いじゃ、聞いてたも。」
マゼランは、なぜか誇らしげだ。
「わかった、案内をお願いする。」
そばに来た侍従に声をかける。
「こちらでございます。」
髪の白い侍従は、うやうやしくテラス側のドアを開けた。
なるほど、王宮にはいたるところに階段だの出入り口だのが散在するのだ。
石のテラスは、さしわたし二十メートルはありそうで、行きも十五メートルほどある。
端には石づくりのプランターがあって、色とりどりの花が飾られている。
大理石の手すりは白く、そこから宝塚の大階段のように、広い階段が中庭に向かって降りている。
テラスから中庭には、すぐに出られた。
石畳と噴水と花壇がある、サッカーコートほどの中庭に出た。
噴水が実に涼しげで、花壇には様々な花が咲き乱れている。
国王と貴族たちは、その後ろをついてくる。
ざわざわと話し声が聞こえてくる。
俺は、噴水の前の広場で、くるりと回ると一同を見回して、皮袋を出した。
「では、出します。」
するりと、凶悪な顔をした単眼のトロールが出てくる。
「「「「おおおお!」」」」
少し離して、オークキングと、オークロードを取り出す。
オークロードは控えめに五匹ほど。
「「「「うわあああああ」」」」
中庭は、とんでもない騒ぎになった。
貴族たちは右往左往している。
「死んでおりますので、あわてなくても大丈夫です。」
さすがに単眼のトロールは四メートル以上もあるし、その顔たるや異様に醜い。
気の弱いものだと、失神するか失禁する。
オークキングは三メートル強、その表情はトロールなんかメじゃねえ。
凶悪と言うものを表情にするとこうなるって見本みたいな顔をしている。
(人相の悪いバッファローマンみたいな感じ。)
オークロードは二メートル半。
こいつらも、キングに負けないひでぇツラしてやがる。
あ、気の弱い貴族が漏らした。
「どうです?将軍。」
俺が声をかけると、マルメ将軍は言葉に詰まった。
「こりゃあ…」
短い髪をかきあげるような仕草で、魔物を凝視する。
「さすがにマゼランの冒険者ギルドでは、引き取ってもらえなかったんですよ。」
俺が言うと、マルメ将軍は頷いた。
「それはそうだな、いやこれほどとは…疑って悪かった。」
「え?疑ってたんですか?」
「う・いやその。」
「将軍がそんなに正直では、困るんじゃないですか?」
「そうかのう?」
「ははは、マルメ将軍は先陣を切るのがおしごとですからね、いや失礼。」
若い男が顔を出した。
「あなたは?」
「私は、ジョルジュ将軍です。」
こりゃまた、絵に描いたような貴公子さまだ。
金髪のセミロング、ばさりと広げて、黒い軍服に似合ってる。
禁止銀糸の縫いとりもきらびやかに、白面の貴公子を飾っている。
年のころは二十四~五。
若くして将軍なのは、貴族だからなのかね?
「ウワサに高いレジオの英雄にお会いできて光栄ですね。」
丁寧に、礼儀正しく、気遣いのできる男のようだ。
「よしてくださいよ、たまたま運が良かっただけです。」
貴公子は、くすりと肩をすくめた。
「生き残れるのは、幸運だけではだめですよ。実力もないとね。」
いい男って言うのは、信用できないもんだがな。
なんかこいつの笑顔は信用できる。
「しかしこれは大きいですね、私も始めて見ますよ。」
「へえ、将軍はこんなものを狩ったことがあるんですか?」
「オークの集団なら部隊で少しは、でも、ここまで大きいものは討伐隊でも見たことはありません。」
俺は、豪快に笑って見せた。
「それは幸運です。こんなもの出会わないに越したことはない。」
敵さんも、にっこりと笑顔を見せる。
「確かに、こんなものに出会った日には、いくつ命があっても足りない。」
「じっさいもうだめかと、何度も思いました。」
「そうですか、これからよろしくお付き合いください。」
「こちらこそ。ジョルジュ将軍の領地はどちらですか?」
「私は、もっと北の方です。機会があれば、お立ち寄りください。」
「その節には、ぜひ。」
俺は、ジョルジュ将軍に手を差し出した。
がっちりつかまれたが、意外と掌は固くなかった。
「ではみなさま、食事の用意ができましたので、中にお入りください。」
白髭の侍従長が、中庭に呼びに来た。
「レジオ男爵さま、晩餐会に鎧は無粋でございます、着替えの部屋にご案内申します。」
「ああ、たのむ。」
俺は、後ろにティリスとアリスをくっつけて、中庭を後にした。
もちろん、オークやトロールは回収したさ。
宮廷の午後のパーティなんてものは、退屈なものでただ飲んで食ってしゃべるだけなんだ。
なにかイベントがあるわけでもない、音楽もない。
こんなもんなんかなあ?
パーティになると、華やかなドレスに身を包んだ、貴族の奥方が勢ぞろいして、宝石をきらきらさせながら歩く。
こうなると、旦那はソエモンだな。
「レジオ男爵、うちの家内です。」
シモン=ド=ジョルジュがカミさん連れてやってきた。
「これはジョルジュ伯爵夫人、お初にお目にかかります。カズマです。」
「どうぞよしなに。カーミラでございます。」
「何もわからぬ不調法ものです、よろしくご指導ください。」
俺は下手に出ておいた。
これでひとしきり時間がつぶれる。
「レジオ男爵、ウチのカミさんだ。」
「マルメ将軍は、気さくに声をかけてきた。
「まああなた、そんなぞんざいなことをおっしゃるものではありませんわ。」
嫁さんは、不満げに抗議している。
まあ、当然と言えば当然だが、大山とか桐野とかも、鹿鳴館ではこんな具合だったそうだよ。
「いえいえ、奥方、わたしにはこのようなお付き合いのほうがありがたいです。」
俺が笑うと、嫁さんは頭を下げる。
「さようですか?わたくしは、マリーアンと申します。」
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「将軍は、仕事一筋で来たので、結婚が遅くてな。」
「シモン、それを言うなよ。」
「あはは、そろそろお年寄りが娘を紹介に来るぞ。レジオ男爵、覚悟しておきたまえ。」
ジョルジュ将軍は、グラスを傾けた。
「私たちがそばについておりますので、そういうことはしにくいと思います。」
ティリスは、白いローブを広げて、くるりと回った。
「シスター=ティリス、レジオ男爵ほどになると、妻は何人いてもいいのですよ。」
「そういうものでしょうか?男爵はまだ十七歳です。」
くすぐったいな。
(心は五十八歳~)
「カズマさまは、レジオの復興に時間がかかりますので、そう言うことはその後がよろしかろうと存じます。」
アリスティアも、俺の腕を取る。
「シスター=アリスティアのおっしゃる通りです。」
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