おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

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第四〇話 間島恵理子

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「きゃ~!」
 王都の宿に戻って、部屋に入ったとたんに間島恵理子は嬌声を挙げた。
「ここ!お風呂でしょう!使ってもいい?いいよね!アカンなんて言わへんよね!」
 まったく、日本人の風呂好きときたら…
 俺は、声の大きさに辟易とした。
 もっと部屋の豪華さとか、調度の優雅さとかに驚けよ。
「それは言わないが、ここは上等な宿なんだ、そんな大声を出すな。」
 恵理子は、直立して頭を下げた。
「ははい、えへへ・しっつれいしました~。」
「ほれ、入ってこい。」

 俺は、タオルを出して恵理子に渡した。
「アリス、一緒に入ってやってくれ。」
「かしこまりました、お屋形さま。」
 二人は、浴室に消えた。
 アリスは恵理子の服を脱がす。

「すみません、アリスさん。」
 あまり他人から世話を受けない日本人は、恐縮してしまう。
 やせて凹凸の少ない恵理子の体が出てくる。
 飛び出した骨の跡などは、見て取れない。
「いえ、お気になさらないで、お屋形さまのお言いつけですから。」
 恵理子の簡素な服は、よけられて白い下着が用意されている。
 恵理子の服をたたんで、アリスも自分のローブを脱いだ。

「うわ!デカ!」

 恵理子は、アリスの胸をガン見した。
 真っ白なマスクメロンのような、立派なものが目の前にあった。
 とっさに胸を隠すアリス。
「こんな立派なもの持ってたら、堂々とできるわ~。」
 恵理子は、自分のちっぱいを見下ろしてため息をついている。
 ちっぱいというか、大草原の小さな家と言うか…

「ほっとけ!」

 アリスは、顔を赤くして恵理子にこたえる。
「そ、そんなことは…」
 アリスは、恵理子のせなかを押して、浴室に入った。
 浴室には木の大きな桶に、もくもくと湯気を立てるお湯がなみなみと注がれている。
「ああ~!ここにきてからはや十数日、どんなにお風呂が恋しかったか。」
「そうなのですか?」
「ええ、日本人にはお風呂が必須!特に、お湯につかることができないのはNGですよ!」
「お屋形さまも、そのようにおっしゃいましたが、この国には湯船につかることができるのは、貴族や裕福な商人だけなのですよ。」

「そうなんだ~、で、カズマさんってお屋形さまって呼ばれているの?」
「ええ、カズマさまは、男爵様で、レジオという領地を持っています。そして、神の使途でもあります。」
「うっひゃ~!そんなチートなんだ。」
「チート?」
「いやいや、男爵さまかあ、領地って広いの?」
「それはまあ、男爵領ですから、かなり広いですよ。」
「ふうん、うわ~、きれいなお風呂だ。」
「エリコさま、先にお体を洗いましょうね。」
「あ、はい。すみません。」
 アリスは、隅に置いてあるザルから、木の実を取り出した。」
「それ、なんですか?」
「ムジェロの実です、これをつけて洗うと、さっぱりしますよ。」
 アリスは、すりばちでムジェロの実をすりつぶして、恵理子の背中に広げた。
「へえ~、石鹸の代わりなんだ。」
 アリスは、丁寧に恵理子の体を洗い、髪にも湯をかけた。」

「うう~、これこれ~、これがないと日本人はダメだ~。」

「ニホンジン?」
「カズマさんや私のふるさと、日本って言うの。」
「そうなんですか、お屋形さまはなかなかそう言う話をしてくださらないので。」
「ふうん、不思議だね。そうそう、なんでカズマは西洋人の顔なんだろう?」
「さてそれは…」
「ふつうなら、黒髪黒目の私みたいな感じなんだけどね。」
「そうなんですか。」
 アリスは、首を傾げた。
「ごめんなさいね、アリスさん。あたしどろどろだったのに、きれいにしてもらって。」
 同姓ながら、見られてうれしいようなモノではない。
 つか、現代の女子高生には無理ゲーだよね。

「さきほどのことですか?お気になさらないでと申し上げても、無理なことですが、病気やけがの人のお世話は慣れております。」
「ふうん、教会の神官さまって、そんなこともするの?」
「治癒魔法の使い手のところには、いろいろな人がやってきますから。」

「そうなんだ、ああ~きもちいいわ~。」
 恵理子は、頭をこしこししてもらって、恍惚とした声を出した。
「よかったですね、お屋形さまに拾っていただけて。」
「もうこれは運命だね、あたしどうすれば、恩が返せるだろう?」
「お屋形さまは、恩を返せなどとは申しませんよ。」
「それはちがう、というか、感覚の違いだね。あたしたちは受けた恩は返せ、受けた仇は倍返しって習った。」
 習ってねーよ!

 しかし、恵理子はこんな贅沢な扱いを受けているのに、不満が一つあった。
「なんか、さっぱりしない…」
「なにかおっしゃいました?」
「ああいえ、これは男爵さまに聞いてみることにします。」
「左様ですか?」
「そう言えば、アリスさんは髪とか洗わなくていいんですか?」
「ええはい、まだお館さまのお世話がございますので。」
 アリスは、ほほを染めて小さく言った。
「お世話…ああ、お世話ね、余計な事を聞きました~。」

 察しのいいのにもこまったものだと、アリスは小さくなった。

 さっぱりした顔で浴室を出た恵理子は、アリスの世話で新しい洋服に着替えてきた。
「こんなにしてもらってすんまへん。」
 恵理子は、俺にもしきりに礼を言う。
「なに、たいしたことじゃない。それより、大変だったな。」
 俺も、安心させるように、笑ってみせた。
「いやもう、ぜったい死んだと思いましたわ~、あの状態で生きていたのが不思議ですわ~。」
「その口からすると、あんたは関西人か、しかも梅田周辺の。」
「なんでわかりますのん?」
「芸人でもないのに、コテコテすぎる。」
「うっひゃ~、こりゃかんにん。」
「まあいい、頬骨骨折、鼻骨骨折、肋骨も折れて肺に刺さってた、脾臓破裂、肝臓変形、左手骨折、指五本骨折、左足骨折、その他打撲。ほんとうに、よく生きてたな。」
「そ、そんなにひどかったんですか?」

「ああ、これが請求書だ。」

「へ?」
 恵理子は、渡された書類を見て、首をぼきゅっと折った。
「お前の奴隷としての買い上げが、金貨五枚。エクストラヒールの治療代が、金貨一〇枚。洋服などの装備が金貨一枚、しめて、金貨一六枚だ。」
「あの~、それってどういう…」
「働いて返してくれればいい、俺に借りを作るのはいやだろう?」

「恩を返せなんて言わないんやなかったんかい!」
 恵理子は頭を抱えた。
「お、お屋形さま!?」
 アリスがあわてて部屋に入ってきた。
 俺は、それを目で制する。
「それって、どのくらいの値段なんですか?」
「日本円にすると、金貨一枚で三十万円くらいだな。」
「しぇ!しぇええええええ!よんひゃくはちじゅうまんえん!」
「お、計算が速いな、さすが浪速っ子。」
「ちょちょちょっとまちぃなお兄さん、ウチ一文無しやねんよ!そんなお金どうやって払えばええねん!」
「だから、働いて返せって言ってるじゃないか、さいわい俺の屋敷では、メイドが不足している、いい機会だ働いてもらおう。」
「うえ~~~~、しょうがないか…」
 恵理子はうなだれて納得しようとした。
「ちなみに、逃げても奴隷紋が入っているから、強制力が働いて引き戻されるぞ。」

「読み込み済みですか~?」
「やりそうなことだ、ちなみにお前の特技は?」
「歌と踊り。」
「なんだよ、舞妓ちゃんでもやってたのか?」
「古!歌と踊りと言えば、N●Bや!」
「へえ、お前メンバーなのか?」
「へえ、研究生ですけど、一時はアン(ダー)ガールズのセンターもやってました。」
「じゃんかじゃんかじゃんかってか?」
「なんでやねん!」
 どこのネタだ!
「できるのか?」
 やおら立ち上がり、ステップを踏む。
「君のことがすきやから、僕はいつもそばにいてる。」

 おお!なるほど定番だ。

「すげえじゃん、よし、お前はウチの芸能部長にしよう、ちょうど来月末に国王の御幸がある、その時の余興に出そう。」

「ええ!ウチ一人で?」
「メンバーは、ウチの孤児院から選べ、女子ーズは全部で何人だアリス。」
「ええ、二二人ですが…」
「その中から、十二歳以上の子供で行こう。」
「なにをする気ですねん?」
「娯楽の少ない国だからな、吟遊詩人くらいしかいないんだ、お前の踊りはセンセーションを巻き起こすぞ。」
「そうなん?」
「リュートとフルートを集めろ、竪琴や太鼓もいるな、よし指導は恵理子がやれ。」
「ウチがー?」
「お前しかわからん、なに口伝えでもなんとかできる、みんな初めてみる芸能だから、わからんしな。」
「そんなええ加減な。」
「おれ、ロック系は苦手だし、ビート刻める訳じゃないもん。」
「旦那はん、さては京都系フォークやね!」
「ばれたか。」

「わかりました、ウチのできることなら協力さしてもらいます。」
「よし、その具合によっては、請求書を減額してやる。」
「ホンマですか?」
「ホンマや。」
「よかった~、芸は身を助けるってことですね。」
「そやそや、まあこれでレジオの復興にももう一つ目玉ができそうだな。」
「よかったですね、お館さま。」
「あの、それでですね、」
 恵理子は言いにくそうに体をよじった。
「なんだ?」
「石鹸ってものはこの国にはないんでしょうか?」
「石鹸か、俺も探したがなかった。」

「そうですか、作ってもええんやけど…」
「苛性ソーダがない。」
「やっぱり…」
「パームツリーとかあるから、ヤシの実オイルなんかは手に入るんだよ、でも苛性ソーダがなあ。」
「ヒノキの灰とかでもできそうですが。」
「それだとムラができて、あんまりよくないんだよな。」
「作ってはみはったんですね。」
「そう、なかなか…まてよ?苛性ソーダ、水酸化ナトリウムだな…」
「へえ、そうです。」
「じゃあ、土中にも存在する成分だ、つまり土魔法の精製で分離すれば、製品が手に入るんじゃないのか?」
「どういうことですか?」
「土を分解して、必要な成分だけを抜き出す。これが精製だ。」
「はあ…」

 俺は、宿の裏庭に出て、土に手をついた。
「つまり…Na=OH…ナトリウム…H…O…」
 ぶつぶつと呟いていると、土の成分が大きくなって見えてきた。
「こいつだ。」
 見つけた!これを厳選して、抽出すると…
 土の表面に白い豆粒がぽこぽこと湧き出してきた。
「できた、水酸化ナトリウム。」
 俺は、両手に乗せて恵理子に差し出して見せた。
「な、なんちゅう規格外のことをしてのける人や!」
「土魔法の正しい使い方だけど、この国の科学レベルでは理解できんのだ。」
「はあ、確かに。」
「わたくしには、なにをどうしたのかさっぱりわかりません。」
 アリスは、白い結晶を見て、くびをぽきゅっと折った。
「とりあえず、石鹸作りは領地に帰ってからだ、明日出発するぞ。」
「「はい!」」



石鹸の材料
オリーブオイル     200g
ココナッツオイル   150g
パームオイル       150g
苛性ソーダ          65g
精製水       175g
精油       約10ml

精製水に苛性ソーダを入れ、完全に溶かす。
すぐに刺激臭が発生するのでよく換気する。
この時の温度は60℃~80℃になる。
苛性ソーダが完全に溶けたら冷水の入ったボウルに入れ、40℃くらいになるまでさます。
オイルの入ったボウルを湯煎にかけ温度を40℃まで上げます。
<4>と<6>が同じくらいの温度になったら、オイルの入ったボウルに少量づつ苛性ソーダを加えながら、泡立器で素早くかき混ぜる。
苛性ソーダを全部入れ、さらに3~5分よく混ぜる。
最初の20~30分は休まずによく混ぜ続ける。ときどき手を休めながらかき混ぜます。途中で温度が下がってしまったら湯煎にかけ40℃前後にを保ちます。
生地がもったりとして全体に白っぽくなるまでよく混ぜます。
オイルと水溶液が分離しなくなり、泡立て器を持ち上げ垂れた液で線がつくようになる(トレース)
*トレースが出るまでの時間は、オイルの種類のより約15分~20分かかる場合がある。
精油やオプションを加える場合は、ゆるめのトレースにし、ここで混ぜる。
ゴムべらを使って残さず石鹸生地を型に流し入れる。
型ごとトントン!と生地には入り込んだ空気を抜きながら馴染ませます。
型ごと毛布やタオル、寒いときには保温シートや発砲スチロールの中に入れて24時間保温する。
お好みの大きさにカットします。日の当たらない風通しのよい乾燥した場所で、4~6週間乾燥させて出来上がり。
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