おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

文字の大きさ
47 / 115

第四十七話 オーケー峡谷の戦い -1-

しおりを挟む

 朱雀大路を抜けて東門を出ると、手つかずの草原が広がる。
 こちらは、まだまだ農業改革の手が付いていないので、森までの五キロほどは、街道の周り以外は背の丈ほどの草原が延々とつながっている。
 どこにウサギやイノシシが潜んでいるか、わからないくらいで危ないな。
 いずれ、こちらにも獣よけの柵を張り巡らせなければならない。
 さっそくゴルテスに、縄張りの指示を出そう。
 もう少し、森も切り開いた方がいいようだ。
 そうでないと木々に隠れて、魔物が近寄ってくる。
「まだ魔力もあるんだから、少し柵でも作っておくか。」
 俺は、街道沿いに獣よけの柵を、延々と作りながら馬を進める。
「高さ一メートルくらいなら、人の邪魔にもなるまい。」
 あまり高くないので、一気に一キロくらいはすっ飛んでいく。
 街道から二~三メートル離れたところに、一気にシシガキができると、安心だね。

 ポンヌ山塊を起点とするポンヌ川と、それに沿うように続く街道がそこにある。
 もちろん、街道とポンヌ川の間には、木立が連なっていて、街道を浮き上がらせている。
 馬を出すと、使者の走った跡なのか、微妙に埃が細かい。
 どうしても着いてくると言うラルを引きはがして、レジオの街に置き去りにした。
 いくらなんでも、ラルを守りながらでは偵察はできない。
 五百人の盗賊の真ん中に、突っ込むことにもなりかねん。
 まして、どこに敵が潜んでいるかもわからないのに。
 俺一人なら、なんとか逃げ出すことも可能だからな。

 そもそも、領主本人が偵察て、それ自体がおかしいんだが、カズマにはそんな意識はない。
 自分がいちばん動けるからやっているに過ぎない。
  街道は、草原から別れて、少し登りの傾斜がかかってきた。
 山と山が折り重なるようにポンヌ川に向かってせり出して来て、徐々に場所が狭まって来る。
「なるほど、だんだん狭くなっているな。これがオーケー峡谷か。」
 パッシブソナーを使って、両側の尾根を探ると、なるほど一つの尾根に十人ほどの物見が並んでいる。
 が、まだまだ遠いせいか、こちらに気が付いた様子ではないな。
「つか、だいたい寝てやがる。お前ら偵察じゃないのかよ。」
 カズマは、慎重に馬を進めて、最初の尾根に向かう。
 ここから街道は、ぐっと狭くなり、川幅もどんどん狭くなってくる。
 川と言うより、谷川のようすが強くなり、大きな岩が点在してその間を急流が下るようになる。
 こりゃ涼しくっていい感じだ。
 魚もよさげなやつが泳いでいる。

 だが、そんな清涼な様子を乱すように、スえたような垢じみたにおいが漂ってくる。
「いやだなあ、何年風呂に入ってないんだろう?」
 馬鹿じゃないのか?偵察部隊が、においでその存在を敵方に知られるなんてさ。
 風上から、五人ほどの気配が伝わってくる。
「どうするかな、やり過ごしてもいいんだが、情報が欲しいな。」
 馬に水を飲ませて、すこし轡を持って街道を歩くと、すぐそばまで汗臭いにおいが聞こえてくる。
「くっさ!まったく!タヌキの死骸の方がマシなんじゃないのか、このにおいは!」
 俺は、だまって草むらに小石を投げ込んでやった。
「いてえ!」
 熊のように髭の生えた、やせた体が起き上がる。
 着ているものは、もはや原型が何色だったかもわからないくらい垢じみている。
「おいおい、ここは普通がまんするところじゃないのか?」
 カズマは、あきれてもらしたもんだが、相手は聞いていないようだ。
「ちくしょう!バレた!やるぞ。」
「「「おう」」」

 出て来た出て来た、草むらからはオデコに石をくらったらしい男を先頭に、曲がった蛮刀を持った五人が現れた。
 みな一様に垢じみて、汚れた衣装に身を包み、髭も髪もばさばさだ。
「くっせえ!五人もかたまると、家畜よりくせえな。」
「ほっとけ!」
「で?おアニイさんたちは、こんなところで何をしているのかな?」
「おいおい、俺たちがここで魚取りでもしているように見えるのか?」
「いや、それ以上に、こんなくっさいやつらは、難民にもいなかったな。」
「くせぇくせぇと連発しやがって。」
「いや、本人たちは気がつかんのか?むっちゃくせぇぞ、鼻が曲がるというか、晩御飯喰えなくなる臭さだぜ。」
「そんな臭うかな?」
 右の一人が、自分の袖を鼻の前に持ってきた。
「わかんねえな?」

「だ~、それでよく盗賊なんかやってるな!」

「お、俺たちを盗賊と見抜くとは!こいつ、ただもんじゃないぞ。」
「いや、だれでもわかるんじゃねぇか?」
 バカじゃね~の?
 カズマはあきれた。 
 ちょうどここは、向こうの尾根からは死角になっている。
 大声出さなきゃ、そうそう見つかることもあるまい。
「で?その盗賊のおアニイさんが、俺に何の用だ?」
「余裕じゃねぇか、身ぐるみ脱いで置いて行け、っつってんだよ。」
「お~こえ~こえ~、本物の追剥だよ。」
「ちっとも怖そうに聞こえねぇンだよ!」
「怖くねぇもん。お前ら、身寄りはいるのか?」
「いたら、こんな商売してねぇよ。」
「そりゃよかった、お弔いの手間がねえ。」
「な、なに物騒なこと言ってやがんだ!」

「あのなあ、こう言う時、イキガって突っかかって来る奴が、一番に切り殺されるって知らないのか?」
 セオリーでしょ。
「しらねぇな。」
 ちょっと頭半分背の高い奴が、蛮刀を振りまわして切りかかってきた。
「なんだよ、お約束だな。お前が頭目か?」
「そうだよ!」
「じゃあ、お前は生かしてやる。」
 カズマは、六尺棒を振りまわして、頭目のコメカミに打ちこんでやった。
 やだなあ、なんか汁でてるみたいだし…あとで洗っとこう。
 がくりと、糸の切れた人形みたいに、その場で膝をつく。
 あとの残った連中は、腰のショートソードを抜いて、首筋をなでてやる。
 赤い花が散ると、四人はくたりとその場に倒れた。
「ナムナム、俺もまともな死に方はしねぇな。」
 倒れた四人は、土魔法で土中深く埋める。
 アシがつくとまずいんだよ。

 この世界では、人の命は紙より軽い。
 だから、人口だって増えないんだろうな。
 カズマだって、それに慣れたわけじゃない、だが、カズマの守るべきはカズマの領民であって、こいつら盗賊じゃないんだ。
 そこのところをはきちがえて、人道がどうたら、人権がどうたら、なめんじゃねえ!
 カズマの手は、そこまで広くねえんだよ!
 だから、選ぶ。
 トリアージする。
 生かすか殺すかは、領主であるカズマが選ぶ。
 そうでないと、死ななくていい命まで死ぬことになると、しっかり学んださ。
 だから、それから漏れたやつは、恨んだってかまわないさ。
 主に、ティリスやアリス、チコやラルを守るために、おれは頑張るんだ。

 カシラは、くせえので、谷川に蹴り込む。
 くせえから、レビテーションで持ち上げて、深そうな所に運んだ。
 くせえくせえと連発するのは、それほどくせえからだ。
 なんつの?人間が臭くなると、ドブ川の凝縮したような匂いになる。
 東京駅から上野にかけて、そんな匂いが充満しているが、本人たちは気がつかないんだろうな。
 田舎もんには、考えられない環境なんだぜ。
 くせーのなんの。
 こんなところで作った料理がうまいわけがない。
 本当に実感するわ。


「ぶわー!」


 たまらず水から顔を出すが、かまわず足で押し込んで、汚れを落とす。
 川の水が、なんかいやな色に変わっている。
 下流で水飲む人、スマン!
 いや、やっぱだめだ!
 カズマは慌てて水を凍らせて、草地の中に放り出した。
「あぶねえ、こんなこぎたねえもの、下流に流せねえよ!」
 そりゃ、そのとおりだよ!
「げほ!げほ!ぐええええ。」
 たっぷり水を飲んだところで、レビテーションで引きずりだすと、動けなくなってうつぶせで水を吐いている。
 がぼがぼ!
 まあ、半分溺れさせているのは、抵抗させないためなんだが。
「どうだ、気分は。」
「ぐへええ、いいわきゃねぇ。」
「そりゃよかった、少し教えてくれよ。」

 どこがいいんだか?

「しゃべることなんかねぇよ!」
 カシラは、口からだらだらと水を垂らして文句を言う。
「まあ、そう言うな。」
 カズマは、無詠唱のクリーンの魔法を発動して、カシラの体を清潔にする。
 水洗いくらいじゃ、この垢はとれないんだよ!
 あんのじょう、クリーンのくせに、ごっそり魔力を引きずり出しやがって、なんとか人並みにきれいになった。
 高級レストランに行っても、嫌な顔はされないくらい清潔だ。
 ついでにドライヤーの魔法を使って、ぬれた服も乾かすと、すっかりまともになった。
 このシャツ、チェック柄だったんだな。

「おお!なんか、気分がいい!」
「当たり前だ、生活魔法のくせに多量の魔力を喰いやがって。どんだけきたねぇンだよ!」
「へへ、山ん中で暮らしてると、気にならなくなるんだよ。」
「ちっ!まあいい、砦はどこにあるんだよ。」
「そんなこと言うと思うか?」
「思うさ、お前が言わなきゃ殺して、次を探すだけだもん。」
「殺してって…」
 頭目は、カズマを見上げた。
「現に、お前の部下はどこにいる?」
「へ?逃げたんじゃないのかよ。」
「逃がすなんて、そんなアホなことするわけないだろ、当然地面の下だよ。」
「じ、地面の下?」
「いちいち勘のニブいやつだな、お前の前に草のねえところがあんだろ、そこがやつらの墓場だ。苦しくねえように、一刀で首切ってやった。」

「げ!」
 頭目は、さtっと青ざめた。


「土魔法でけっこう深くうめちゃったからな、獣に喰われることはあるまい。で?お前はしゃべるのか、しゃべらねえのか?」
 めんどくさそうに聞いてみる。
「は・は・は・はな…」
「うっとおしい、もういいわ。」
 カズマは、腰の剣を抜いた。
「次のやつをぶんなぐる。お前は死ね。」
「はは、話すから、全部言うから!」
 カシラは手を前に出しながら後じさる。
 もうちょっと攻めると、漏らすなコイツ。

「最初から素直にそう言やぁいいのによ、んで?どこにあんだ?」
「あの三つ目の尾根の途中にある、黒い糸杉の木立の中だ。」
「ふうん、砦の人数は?」
「たぶん、一〇〇人くらいだ、ほかは尾根ごとに小さな砦を作って、二〇人ぐらいずついる。」
「ほう、なかなか頭の回るやつがいるな。道は?」
「こっちからぐるりと馬車が走る林道を作った。」
 なかなか計画的に砦を構えたな。
「お前たちは、どうしてるんだ。」
「尾根に穴掘って、そこを根城に見張りをしてる。」
「見張りをして、どうするんだ。」
「そりゃまあ、人数の少なそうな商隊は、身グルミはいで皆殺し…」

「ふうん、まあそうだわな。軍隊はどうしてる?」
「そんなもん、こっちの身がアブねえじゃん、素通しだよ。」
「そりゃそうだ、いっぱしの兵隊なら、盗賊の五人くれえへでもねえやな。」
「げしょ?」
「そういう指示も、大砦から出てるんだな。」
「さいです。」
「そうか、お前はもとは百姓か?商人か?」
「百姓でげす。」
「そうか、お前、何人ぐらい話ができる?」
「?」
「アタマ悪そうだもんなあ、あのな、お前は生かしてやろうかと、聞いているんだ。」
 頭目はかくかくと頭を振った。
「だから、仲間を連れて俺のところへ投降しろ、命だけは助けてやる。」

「そのあとは?」
「まあ、農業奴隷として働くだな、五年もしたら開放してやるさ。」
「ほ、ほんとうに?百姓できるのか!」
「当たり前だ、俺は嘘は言わねえよ。お前の手下たちには悪いことしたが、ここで騒がれてもこまるからな。」
 カシラは、手下の埋まっている当たりに目を向けた。
「で?どうする、こんな食うや食わずの、じめじめしたほら穴で、これからも暮らすのか?」
「…」
「砦のやつらは、いいもの喰って、乾いた布団で寝て、女抱いてるんじゃねえのか?」
「…」
「決心しろ、物見のやつらを説得して、盗賊なんてやめさせろ。そして、レジオで百姓になれ。」
「ダンナ、本当に百姓になれるんか?」
「ああ、約束する。好い畑だぞ、俺が作った畑は。」
「…」

 カシラは、真剣な目で地面を見つめていた。
「ダンナ、約束してくれるか、俺たちに百姓を続けさせてくれると。」
「ああ、もちろんだ。俺はカズマ。」
「ドレンだ。」
「じゃあ、ドレン、後は任せた。俺は、下流の街道で待つことにする。」
「へい、今夜にもみんなを連れて来やす。」
「ああ、メシくらい喰わせてやるさ。」
 俺は、ドレンがどの程度説得できるかは、あまり考えていなかった。
 ただ、こんな不衛生な状態で、山の中に潜伏すると言う、非人道的な状態がいやだっただけだ。
 俺の居た日本であれば、どんな山奥であっても水道が配備され、水洗トイレが設置されていた。
 それが当然と思っていたが、どっこいそれは日本国に限られていたのだ。
 中国の生水は飲めない!
 知ってるか?スゥエーデンにはホット便座がない!
 パリにも、ウオシュレットはない!

 ぢ主であった前の体は、ウオシュレットのない環境では生きていけなかったんだ。
 生活魔法の、クリーンと言うものは、ぢ主に対してむっちゃ優しいと言う事実だけでも、魔法が使えてよかったと本心から思う。
 この体は、痔じゃないけどね。

 さて、いったん街道にもどったカズマは、街道沿いに簡単な家を作った。
 幅が一〇メートル、行きが二〇メートルくらいの、簡単な体育館みたいなやつだ。
 家の隅には、簡易なカマドなども作る。まあ、合宿所のような感じだ。
 普通にすれば、五〇人くらい平気で寝ることができる。
 全部土でできているので、あまり飾り気はないが、まあ雨露はしのげるさ。
 硬化もかかっているので、このままで五〇年は使える。
 生木をレーザーで刻む。
 ホーミングレーザーの応用で、まっすぐなレーザーで木を切ると、きれいな板になるんだよ。
 みんなこんな使い方を知らなかったらしい。
 アホやね。
 便利なのに…魔力が続かない?ああそう、二本も刻むと魔力がなくなるのか…

 まあいい、そうして刻んだ板を組み合わせて、出入り口も作ったし、窓も鎧戸でかこった。
 馬を木の下につないでいたので、川で水を飲ませた。
 これがあるから、あのまま汚ねえ水を流すわけにはいかないんだよ。
 一休みしてから、外に五メートル四方の水槽を作る。
 やっぱ、人間風呂がないとアカンって。
 これも硬化がかかっているので、丈夫だよ。
 水魔法で川の水を塊にして、レビテーションで運び込む。
 こいつに低温のファイヤーボールを沈めると、ぼこぼこと泡を出しながらお湯になる。
「どれどれ…」
 湯は少し熱めだが、まあいい感じになった。
 どうせ説得には時間がかかるし、ここは一番待ちの一手だ。

 カズマは、のんびりと風呂につかると、ポンヌ山塊を見はらした。
 なるほど、ここはまだ俺の領地のうちか、だとしたら将来はこの街道沿いに兵隊の駐屯も考えなきゃな。
 ちょうど、盗賊の砦もあるし、いい感じで警備体制がひけそうだ。

 いまカズマがいるのは、ポンヌ川の川岸に近い街道沿いだが、レジオの町にはもう一本の川が流れている。
 それが、主流のソンヌ川で、これの源流はポンヌ山塊のかなり南に下った方向から流れ出ている。
 全長一三〇〇メートルもあるレーヌ川には、比べるべくもないがソンヌ川も一二〇~一三〇キロの長さがある。
 レーヌ川に交わるころには、けっこうな大河になっている。
 この川の利用方法もまだまだ無限にあると思うし、時間さえかければ粉ひきの水車や、材木を製材する水車など、無限に開発できる。
 問題は技術者なんだ、まあ、人力さえあればいいってものでもないしな。
 炎天下で風呂なんか入っていると、のぼせてしまいそうになるよ。
「そろそろでるか…おい。」
「にゃ!みつかったにゃ!」
「そりゃ見つかるって、堂々と人の服をあさってりゃさ。」
「それもそうにゃ、にゃはははは。」
「で?ネコさんは、俺の財布を盗んでどうするんだ?」
「とりあえず、逃げるにゃ!」

 ネコ耳の泥棒は、さっと体をひるがえして、街道を走りだす。
「ふん、なかなか素早いな…」
 目の前には水槍の材料がたくさんある。
「アイスランサー。」
 ぼそりとつぶやくと、直径二センチくらいの槍が、五本できて、ひゅんっと飛んで行った。
「お~い、あぶないぞー。」
 あんま危険に聞こえないような声で、警告してみた。
「にゃにゃ!にゃああああああああ!」
 どすどすどす!
 ネコ娘の服を貫いて、地面に縫い付ける。
「にゃにゃ!動けない!」
「アホ、人を見て追剥しろよ。」

「にゃー!」
「それにな、その革袋は魔法がかかっているから、他人には開けられないんだぞ。」
 カズマは、ゆっくり近寄って、ネコ娘のそばに落ちている革袋を拾った。
「そ、それはいいけどにゃ!なんか着たらどうなのにゃ!」
「あ?ネコ相手に恥ずかしいもねえだろ。」
「たとえネコでも、お年頃にゃ!」
「へえ~、そうなのか?どれどれ、ぜんぜんぺったんこじゃん。これならチコの方がまだあるわ。」
「にゃにゃ!にゃんちゅうことを言うだべ!しかも、触ってるし!」
「いいか?レジオじゃあ盗人は、指一本切り落としの上、奴隷にうっぱらうのが御定法ってもんだ。おまいさんもその流れだな。」
「み!みすいだにゃ!」
「アホ、盗って逃げたじゃねえか、それ、すでに盗っ人。」
「うにゃ~!」
「しかも、指を切り落とすのは、すげえ錆びた包丁で、ぜんぜん切れないんだぜ、それでゴリゴリ切り落とすまでに、すっげえ時間がかかる。」
 ネコ娘は顔色を真っ青にして、カズマの顔を見つめている。
「どの指がいい?ゆっくり切ってくれるぜ。」

「うにゃああ~~ん!かんべんしてにゃ!あやまるにゃ!」
「謝ったからって、許されるもんじゃないな。おまえ、常習犯だろ。」
「うう!ネコ人間なんか、ぜんぜん仕事ももらえないにゃ。盗っ人でもしないと生きていけないにゃ。」
「そりゃあ災難だったな。」
「じゃあ!ゆるしてくれるのにゃ?」
「それとこれとは話が違う、おいネコ、お前はネコだから風呂が嫌いだろ。」
「うう、風呂はきらいにゃ。」
「じゃあ、罰のうちだ風呂に入れ。」
「うにゃー!嫌いだってゆったにゃ!」
「だから罰だ、風呂に入れって言ってるんだよ。」
「うにゃ~!」
 ネコは、レビテーションで持ち上げて、頭から風呂に突っ込んだ。

「げぼぁ!うにゃ!うにゃ!」
「ばか、溺れるほど深くはないわ。」
「うにょ?なんだ、浅いのにゃ。」
「ちっ!きったねえ服だな、おい、脱いで洗え。」
「にゃ!えっちだにゃ!」
「アホ、風呂は裸で入るもんだ、だいたいそんなくっせえ状態で、どうせえっちゅうんじゃ。」
「うう、ひどい言い草にゃ。」
「いいから、服脱いで洗え!自分の体もちゃんと洗え、そしたら指切るの考えてやる。」
「ほ、ほんとにゃ!洗う洗う!」
 ネコ娘は、あわてて着ているぼろを脱いで、ごしごし洗濯を始めた。ついでに、自分の体もそれで擦ると、大きな風呂が真っ黒になる。」
「うっわ!お前もたいがいひでえ環境だな。」
 カズマは、服を着こんでネコ娘を眺めた。

「年はいくつだ。」
「しらにゃいにゃ。」
「そうか、みたところ十二~三ってところか、いつも一人なのか?」
「仲間はみんな殺されたり、売られたりしたにゃ、ウチは素早かったから捕まらなかったにゃ。」
「そうか、おい出てきてこれで体を拭け。」
 カズマは、革袋からタオルを取り出して、ネコ娘に渡した。
 ネコ娘は、背中に少し虎縞の毛が生えている以外は、ほとんど人間と変わらない。
 アバラの下あたりに、副乳の乳首がある程度だ。
 カズマは、頭からクリーンの魔法をかけて、ネコ娘をきれいにした。
 ドレンよりゃなんぼかマシだ。
 魔力も引っ張られない。
「うにゃ~、服がぼろぼろになったにゃ。」
 さすがにぼろきれだか、雑巾だかわからんようなもんだったからな。

「ん~と、これがドロワーズで、これがシュミーズで、これがワンピースだ、着ろ。」
「にゃ!なんでおんなの下着なんか持ってるにゃ!さてはヘンタイ…」
「馬鹿言ってないで着ろ。これは、ウチのメイドの土産だ。」
「め!冥途の土産って、ウチ死ぬのにゃ?」
「ちゃうわ!まあいい、ほら、こうしてはいて、これは上から顔を出す。ほんでこの服は背中でボタンを留める。」

 チコに買って来た新しい服一式は、体の大きさも似通っていたので、すんなり着られたようだ。
「うわ~、こんなかわいい服は、始めて着るにゃ。」
 ネコは、いかにもうれしそうに顔をほころばせる。
「そりゃよかった。そいつはやるから着てろ。」
「うにゃ!こんないいものもらっても、返す当てがないにゃ。」
「そうか?まあいい、腹減ったろう、飯喰うか?」
「にゃ?なにもないのにゃ。」
「着いてこい。」
 ネコ娘は、カズマの後ろを着いてくる、あ、はだしじゃん。
「うわあ~。こんな家、昨日までなかったにゃ。」
「ああ、さっき俺が作った。ちょっと必要になったのでな。」
「ほえ~。」
 カズマは、かまどの前で革袋からウサギを出した。
「うさぎにゃ!」
「ああ、ちょっと待ってろ、こいつを焼いて食おう。」

 ネコは、くちからよだれをあふれさせた。
「おまえ、こいつ捌けるか?」
「できるにゃ。」
「ほら、ナイフだ。ここで捌いてろ。あ、このエプロンしろ、服が汚れる。」
「ダンナはどうするにゃ?」
「ああ、風呂の水を入れ替えてくる、たぶんもっと汚ねぇやつらが来るからな。」
「ほえ?わかったにゃ。」
「マキはここにあるが、おまえ火つけはできるか?」
「そのくらいの生活魔法はできるにゃ。」
「じゃあ、捌いたらかまどに火を入れてくれ。」
「わかったにゃ。」
 皮袋からサンダルを出して履かせた。
 ネコには少し大きかったようだ。



「それと、これをはけ。」
「うれしいにゃ、始めて履くにゃ。」
「そうか、よかったな。」
 カズマは、外に出て風呂の水を抜く。
 そのまま放置して、川に水汲みに行った。
 もう一度、風呂の水を満たして、ファイヤーボールを突っ込む。
 こんどは、ちょっと手加減を間違った、ぐらぐらしてるよ。
 ついでに、洗い場でも作るか。
 どうせ、夜まで暇だしな。
 変に凝って作っていたら、クアハウスと言うか、スーパー銭湯みたいになってきた。
「さばけたにゃ!にゃにゃ!なんなのにゃこの風呂は!」
「ちょっと付け足ししたら、こうなった。まあいいだろう。」
「うにゃ~、家より大きい風呂なんて、はじめてにゃ!」

 さすがにネコは、ウサギの捌きも上手にできたようで、無駄がない。
 毛皮もちゃんとはがしてさらしてある。
 カズマは、革袋からフライパンや、塩コショウを出してウサギの肉を焼く。
「ほら、喰え。」
「ダンナが先にゃ。」
「おれは大丈夫だ、お前の方が腹減ってるだろ、先に喰え。」
「う、いいのにゃ?」
「いいぞ。俺は、もう少し作るものがある。あ、このパンも喰っていいぞ。」
 カズマは、テーブルにレジオのパンを出してやった。
「にゃ!これがパン?」
 もう一つのかまどの口に、小ぶりな鍋を載せて、スープを作る。
 具はキャベツとウサギなんだけど。
 まあ、ダシは出るだろ。

 ウサギは、いい感じで焼けたし、昼飯にはこんなもんでいいだろう。
「どれ、こいつも喰っていいぞ。」
「うわ!スープにゃ!豪勢にゃ!」
「そうか?まあ喰え、冷めるとまずい。」
「冷めてもうまそうにゃ、それに、ウサギの焼いたのが激ウマにゃ。」
「そりゃよかった、どんどん喰えよ。」
「あい。」
 ネコは、妙に素直になった。
「うう、うまいにゃうまいにゃ、みんなにこんなの喰わしてやりたかったにゃ。」
「仲間か。」
「うう!みんなすきっぱらかかえて、死んでいったにゃ。」
「そうか、つらかったな。」
「うにゃ~~~~ん」

 とうとうネコは泣きだした。
 泣きながら、うまいにゃと言ってウサギをかじる。
 自分でも、何をしているのかわかっていないのだろう。
「うまいにゃ!うまいにゃ!」
 最後のひとかけが無くなったところで、顔をあげた。
「ダンナ、ウチを雇ってくれないかにゃ?」
「カッパライをか?俺は盗賊じゃないぞ。」
「わかってるにゃ、これだけのものを平気で出せるにゃ、大店の若旦那にゃ。それなら、メイドに雇ってほしいにゃ。」
「ウサギ捌くほかに、何ができる?」
「掃除でも洗濯でも、なんでもできるにゃ。料理はあんましやったことがないけど、覚えるにゃ。」
「そうか、ウチのメイド長はこえーぞ。」
 チコの顔を思い浮かべる。
「命を助けてもらったにゃ、服ももらったにゃ。恩返しがしたいにゃ。」
「まだ、指は残ってるぞ。」

「うう!それでもウチは…」
「わかった、考えておく。まあ、今日のところは客が来るから、お茶の入れ方はわかるな。」
「はいな。」
「よし、じゃあ水を汲んで、この水甕に入れておけ。夜に、お茶が必要になる。」
「かしこまったにゃ。」
 ネコは、バケツを持って川に向かった。
「なんだ、カッパライの割に良く働くな。」
 カズマはよく知らなかったが、ネコだって恩を感じる動物なんだよ。
 今回は、どうやら発情期も交じってる気がするけど。
しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...