おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

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第112話 遥かな旅路

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 プルミエは、注意深くピラミッドの周囲を回る。
 子供たちは、恐る恐るその後ろを着いて歩く。
 ピラミッドは、しんと静まって、先ほどのような動きを見せることはなかった。
「うん?なんじゃこれは。」
 金属質な扉のついた凹みが見つかった。
 なんのことはない、出発点の後ろ側の面である。
 つまり、逆に歩いていれば、すぐに見つかったのだろう。
 無駄な時間をかけたものだ。
「ほっとけ!」

 それは、継ぎ目もなければ、傷もない。
 不思議な白銀色の一枚の板である。
「あ、上になにか緑色の板があるよ。」
 ボルクが目ざとく見つけた。
「ふむ、やはり知らない文字じゃのう。」
 勇気はそれを見て、これ以上ないほど目を見開いていた。
『非常口』
 緑の板に、白い文字で書かれたそれは、中から光るようになっていた。
「なんだこれは!日本語じゃないか!」
 勇気が大声で叫んだのは言うまでもない。

「ふむ、勇気の国の言葉で書かれているのか?」
「そうです、どこから見ても日本語で、見なれたものです。」
「だとすると、これは遥かな遠くから来たことになる。もしくは、ここに住んでいたものが遠くに行ってしまったのか?」
 勇気の混乱は、頂点を極めていた。
「なんで…どうして…」
「ふむ、このままでは勇気が収まらんな、一度帰るとしよう。」
「このままでいいんですか?師匠。」
「ラル、勇気をこのままにはできん。一度戻って、落ち着かせるとしよう。」
「わかりました。」

 ばづ!

 ラルの電撃で、勇気は気絶した。
「アマルトリウス、皆を運んでくれ。」
「承知。」



 あたりはすっかり寝静まっていた。
 ガイエスブルクの家々は、すでに灯りもまばらで、夜空には雲ひとつない。
 勇気は、領主館の窓からその星空を眺めていた。
「勇気、入ってもいいか?」
 控えめなノックの音と同時に、ラルの声が聞こえた。
「ああ、起きてるよ。」
 星明りでは、勇気の顔は見ることができない。
「どうした?」
「いや、ショックを受けていたみたいだからな。」
「いや、混乱はしたさ、ショックと言うほどではないよ。」
「そうか?明日、お屋形さまともう一度調査に行く。」

「俺は…」
「お前は来ない方がいい。」
「?」
「もっと見たくないモノがあるかもしれない。」
「バカ言え。たいしたことないさ。」
「そうか?」
「俺が考えていたのは、もっとめんどくさいことだ。」
「めんどくさい?」
「ああ、タイムパラドックス。」
「た、タイム?」
「ああうん、あの建物はもともとなんだったのかと言うことが、一番だよ。」

 ラルは、手近な椅子に腰かけた。
「あれはさ、宇宙船かもしれない?」
「宇宙船?って、なんだ?」
「あの天空を、自由に行き来する舟のことさ。」
「天空…」
「それには、空を突きぬける、おそろしい力が必要だ。なん百貫という重さを持ち上げるのだからな。」
「…」
「俺たちの国は、それをやった。」
「なんだと?」
「そして、この大地が丸くて、そして、真っ暗な虚空に浮いているのだと知った。」

 がたん!
 ラルが立ちあがると、座っていた椅子が、衝撃で倒れた。

「なんだそれは!」

「そう言うことさ、この世界は平板なものじゃない。丸い球体の上に居るんだ。」
「げえ!」
「反対側にいる人間が落ちないのは、すべての表面が球の中心に向かって引っ張られているからだ。」
「わからん。」
「まあ、そう言うものだと思え。球体と言ってもべらぼうに大きいから、一里や二理行ったところで、丸くはならん。」
「アカン、俺の頭では理解できん。」
「それはしょうがない。俺たちとは、情報量が違うからな。まあ、そう言うものだと思え。」
「うん…」
「あのピラミッドは、そう言う星の海を渡って来たのではないかと思ったのさ。」
「星の海。」

「そして、俺たちの時代には、星の海を渡る船は作れなかった。」
「へ?」
「いま、空に上がったって言ったじゃないか。」
「うん、空のほんのとっかかりまでだよ。あの月にも行けたのは一握りだ。」
 空には、いびつな月が上がってきた。
 まさにサツマイモのような月だ。
「あれがダイモスと呼ばれているのは、知っているか?」
「ああ、ふつうのイシュタール人なら知ってるだろう。」
「おれにも、聞きおぼえがある。」
「ありふれた名前だし。」
「いや、星の名前が共通なのは、偶然じゃなさそうだ。」

「そして、あのピラミッドだ。あんなものは、俺の星でもたくさん見られた。」
「おう。」
「そして、フォボスがいない。」
「フォボス?」
「ああ、かつて火星の月は二個あったのだ。」
「…」
「三千万年から五千万年後に、ロシュの限界を受けて、砕け散ったはずだ。」
「ちょっとまてよ、なぜそんなことを知っている!」
「俺たちの時代には、月が二つあったのに、いま、ここには月が一つしかない。それがどういうことか!」
 ごくり。
 ラルの喉が鳴った。
「ここは、俺たちの時代から、少なくとも三千万年後の世界だと言うことだ。」

「げえ。」

「驚いたか?俺は、体が受け付けなくて、吐いちゃったよ。」

「なんだかな~、空に見える帯が、気になってたんだけどさ、あれが、フォボスのなれの果てだったんだな。」
「…」
「よかったよ、侵入角が深かったら、この星自体も砕けていた可能性もある。」
「ほんとか!?」
「まあ、いいじゃん、こうして残っているんだからな。」
 勇気は、もう一度夜空を見上げた。
「おまえ、バカだと思ってたけど、カシコだったんだな。」

「おどろくとこ、そこ?」





『非常口』と書かれたドア。
 日本語で書かれている。
 これではほかの人間には読めないだろう。


 勇気には、自分だけでここに入ることが憚られた。
 これは、カズマも一緒に、いや恵理子も混ぜてやらねば。
 そんなことを思ったが、翌日にはカズマがゲートを使って、王都から飛んできた。
 もちろん聖女たちも一緒だ。
 こちらには、プルミエ、ゴルテス、ロフノールなどが並んでいる。
「師匠、待たせた。」
 カズマは、ゲートを抜けたところで、プルミエに声をかけた。
「いや、たいしたことではないよ。三千万年に比べれば、ほんの瞬きにすぎん。」
「詩人だね、師匠。」
 プルミエは、少し赤くなった。

「ラル、勇気、お手柄だ。よく見つけたな。」
「「はい。」」

 非常口は、冷たい無機質な金属板だったが、カズマが右横にある小窓に手を当てると、するすると横にスライドした。
「やはり、DNAかなんかで判別しているな。」
「薄くなっているのに?」
「勇気、それはわからんよ。なにを探しているのかもな。」
「うん…」
「ただ、この国の人間でも、反応することから、地球人のなんらかのパターンを持っているんだろうさ。」
 勇気には、さすがにそこまでの理解はない。
 銀行のATMで、指認証するぐらいが関の山だ。
「なるほどねえ、廊下は広いものだな。」
「お屋形さま、ダンジョンじゃないの?」
 ティリスは、アンジェラを連れて、巡礼に出ている。
 代わって、恵理子が声をかけたのだ。


「いや、これは人の作ったものだ、魔物の巣ではないよ。」
「こんなものを、人間が作った…船より大きいやないですか。」
「そうだな、外に出ているだけで、一辺が一キロはありそうだな。」
「そうですね、質量もどれほどか見当もつきません。」
 勇気は、ゆうべ自分が考えたことを、カズマに聞いてみた。
「これは、宇宙船じゃないかと思うんですけど。」
「いいセン行ってるかもしれんぞ、この通路を見ろよ、横幅2.5メートルはありそうだ、しかも、塗装がクリーム色。」
「本当だ。」
 アリスティアは、前方に光る板を発見した。
「お屋形さま、あそこになにか光っています!」
「うん、あれか。」

「船内案内版…」
 まさに、案内版であった。
 白く光る一メートル四方の板は、内部から光を放ち、薄暗い通路に浮かびあがっていた。
 白地にパステルグリーンの四角が浮かんでいる。
 ごく平面的な表現ながら、それは艦内の通路を示していた。
「げえ!」
 カズマは悲鳴を上げる。
「どうし…う!」
 勇気も、それを見て絶句した。
「なんだこの大きさは!」
 悲鳴が上がるのも無理はない、今いる場所は、この建物のほんの頂点付近に過ぎず、下にはまだ九キロも地中に埋まっているのだ。
「なんちゅうデカさだ、ここが頂上付近だとは。」
「すげえ、一キロに四層もある。エレベーターは…これか?」
「そうだな、まずは中央のコントロールルームに行こう。」
「そうしましょう、これはちょっと遠すぎる。」

 一行は、カズマと勇気を先頭に、恵理子・プルミエ・アリスの順で進行する。
 他の者は、危険なので外に置いてきた。
 考えてみれば、中の方が安全かもしれないが。
 進むにつれ、そこが生活空間であることがよくわかる。
 清潔な室内は、空調が効いていて、ホコリもない。
 すでに、住民はみな外に出てしまったようで、艦内は人っ子一人いないが。
 かつかつと、硬質な音が通路に響く。
「暗いぞ!」
 突然、カズマが大声で叫んだ。
 恵理子と勇気にはわかるが、アリスにはわからなかった。
 日本語でどなったのである。

 と、突然、廊下の天板が光り始めた。

「やはりな、音声入力で、機械が作動する。」
「そうですね。」
「なんちゅうか、ハイテクなのかローテクなのか、判断に苦しみますわ。」
「まあいい、これで進みやすくなった。」
 一〇〇メートルも行くと、突然通路が一〇メートル幅に広がった、どうやら、広場に着いたようだ。
「は~、広場に木が生えてますよ。」
「公園なんだな、しかし、上が広いな。」
「何万人も暮らせる空間なんですね。」
「管理された自然なんですやろ。でも、木は新陳代謝してはるようですね。」
 地面には、朽ちた根っこも見られた。
「まあ、何年も過ぎればこうなるわな。」

 公園を過ぎると、商業地区。
 そこも、通り過ぎると、どうやらメインシャフトに到達したようだ。
「柱に、メインシャフトと書いてある。」
 目の前には直径二〇メートルもある円形の柱が立っていた。
「動力は生きているみたいだけど、シャフトは使えるのか?」
 カズマが口にすると、目の前の案内板の表示が変わった。
「ふむ、機能は正常に稼働中か…まあ、最悪レビテーションで逃げるからいいけどな。」
「レビテーション?」
 表示が疑問符を打ちだす。
「ノープロブレム、気にするな。」
「YES」
「シャフトを解放してくれ。」

「YES」

 カズマの日本語に、シャフトのドアが左右に開いた。
「コントロールルームへ。」
「カシコマリマシタ。」
 上空から、電子音声が返事をした。
「へ~、こんな機能もあるんだ。」
「なかなか凝ってまんな、『ええてんきですね。』」
『ホンマですな。』
 電子音声は、大阪弁で返してきた。
「あはは!これはええわ。」
 重力に逆らって、人体が持ち上がるような気分の悪い状態が来て、シャフトが下がっているのがわかった。

「お師匠、大丈夫か?」
 ラルもプルミエも、黙り込んでしまって、特にプルミエは目の焦点が合っていない。
「お、おう、大丈夫だ。」
「ちっとも大丈夫に見えないよ。」
 ラルは、心配げだ。
「プルミエ、ほら。」
 カズマは、シードルの瓶をプルミエに渡した。
「ああうん。」
 プルミエは、瓶の栓を取ると、一気に流し込んだ。
「ぷは~!」
「ショックだったか?」

「あたりまえじゃ、ワシの長い人生でも、こんなものは見たこともないわ。」
「へえ、でもこれ一つとは限らんと思うがな。」
「なんじゃと?こんなものがまだあると言うのか?」
「うん、たぶんある。」
「「げえ!」」
 プルミエだけでなく、ラルまでが吠えた。
「俺の予想が正しければ、これは星間航行宇宙船だ。空の海を渡るための船だ。」
「空って、うえにあるあれか?」
「ああ、あの上にはどこまでも続く空間があるのだ。」
「なんじゃと?」
「まあ、そう言うものだと思えよ。その空間を渡るには、空気が漏れない密閉した舟が必要なのだ。」
「そうなのか?」
「ああ、あの上には空気はないからな。」
「ない…」

『マモナクコントロールルームニツキマス。』
 アナウンスと共に、エレベーターは重力を取り戻した。
「慣性制御がハンパねえなあ。」
「技術の進歩やな。」
 そういう次元のものともちがいそうだが…
「うっひゃ~!スーパーコンピューターが一〇〇台も並んではる!」
 温度がハンパない。
 空調が効いてなかったら、暴走してしまいそうなレベルであるが、いま、稼働しているのは一台だけのようだ。
「そりゃまあ、人間が居ないんだから、一台で十分賄えるのか。」
「それにしても、ものすごい設備やね。」
「よく生きていたな。」
「ひょっとすると、あのてっぺんから出ていた光って、ほんとうに光だけなのか?」
『ハイ、アレハシンゴウデス。』

「灯台かよ。」
『ソノトオリデス』
「か~、すげえ通り越してるな。」
「ん~と、お前の名前は?」
『ガイダンスデス』
「ガイダンス?じゃあガイでいいわ、これからお前をガイと呼称する。」
『カシコマリマシタ。』
「ガイ、出発以前の状態を文字情報で示せ。」
『ハイ。』
 そこに示された驚愕の事態に、カズマは茫然とした。
 流れる文字列は、強烈な衝撃となってカズマを襲った。
「どうしたんですか!お屋形さま。」
 アリスがあわててカズマを支える。

「いや、大丈夫だ。勇気じゃないが、おれも吐きそうだ。」
「旦那はん!」
「読んでみろ、恵理子。」
 恵理子もモニターを覗き込んで、目を見張った。
「えず!アカンえずいてきたわ!」
 勇気は、きのう十分に吐いているので、だいたいの予想はできた。しかし、その内容にやはり吐き気を催した。
「思っていても、来るときは来るな!うげ、胃がひっくりかえる!」
「ああ、この星で一万年も待っていたんだな。」
 カズマの目から、知らずしずくがこぼれていた。
「なんと言う長い時間、待ち続けたことか。」
「やってきたのが、まるで縁もゆかりもない転生者であったとは、皮肉なことだ。」
 文字を読むことのできないアリスは、おろおろとしている。
 プルミエは、杖でカズマの肩をたたいて、説明を求めた。
 カズマは、シードルを取り出して、一気に飲むと深い息を吐きだした。


「お師匠、俺たちの星は焼けただれてしまったそうだ。」
「なんじゃと?」
 カズマは、もう一口呑むと、ゆっくりと話し始めた。



「地球は…滅びた。」
「フォボスは、ロシュの限界を越えてしまった。火星の重力カタパルトに乗って、地球に飛来したのだ、そして地球人は脱出した。」

 地球は、沸騰した岩石に覆われて、生き物のすべてが焼き尽くされた。
 それはそうだろう、ロシュの限界を受けてくずれたたとはいえ、フォボスは半径十一キロ・質量にして、1.26×10の16乗キログラムである。
 これが激突して、太平洋に落ちれば、高さ千六百メートルの津波が起こり、その後熱核反応が起き、沸騰した岩石が地球全土を覆う。
 海の水は干上がり、火山は溶岩を噴出し、原始の地球に逆戻りするのだ。
 バクテリアか、細菌のようなものが、どこかで生き残れたかもしれないが、そこはもう生き物の住める場所ではない。

 地球人類は、観測結果から軌道を割り出し、すぐに対策に乗り出した。
 核兵器による爆破、もしくは軌道の修正である。
 すぐに、保有核のすべてを投入したが、望みはかなわなかった。
 その質量と重力加速で、核兵器の爆発をものともせず、進路を変えることはなかった。
 人類の作り上げた核兵器など、花火にもならなかったのだ。
 ペンタゴンは、その事実に沈黙し、モスクワは発狂した。

 そこで、同時に開発したコロニータイプの宇宙船への避難を開始。
 宇宙空間であれば、惑星の衝突に影響をされないと考えた。

 しかし、また人類はつまづく。

 差別問題が噴出し、後進国は後回しにされ、我先にと逃げ出す先進国。

 混乱の極みに、シャトルがない。
 絶対数の少なさから、遅々として進まない脱出行。
 武力による衝突。
 脱出計画は、半ばで挫折した。
 そして、武力に寄りコロニーの墜落などが起こり、実に人類の三割がそれに巻き込まれて死亡した。
 運搬能力の不足から、全人類の内、脱出できたのはわずかに一割に過ぎなかった。
 まだ、マシだったのは、そのコロニーの中には、たくさんの動物を保護していたこと。
 火星も地球も地獄だった。
 火星は、フォボスをなくしたことによる、気象の乱れで嵐が吹きまくり、地上が見えないほど雲に覆われた。
 舞い上がった土砂により、前も見えないほどの嵐となる。
 そう、核の冬のように。

 地球は、原始の炎に焼かれて、焦土と化した。

 もはや、人類に安住の地はない。

 一辺が十キロに至るピラミッド型宇宙船は、四角すいを上下に合わせたような形をしていた。
 そこに、五万人の人類と、動物を乗せて宇宙を漂流することとなる。
 フォボスの衝突の余波で、コロニーは外宇宙に打ちだされて行った。
 そんな宇宙船が、約一万五千隻。
 よくもここまで作れたものである。
 それが、宇宙に散らばって、安住の地を求めたのだ。
 つらく苦しい旅路であったことだろう。
 アルファケンタウリまでは4.3光年。
 そこにある地球型惑星は、地球の1.13倍である。
 これを光速の70%で飛行し、たどりついた先で、テラフォーミングを始めた。

 たどり着くまでに一割が死亡し、テラフォーミングが終わるまでに、さらに一割が亡くなった。

 しかし、歯を食いしばって開発した人々は、なんとかそこに新しい地球を見出したのだ。


『弟星<おとぼし>』と名付けられたその星に、日本から脱出した人々は根付いたのである。


 しかし、さまざまな風土病や、未知の生物に悩まされ、定住が確立するまでに一〇〇年を要した。
 それでも、地球をなくしたことに比べれば、はるかにマシな環境であった。
 弟星で、可能な限り繁殖を試み、地に満ちて、人々は地球を夢見た。
 いつか、地球に返り咲くことを求めて、宇宙開発を進めたのだ。
 弟星は、その後たどり着いた別の宇宙船と合流して、人口が増えていき、数千年を数えたころ、太陽系の探索を行えるところまで復旧した。
 彼らが太陽系に戻ったころには、火星は落ち着きを取り戻していたが、地球はいまだ荒廃したままであった。
 そりゃあ、数千年では植物も生えてないだろうな。
 だがしかし、ふるさとである。
 太陽系は、全人類の故郷なのだ。

 戻った人類は、火星をテラフォーミングした。

 長年にわたって研究してきた成果が見事に現れて、火星は酸素を有し、人類が移住可能な惑星へとその姿を変えたのである。

 人々は狂喜し、火星への移住を開始した。
 こうして、イシュタール大陸は、人類の希望となったのである。



 が、どうしてこうなった?



 魔法の発生など、人類の思惑とはまるで違う方向に、発展して行く火星に戸惑い、ケンタウロスの弟星に逃げ帰るものが続出した。


 そのことに寄り、火星では科学が衰退し、迷信と魔法の世界へと変貌して行くのである。
 一万年後、人類は文化をなくし、科学をなくし、衰退の道を静かに進んでいた。

 その時やってきたのが、オシリス女神とその一党である。
 火星は、オシリス女神の管轄となり、人類の衰退を喰いとめるに至って、やっと安定を取り戻した。
 もはや、火星は第二の地球ではない。
 火星は、オシリス神の大地へと変わり始めた。
 そこに、遅れてやってきたのがナイア女神と、その一党である。
 二人は反目しあい、そのうち袂を分かって、ナイア女神は別の大陸に移ってしまう。
 それが、勇気の目指すアフロディーテ大陸である。

 ああめんどくさい。

 ここまでネタばらしするとは、考えていなかったんだよ。
 勇気が、隣の大陸に行って、初めてわかることにしたかったんだよ。

 あ~、困った困った、この先どうすればいいんだ~!
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