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第1編皇帝陛下の日常
第2章皇帝の愛猫
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しばらく休んで、酔いが醒めた頃、突然目の前に猫が現れた。
猫は真っ黒で、立派なひげをしていた。
この様に突然現れたところを見るに、おそらく怪異なのだろう。
皇帝は閻王を封じている事から、他の人よりも怪異を見る目に優れる。
そして、怪異の中には当然危険なものも居る。
もしかしたら、近づく事でなにか、私に危害を加えてくるかも知れない。
皇帝という立場を考えたら、陰陽師や陽ちゃんを呼んでなんとかしてもらうのが正道である。
しかし、それとこれとは話は別だ。
「可愛い」
私は思わず呟いた。
私は可愛いものには目が無いのだ。
目の前にこんなに可愛い猫が現れて触らないわけにはいかない。
私は猫に近づくと、喉元を撫でた。
「ミー。ミー。」
すると猫は喜び、可愛らしく鳴いた。
私はこの猫が愛おしくてたまらなくなった。
そもそも私は小さい頃から猫を飼ってみたかったのだ。
でも、両親はそもそも私にすら関心がなかったのだから、私の望みをかなえてくれるはずはない。
もし、私が猫を飼えるとしたらそれはお義兄ちゃんが飼わせてくれたときだけど、生憎、お義兄ちゃんは猫とか狐とか気ままな動物が大嫌いだ。
だから今までずっと諦めていた。
でも今回、目の前に猫が現れたのである。
私に、この子を飼わないという選択肢は無かった。
私は猫を見つめると言った。
「お前は今日から山椒(さんしょ)と名乗れ。良いな」
すると猫は不満げに鳴いた。
「ミー。ミー」
私はショックを受けた。
「えー。何で。唐揚げって可愛くない?私、狗(いぬ)を飼ったら胡椒(こしょう)、猫を飼ったら山椒(さんしょ)って名前にするって決めてたのに」
猫は再び不満げに鳴いた。
「ミー。ミー。」
そして、私の寝台を飛び降りると、近くにある王冠を加えて持ってきた。
私はそれを見て猫にたずねた。
「つまり、皇帝のペットとして相応しい名が欲しいって事?」
「ミー。ミー。」
猫は嬉しそうに鳴いた。
成る程。
どうやらこの猫は誇り高い猫のようだ。
皇帝である私にそのような要求をするとはなんと傲慢な猫だろう。
だがそこが良い。
私は立ち上がり、臣下に官位を授与する時の姿勢で言った。
「猫。お前には、玄宗皇帝たる私の名「悠基」から「悠」の一字を与えようこれからは「悠々」と名乗ると良い。」
猫は臣下の様に私にかしずいた。
正確には伏せと伸びをした。
そして偉大なる皇帝から名を得たことを喜び鳴いた。
「ミー。ミー。」
すると私の寝室に楊ちゃんが入ってきた。
楊ちゃんは言った。
「酔いは大丈夫?苦しいなら一緒に寝てあげるわよ」
しかし、楊ちゃんは悠々を見つけるや否や態度を一変させた。
そして叫んだ。
「きゃー。何てものを連れ込んでるのよー」
悠々は楊ちゃんを見ると毛を逆立て、威嚇した。
「シャー。シャー。」
なぜか楊ちゃんもつられて人間の姿のまま威嚇した。
「シャー。シャー。」
人間の化けているときの楊ちゃんは体型は整っており、見た目も美しい、さらには妖艶な魅力があり、見る人を惹きつける。
だからこそ、そういう綺麗なお姉さんが獣の様に、威嚇する様はなんだか凄く倒錯的で、興奮した。
私は言った。
「楊ちゃん。落ち着いて。一体どうしたの?」
楊ちゃんは言った。
「良いかしら。その猫は猫鬼(びょうき)と言うのよ。死んだ猫を祀って、呪いたい人間に憑かせると、猫が、その人間の元に行ってその人間を殺し、その家の財物と心臓を持って返ってくると言われているの」
私は言った。
「知ってる。知ってる。昔、習った事あるよ。これが、その猫鬼なんだー」
そして私は悠々を撫でた。
「ミー。ミー。」
悠々は嬉しそうに鳴いた。
陽ちゃんは猫に問いかけた。
「あなたはどうして、こんな大人しく可愛がられているの?」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。」
陽ちゃんは言った。
「猫はこう言ってるわ」
「私はたしかに陛下のことを殺しに参りました。しかし、皇帝陛下のあまりに立派なお姿に迷いが生じ、殺すことが出来ないで居ました。すると皇帝陛下は私を見つけ私の才能を認めてくださり、あまつさえ名も与えてくれました。今は皇帝陛下に忠誠を尽くそうと考えています」
「猫の癖に生意気ねー。猫鍋にしてしまったらどうかしら」
私はそれを聞いてなんて誇り高き猫だろうと思った。
「悠々。お前の忠誠は良く分かった。素晴らしい臣下を得ることが出来て嬉しく思うぞ」
そして私は猫を撫でた。
「ミー。ミー。」
猫は嬉しそうに鳴いた。
楊ちゃんは言った。
「取り敢えずその猫の処遇は後で考えるとして、まずは、誰が呪いを行なったかを調べないとね。まあその猫はあなたに忠誠を誓っているみたいだし、教えてくれるでしょう。」
しかし、私は首を横に振った。
「別に良いよ。正直、面倒くさい」
楊ちゃんは驚いて言った。
「でも相手はあなたを呪い殺そうとしたのよ。放っておいて良いの?」
私は言った。
「良いよ。別に。正直珍しい事じゃないし。世の中ね。上手くいかないことがあると大抵皇帝のせいになるんだよ。だから、呪ったり、悪口を言ったり、謀反を企てているやつらなんていくらでも居るわけ。そんなの全部、取りあってたらきりがないでしょ。」
楊ちゃんは悲しげに言った。
「でもあなたは傷つかないの?不特定多数人に常に悪意を向けられているのよ。」
私は言った。
「別に。それも皇帝の仕事だから。それにいつも言ってるでしょ。私はお義兄ちゃん以外の人間はどうだって良いの。そんな奴らに構って、お義兄ちゃんと一緒に居られる時間が減ったら嫌だから」
楊ちゃんは私の言葉を聞くと目を潤ませて言った。
「健気ねー。なんだか励ましたくなって来ちゃったわ」
そして楊ちゃんは狐に戻ると、私に飛びついて言った。
「好きなだけモフモフして良いわよ。」
「ありがとう。楊ちゃん」
私はそういうと大好きな楊ちゃんの尻尾に触ろうとした。
すると悠々が飛び上がり空中から楊ちゃんを思いっきり叩いた。
俗に言う「猫ぱんち」である。
楊ちゃんは私の腕の中から叩き落とされたがすばやく着地すると、今度は悠々に反撃を食らわせた。
その後は両者乱戦になったのか、私から見るとじゃれあいに見える死闘を繰り広げた。
私はその様子を見て思った。
(私は小さい頃、いつも想像してた。お義兄ちゃんと結婚して、狭いけど快適な家で慎ましい生活を送る。そして私の傍らには、狗の胡椒と猫の山椒。2人は普段は仲良しだけど、大好きな私を取り合って、時々大喧嘩をする。私はその様子を笑顔で眺めながら、お義兄ちゃんの帰りを待つ)
(私の夢。ちょっとだけ叶ったかも)
私は人知れず、笑みを浮かべたのだった。
猫は真っ黒で、立派なひげをしていた。
この様に突然現れたところを見るに、おそらく怪異なのだろう。
皇帝は閻王を封じている事から、他の人よりも怪異を見る目に優れる。
そして、怪異の中には当然危険なものも居る。
もしかしたら、近づく事でなにか、私に危害を加えてくるかも知れない。
皇帝という立場を考えたら、陰陽師や陽ちゃんを呼んでなんとかしてもらうのが正道である。
しかし、それとこれとは話は別だ。
「可愛い」
私は思わず呟いた。
私は可愛いものには目が無いのだ。
目の前にこんなに可愛い猫が現れて触らないわけにはいかない。
私は猫に近づくと、喉元を撫でた。
「ミー。ミー。」
すると猫は喜び、可愛らしく鳴いた。
私はこの猫が愛おしくてたまらなくなった。
そもそも私は小さい頃から猫を飼ってみたかったのだ。
でも、両親はそもそも私にすら関心がなかったのだから、私の望みをかなえてくれるはずはない。
もし、私が猫を飼えるとしたらそれはお義兄ちゃんが飼わせてくれたときだけど、生憎、お義兄ちゃんは猫とか狐とか気ままな動物が大嫌いだ。
だから今までずっと諦めていた。
でも今回、目の前に猫が現れたのである。
私に、この子を飼わないという選択肢は無かった。
私は猫を見つめると言った。
「お前は今日から山椒(さんしょ)と名乗れ。良いな」
すると猫は不満げに鳴いた。
「ミー。ミー」
私はショックを受けた。
「えー。何で。唐揚げって可愛くない?私、狗(いぬ)を飼ったら胡椒(こしょう)、猫を飼ったら山椒(さんしょ)って名前にするって決めてたのに」
猫は再び不満げに鳴いた。
「ミー。ミー。」
そして、私の寝台を飛び降りると、近くにある王冠を加えて持ってきた。
私はそれを見て猫にたずねた。
「つまり、皇帝のペットとして相応しい名が欲しいって事?」
「ミー。ミー。」
猫は嬉しそうに鳴いた。
成る程。
どうやらこの猫は誇り高い猫のようだ。
皇帝である私にそのような要求をするとはなんと傲慢な猫だろう。
だがそこが良い。
私は立ち上がり、臣下に官位を授与する時の姿勢で言った。
「猫。お前には、玄宗皇帝たる私の名「悠基」から「悠」の一字を与えようこれからは「悠々」と名乗ると良い。」
猫は臣下の様に私にかしずいた。
正確には伏せと伸びをした。
そして偉大なる皇帝から名を得たことを喜び鳴いた。
「ミー。ミー。」
すると私の寝室に楊ちゃんが入ってきた。
楊ちゃんは言った。
「酔いは大丈夫?苦しいなら一緒に寝てあげるわよ」
しかし、楊ちゃんは悠々を見つけるや否や態度を一変させた。
そして叫んだ。
「きゃー。何てものを連れ込んでるのよー」
悠々は楊ちゃんを見ると毛を逆立て、威嚇した。
「シャー。シャー。」
なぜか楊ちゃんもつられて人間の姿のまま威嚇した。
「シャー。シャー。」
人間の化けているときの楊ちゃんは体型は整っており、見た目も美しい、さらには妖艶な魅力があり、見る人を惹きつける。
だからこそ、そういう綺麗なお姉さんが獣の様に、威嚇する様はなんだか凄く倒錯的で、興奮した。
私は言った。
「楊ちゃん。落ち着いて。一体どうしたの?」
楊ちゃんは言った。
「良いかしら。その猫は猫鬼(びょうき)と言うのよ。死んだ猫を祀って、呪いたい人間に憑かせると、猫が、その人間の元に行ってその人間を殺し、その家の財物と心臓を持って返ってくると言われているの」
私は言った。
「知ってる。知ってる。昔、習った事あるよ。これが、その猫鬼なんだー」
そして私は悠々を撫でた。
「ミー。ミー。」
悠々は嬉しそうに鳴いた。
陽ちゃんは猫に問いかけた。
「あなたはどうして、こんな大人しく可愛がられているの?」
悠々は鳴いた。
「ミー。ミー。」
陽ちゃんは言った。
「猫はこう言ってるわ」
「私はたしかに陛下のことを殺しに参りました。しかし、皇帝陛下のあまりに立派なお姿に迷いが生じ、殺すことが出来ないで居ました。すると皇帝陛下は私を見つけ私の才能を認めてくださり、あまつさえ名も与えてくれました。今は皇帝陛下に忠誠を尽くそうと考えています」
「猫の癖に生意気ねー。猫鍋にしてしまったらどうかしら」
私はそれを聞いてなんて誇り高き猫だろうと思った。
「悠々。お前の忠誠は良く分かった。素晴らしい臣下を得ることが出来て嬉しく思うぞ」
そして私は猫を撫でた。
「ミー。ミー。」
猫は嬉しそうに鳴いた。
楊ちゃんは言った。
「取り敢えずその猫の処遇は後で考えるとして、まずは、誰が呪いを行なったかを調べないとね。まあその猫はあなたに忠誠を誓っているみたいだし、教えてくれるでしょう。」
しかし、私は首を横に振った。
「別に良いよ。正直、面倒くさい」
楊ちゃんは驚いて言った。
「でも相手はあなたを呪い殺そうとしたのよ。放っておいて良いの?」
私は言った。
「良いよ。別に。正直珍しい事じゃないし。世の中ね。上手くいかないことがあると大抵皇帝のせいになるんだよ。だから、呪ったり、悪口を言ったり、謀反を企てているやつらなんていくらでも居るわけ。そんなの全部、取りあってたらきりがないでしょ。」
楊ちゃんは悲しげに言った。
「でもあなたは傷つかないの?不特定多数人に常に悪意を向けられているのよ。」
私は言った。
「別に。それも皇帝の仕事だから。それにいつも言ってるでしょ。私はお義兄ちゃん以外の人間はどうだって良いの。そんな奴らに構って、お義兄ちゃんと一緒に居られる時間が減ったら嫌だから」
楊ちゃんは私の言葉を聞くと目を潤ませて言った。
「健気ねー。なんだか励ましたくなって来ちゃったわ」
そして楊ちゃんは狐に戻ると、私に飛びついて言った。
「好きなだけモフモフして良いわよ。」
「ありがとう。楊ちゃん」
私はそういうと大好きな楊ちゃんの尻尾に触ろうとした。
すると悠々が飛び上がり空中から楊ちゃんを思いっきり叩いた。
俗に言う「猫ぱんち」である。
楊ちゃんは私の腕の中から叩き落とされたがすばやく着地すると、今度は悠々に反撃を食らわせた。
その後は両者乱戦になったのか、私から見るとじゃれあいに見える死闘を繰り広げた。
私はその様子を見て思った。
(私は小さい頃、いつも想像してた。お義兄ちゃんと結婚して、狭いけど快適な家で慎ましい生活を送る。そして私の傍らには、狗の胡椒と猫の山椒。2人は普段は仲良しだけど、大好きな私を取り合って、時々大喧嘩をする。私はその様子を笑顔で眺めながら、お義兄ちゃんの帰りを待つ)
(私の夢。ちょっとだけ叶ったかも)
私は人知れず、笑みを浮かべたのだった。
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