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第4編皇帝陛下と楊玉環

第11章閻王の命令

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宝玉が現れ消滅してからしばらくが経った新月の夜、一人自室で眠る楊玉環の元に一人の男が現れた。
閻王である。

楊玉環はその事に気付くと、いつもとは全く異なる貞淑な妻としての態度で閻王に跪き言った。
「旦那様。お久し振りです。」

すると閻王は笑みを浮かべて言った。
「そうだな。久しく有っていないではないか。元気にしていたか?」

楊玉環は言った。
「はい。健康ですわ。もっとも閻王様の事を考えると心は大丈夫とはいえませんでしたが。」

閻王は楊玉環の言葉に気を良くしたのか上機嫌で言った。
「そうか。お前には苦労をかけるな。だがもう少しの辛抱だ。俺の復活はもう間近にまで迫っている。」

閻王の言葉に楊玉環は驚き全身で歓びを表して言った。
「まあ。もう直ぐ旦那様にお会いできるのですね。」

それに対して閻王が言った。
「ああ。早ければ十年以内に復活できる。だが俺は10年以内の復活は危険だと考えている。おそらく100年後の復活が理想だろう。まあ既に1000年以上封印されているのだ。90年など誤差に過ぎん。」

その言葉に楊玉環は言った。
「そうですね。いつまでだってお待ちしますわ。」

すると閻王が言った。
「そこでだ。お前に命令がある。俺の10年以内の復活を阻止しろ。」

楊玉環は閻王の言葉に恐れおののいた様子で言った。
「はい。ですが何をすればよろしいのですか。か弱い私にも出来るのかしら。」


それに対して閻王が言った。
「勿論、無理はしなくても良い。出来ればの話だ。李憲を殺せ。」

楊玉環は驚いた。
李憲という名は閻王の口から出るとは思わなかったためである。
「李憲ですか?」

閻王は驚く楊玉環に諭す様に言った。
「そうだ。鍵となるのは李憲だ。李憲がここで死ねばこの国は安定し、今後100年は俺が復活する可能性はなくなる。それに対して李憲が生きていれば俺の復活は大いに早まり、上手く行けば10年以内には復活できる。だがな。わずかながら可能性があるのだ。俺が復活した後、李憲に殺されるという理屈では説明のつかない異常な出来事が起きる可能性がな。」

閻王の言葉に楊玉環は強い口調で言った。
「ありえません。李憲はただの人間です。それが旦那様を殺すなど。」

動揺する楊玉環を抑えて閻王が言った。
「そのとおりだ。だがそんな私の未来視が李憲に殺される未来が存する可能性を告げているのだ。無視は出来まい。どんな手を使っても良い。李憲を殺せ。」

「かしこまりました。」
楊玉環は閻王の言葉に深く頷き頭を下げたのだった。
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