捨てられた令嬢と幽霊王子

柊木 ひなき

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11. 20日目 光魔法

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「レイスは、魔法が使えたの?」

 離れがたさを感じながらもレイスから離れて、問いかける。魔物を倒せる光なら、魔法しかないと思った。

「僕が覚えてる限りは、使えなかったよ」
「でもさっきの、光魔法よね」
「光、だね……」

 レイスが手のひらを上に向けると、目映い光が生まれた。
 レイス自身も驚いている。魔物を倒す前には、まるで倒せると確信したようなことを言っていたのに。

「……レイス。さっき、俺、って言ったの覚えてる?」
「俺? 言ってないと思うけど……」

 少しだけ思い出した中にもそんな記憶はないと言って、首を傾げた。

(今のレイスは若い姿なだけで、本当はもっと年上なのかしら?)

 それとも子供の頃がそうだったのか、もしくは人格が二つあるのか、こればかりはレイスが記憶を取り戻さないと分からない。


「口調はともかく、レイスは光魔法が使えるし……もしかしてレイスは……聖女様だったの?」
「正真正銘、男だよ」
「脱がないで!」

 シャツを捲って胸元を見せるレイスに、慌てて目を逸らした。

「……けっこう筋肉質ね」
「しっかり見てるじゃないか」
「見てないわよ?」
「嘘が下手だね」

 クスクスと楽しげに笑う。

「見せたのは僕か。ごめん、アリィ」
「許すわ。私も見ちゃったし」

 一瞬だったけど、どういうことかしっかりと脳裏に焼き付いている。


「そうだ。念のために首を落としてくるから、少し向こう向いてて」
「落とすのね……聞いちゃったら怖いのだけど……」
「忠告しないまま変な音がしたら、振り向いて見ちゃうんじゃない?」
「そうね……」

 起き上がったのかと思って見てしまう。実際に見るよりは想像の方がましだ。
 私が後ろを向くと、すぐに鈍い音がして、レイスはそばに戻ってきた。

「川で泥を落とそうか」

 レイスは私と魔物の間に立って、こっちだよ、と魔物の姿が見えないように川の方へと導いてくれた。


***


「怪我も治せるのね。ありがとう、レイス」

 あちこちにできていた傷も、靴擦れも、綺麗に治っている。痛みもない。

「ねえ、アリィ。光魔法は、聖女しか使えないの?」
「レイスみたいに魔物を倒せるのは聖女様だけよ。光らせたり小さな怪我を治すくらいなら、各国に数人はいると聞いたけど」
「それなら、僕の力は聖女レベルということか」

 レイスは自分の両手をジッと見つめる。ふいに顔を歪め、グッと拳を握った。

「……何か思い出しそうだったけど、消えちゃった」
「そう……」

 残念、と笑うレイスの笑顔はいつも通りなのに、酷く胸が締め付けられる。まるで、レイスを失うような、そんな恐怖が胸に広がった。


「……その光、レイスの身体を消費してないよね?」
「大丈夫だよ。この光、僕よりも少し白っぽいから」
「そういうものなの?」
「多分ね。でも、が僕自身じゃないのは分かるよ」

 もう一度光を浮かべてから、にっこりと笑った。

「光魔法って使い勝手良さそうだし、ますます快適に過ごせそうだよね」
「もしかして、夜のランプ代わりにしようとしてる?」

 聖女クラスなのに、と苦笑すると、宝の持ち腐れになるより良くないかな、とレイスは笑った。



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