捨てられた令嬢と幽霊王子

柊木 ひなき

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27.婚約者

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「……今の僕は、外見が違うけど」
「そうね。美しいより可愛いわ。あの頃より、三歳も年の差が縮まったんだもの」
「可愛い……何年か経ったら、アリィの好きなレイスみたいに成長するかな」
「どんな姿でも、私はレイスが好きよ」

 私からレイスに抱きついて、ポンポンと背を叩いた。

「僕は王太子じゃないけど、いい?」
「私に王太子妃は向いてないわ」
「良かった。僕も、国王はもうこりごりだからね」

 笑えない冗談を言うところは、やっぱりレイスだ。


「ねぇ、レイス。私は、王族としてのレイスの邪魔にならない? 私が魔物だという噂もあるの」
「それなら、いくらでも証明できるよ。僕はこの身体でも、光魔法が使えるからね」

 魔物なら、弱い光魔法でも火傷程度は負ってしまう。

「アリィは、僕の光を触れるよね?」
「……触れるわ」

 レイスの手のひらに浮かんだ光。少し不安になりながら触れても、ほんのりとした暖かさしか感じなかった。

「君は魔物じゃなくて、僕は幽霊じゃない」

 ぎゅっと手を握られて、その手をレイスの頬に導かれる。

「これからは、君に触れて、手を繋いで、ずっと一緒に歩いていける。夢みたいだ」

 指を絡めて繋ぎ、ぎゅっぎゅっと何度も握るレイスが可愛い。


 手を繋いだまま、レイスは片手をベンチの下に伸ばす。現れた四角くて固い鞄の中からは、一枚の紙が出てきた。

「これにサインしたら、まずは婚約が成立するんだけど……」
「どうしてそんなに不安そうな顔してるのよ」

 おず、と差し出された紙に、迷わずサインをした。

「実体があると心臓がドキドキして、不安が大きくなってしまって……」
「まだ色々と違和感があるのね。はい、ここにサインして?」
「アリィは頼もしいな」

 レイスは苦笑して、綺麗な文字でサインをする。そして鞄に入っていたベルを鳴らすと、ひとりの男性が現れた。

「国王陛下のサインもある。確認してくれ」
「……確認いたしました。婚約を認めます」
「ありがとう」

 男性は紙を持って去って行き、レイスは輝く笑顔を浮かべた。


「神官が認めた。これで僕たちは婚約者だよ」
「今の……神殿の、神官様?」
「そうだよ。温室の入り口に待機して貰ってたんだ」
「そういえば、サインした紙に別のサインがあったわね」
「婚約を強要しないという約束で、先に父からサインを貰ってたんだ」
「私が了承しなかったらどうするつもりだったの?」
「してくれると思ってたから」

 にっこりと笑ったレイスは、じわじわと視線を落とす。

「……嘘。してくれるまで、泣いて縋ってでもお願いするつもりだったよ」
「っ……もう少し渋ったら、そんな可愛いレイスが見られたのね……」
「渋られたら号泣してたかも」

(レイス、すごく可愛いわ)

 実体がなかった頃も可愛かったけど、今はもっと可愛い。ジッと見つめていると、あまり見ないでと頬を染めた。


「僕たちはもう婚約したから、今日はここに泊まっても問題ないよ」
「レイスとずっと一緒にいられるのね」
「一緒にご飯を食べる約束も、叶えられるね」
「嬉しいわ」

 思わず飛びつくと、暖かい腕にしっかりと抱きとめられた。

「それに私だけじゃなくて、レイスも一緒に眠れるのね」
「え」
「私だけ眠って申し訳ないと思っていたの。退屈だったでしょう?」
「それは別に……」
「レイスが一緒なら、またあの頃みたいに安心して眠れるわ」

 この二年間、悪夢を見る日も多かった。でも今はレイスに再会できて、一緒にいられる。悪夢を見る理由がない。

「……手を握っててあげるから、安心して寝なよ」
「ありがとう、レイス」

 レイスは何故か溜め息をついたけれど、すぐに微笑んで、「僕がいるから大丈夫だよ」と言ってくれた。



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