捨てられた令嬢と幽霊王子

柊木 ひなき

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28.記憶

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「僕が実体化できたらどうするの……って、前に言ったんだけどな」

 アリィはすやすやと眠っている。もしかしてアリィの好きは、友情の好きじゃないのかな?
 すごく心配だし胸がズキッとしたけど、それはアリィが起きてから聞いてみよう。僕たちは、これからもずっと一緒にいられるんだから。


 呪いは解けて、僕は解放されて、生まれ変わることができた。アリィはあの山を出て、こうして生きている。

「もう二度と、君を失わずに済むんだ……」

 記憶を取り戻して、分かったことがある。
 あの山で出逢った女の子たちは、みんなアリィの前世だった。僕がいるから……何度も、悲惨な死を繰り返していた。

 最初の子は、偶然迷い込んだのかもしれない。きっと僕のせいで、呪いに巻き込んでしまったんだ。
 それはただの推測。まだ全てを思い出せていない。

 アリィが知ったら、僕を憎むだろうか。
 話さなくてはと思うのに……憎まれるより、アリィが悲惨な死を迎えた記憶を思い出してしまう方が、怖い。


「ん……レイス……?」
「アリィ、ごめん。起こしちゃったね」
「……いいのよ、――……」
「っ……」

 おやすみ、と言って、アリィはまた寝息を立て始めた。
 ……彼女が呼んだ、名。

「そうか、君は……」

 やっと、全てを思い出した。
 出逢う度に感じていた心地よさの理由も、愛しさの理由も。
 君は僕が……、世界よりも愛した、たった一人の大切な人。


「呪いをかけられたのは、俺たちだった……」

 最初に呪いを掛けられたのは、君だった。何度も生まれ変わり、悲惨な死を繰り返す呪い。
 この光は、君のものだった。呪いに全てが蝕まれる前に、君はこの力を俺に託して、姿を消した。だからこの力が呪いに効かないことを、記憶のない僕は知っていた。

 君のいない世界には、耐えられなかった。
 聖女として生きた君の想いを、託された力を、俺は世界のために使えなかった。
 弟の企みに気付きながら……君が生と死を繰り返すあの監獄に、俺は自ら囚われることを望んだ。たとえ触れられなくても、記憶を失っても、また君に会いたかった。


『生まれ変わったら、あなたと一緒に世界中を旅したいわ』


 それは、君が願ったことだった。
 国のために生きる定めの俺たちには、叶えられない願いだった。見たこともない来世に願いを託して、夢を描いて……俺たちはただ、少ない時間を寄り添って過ごすだけで幸せだった。
 君が生きていれば、それだけで幸せだったのに……



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