ひとりで生きたいわけじゃない

秋野小窓

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【5】リスタート

5-2:直居side

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「あの、城崎さん、これって……」
「ん?俺のだけど、手元にあっても使わないから、直居君が代わりに使ってくれると嬉しいな」

 あくまでプレゼントではなく、所有権は城崎さんにある、ということか。こんなの、断れないじゃないか……。

「……ありがとうございます」
「こちらこそ、着てくれてありがとう」
「でも、なんでスーツなんですか?」
「んー?あのスーツ、もう着たくないんじゃないかと思って」
「あ………」

 リクルートスーツ。最後に着たのは、鉾田さんと会ったときだ。見ると事件のことを思い出すから、クリーニングにも出さずにしまってあった。

「城崎さん……」

 あったかい気持ちと、申し訳なさと、感謝と、いろいろな感情で胸がいっぱいになり言葉にならない。

「ついでにネクタイも見ようか」
「えっ、あっ、ネクタイは自分で買います!」
「うん。1本は誕生日プレゼントね」
「誕生日は旅行連れていってもらったんで!」
「え?あれは俺の旅行についてきてもらっただけだよ」

 この人は……どこまで僕を甘やかすんだろう。

「今日はネクタイは1本で大丈夫です!そして自分で買います!」

 強引な城崎さんにはきちんと主張しないと。

「そう?じゃあ今度、俺のお下がりあげようか」
「え!ネクタイですか?」
「うん」

 それは嬉しい。城崎さんのお下がりっていうだけで、就活上手くいきそうじゃないか!

「ありがとうございます、嬉しいです」

 素直にお礼を言うと、城崎さんも嬉しそうだ。

 無難なブルー系のネクタイを1本買い、“城崎さんの”スーツと一緒に包んでもらう。もともと使っていたネクタイよりも高かったが、このスーツに合わせるなら、と思うと気にならない。お礼を言って城崎さんと別れ、そのままバイトに向かった。
 バイト中、あのスーツの着心地を何度も思い出した。他の就活生とは違う、僕だけのスーツ。事件からしばらく就活のことを考えるのを避けてきたが、また動き出せそうな気がした。
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